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『オルガス伯の埋葬』
円熟期を代表する作品のひとつに《オルガス伯の埋葬》(1586年)があり、作品上部は天界を描写し幻想的に、いっぽう下部の埋葬の様子は写実的に描き分け、画家の名声を確かなものにした。とあるように、グレコ45歳の作品だろうか。
解説より。
居並ぶ人びとの顔はまことに静かそのものであるが、手の方は雄弁この上ない。画面の下半分は、静かにリズムが波打っているのに対して、上半分は渦巻き旋回する。まったく偶然の出来事を見るような迫真性。ここではすべてが目撃という心理的な世界に組み込まれているのだ。
ここに列席している人びとの顔色の燦然とした美しさ、メランコリー、やさしさは、古代ギリシアへ寄せる想い出なのであろうか。あるいはまた、この作品は、生活における一切の暴力、とくにこのトレードの地で、宗教裁判の犠牲者たちが刑の執行をうけたとき、グレコがいやというほど見せつけられた美しい顔、美しい体の処刑や破壊など、一切の暴力に対する彼の抗議なのだろうか。
然り。それはやむにやまれぬ真情を吐露したものなのだ。
死とは、根源的初原的な静への降下にほかならい、とグレコは述べている。
画面中央の、いまだ混沌として形をなしていない、さなぎともいうべき赤ん坊の霊魂は、天使に運ばれて天上界へ通じる幾多の曲りくねった道をとおらなければならない。こうしてはじめて、天上の花園の中心へ到達できるのであり、そこには裁き人たるキリストが、左右に聖母と洗礼者ヨハネを伴い、天使や聖者たちからなる大聖歌隊を統率して待ち構える。
・続きは次回に・・・・。