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巡りくる 澄み渡る
秋の青空は
別れた 遠い日の
恋人たちの想い出を
・・・・
それにしても
この廃墟での
春を幾度 迎えたでしょう
今はこの世から消えてしまったのですが、解体される最後まで、潔く高原の美しい自然のなかに包まれてあったのです・・・。
堀辰雄の『美しい村』より。
或る小高い丘の頂きにあるお天狗様のところまで登って見ようと思って、私は、去年の落葉ですっかり地肌の見えないほど埋まっているやや急な山径をガサガサと音させながら上って行ったが、だんだんその落葉の量が増して行って、私の靴がその中に気味悪いくらい深く入るようになり、腐った葉の湿り気がその靴のなかまで滲み込んで来そうに思えたので、私はよっぽどそのまま引っ返そうかと思った時分になって、雑木林の中からその見棄てられた家が不意に私の目の前に立ち現れたのであった。
また、立原道造の『萱草に寄す』より。
夢はいつもかへつて行つた 山の麓のさびしい村に
水引草に風がたち
草ひばりのうたひやまない
しづまりかへつた午さがりの林道を
・続きは次回に・・・・。