不思議活性

詩と漫画 『つげ義春漫画・無能の人と私』

  『つげ義春漫画・無能の人と私』 
   

 私が漫画に熱中していたのは高校生の頃までで、社会人となってからは、漫画をさっぱり読まなくなったのです。で、つげ義春漫画の『無能の人』を知ったのは、だいぶ新しい話なのですが・・・。と、以前、書いていたのですが。
 記憶をたどってみました。私がふるさとに戻って来たのは、1981年(昭和56年)27歳のときでした。『無能の人』は、1987年(昭和62年)日本文芸社発行とありますが、私が『無能の人』に出会ったのは2003年(平成15年)頃だったかな。歯医者さんの待合室での本棚で、『無能の人』を手にしたのです。ああ、懐かしい「つげ義春漫画」との再会でした。高校生の頃読んだ『ねじ式』『紅い花』以来でした。
 どこか古い感じのする懐かしい「つげ義春漫画」です。その本『無能の人』を、パラパラと読んでいると、歯医者さんに呼ばれ、診察室に入っていったので、その後の数回の歯医者さん通いの待合時間にその本『無能の人』を読んだのでした。あれから、20年が過ぎたでしょうか。今、改めて、手にする「つげ義春漫画」の『無能の人』の紹介です。

  『無能の人』 1985年(昭和60年)9月


 主人公助川は、中古カメラ業、古物商などの商売がことごとく失敗し、今は多摩川の川原で、拾った石を掘っ立て小屋に並べ、石を売る商売を始めたのでした。そして、ある日、古本業者の山井から、石の愛好家の専門誌を貰った助川は、石のオークションに自分の石を出品しようと主催者の「美石狂会」の石山とその妻のたつ子を訪問することになり、採石した石を抱え、オークションに参加したのです。それが、予想した通りと言おうか、結局石はひとつも売れず、家族で絶望する物語なのです。


  『探石行』 1986年(昭和61年)3月


 古本業者の山井に、思いがけなく助川の原画を欲しいと言う客があり、3万円の臨時収入を得た助川です。そこで、助川は商売繁盛の目論見で採石と家族旅行を兼ねて、甲州に出かけるのでした。
 当初は妻も上機嫌だったのですが、ことがスムーズに運ばなくなると夫婦げんかの連続となり、なんとかたどり着いた鉱泉宿はムードもなく妻はさらに不機嫌に。
 終わりのシーンでは、布団に入った妻が「これから私たちどうなるのかしら」と言うのですが。どこからか虚無僧の吹く寂しげな尺八の音が、「プオー・・・」と聴こえてきたのです・・・・。



  『蒸発』 1986年(昭和61年)12月



 『蒸発』ですが、信州伊那谷を中心に活動し、放浪と漂泊を主題とした俳句を詠み続けた19世紀中期から末期の俳人「井上 井月」が登場します。
 河原で石を売る助川は、病人のふりをしながらよたよた歩く無為徒食の古書店主人山井からむりやり貸し付けられた『漂泊俳人 井月全集』を読んだのでした。そして、つげ義春は、その漂泊の俳人・井月の半生をその死まで描きつつ、井月に自分や助川の姿を重ね合わせ、感慨にふけるというストーリーになっています。
 最後は「井月も山井も大馬鹿ものだよ……」という主人公助川のセリフで締めくくられているのですが、やはり、つげ義春は、井月と自分を重ね合わせて見ているのでしょうか。
 私は、漂泊の俳人というと、松尾芭蕉や種田山頭火などの名前が浮んできますが、つげ義春さん自身、各地を旅しているようで、つげ義春さん自身も漂泊の人かなと思ったのでした。


・私が最初に「つげ義春漫画」に出会ったのは1968年(昭和43年)発行の月刊漫画ガロ6月増刊号『つげ義春特集』でした。この作品集『無能の人』は1987年(昭和62年)発行とあり、『つげ義春特集』から約20年たっており、その後の「つげ義春漫画」は、『ねじ式・紅い花など』の少年の世界から進んで、登場人物は人生に疲れた厭世的な大人となっています。

 そう、私がこの『無能の人』に初めて歯医者さんの待合室で出会ったのは50歳頃であったのですが。この『無能の人』の発行は、つげ義春さん自身50歳頃のことだったのです。そんなわけもあってか、今回、改めてこの『無能の人』を読んだ私は、この『無能の人』に、妙に不思議な共感を覚えるのです。
 また、この作品集『無能の人』を発行以後、つげ義春さんは、新たな作品を描いていないのです。そして、私自身、油絵を描かなくなった(描けなくなった)のも50歳の頃であり、なんか不思議な符合を勝手ながら思った私ではあります。
 
 1937年生まれのつげ義春さんは、現在87歳。実際にお会いしたことはありませんが、描かれた漫画にはいつも不思議な親近感を覚えます。つげ義春漫画に出会うということは、生きていることの一つの温かな愛に出会うことかなと思う私なのです・・・・。

                     
                       

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