第二十四首
このたびは ぬさもとりあへず 手向山
紅葉のにしき 神のまにまに
菅家
菅原道真 (845-903) 天皇に重用され右大臣に至るが、政略により太宰府へ左遷された。
部位 羈旅 出典 古今集
主題
手向山の紅葉を幣としてささげること
歌意
このたびの旅は急なお出掛けのため、お供えの幣帛の用意もできていません。とりあえず、この手向山の美しい紅葉の錦を幣帛として神よ、御心のままにお受け取りください。
ぬさとは、神に祈る時に捧げ、また祓いに使う、紙・麻などで切って垂らしたもの。幣帛(へいはく)とは、広義には神に奉るものの総称であり、狭義には神饌を覗いた奉りものを言う。
紅葉の美しい景色を正面から歌わないで、理知的にとらえるよみぶりが、現代人の鑑賞眼からは好まれないが、紅葉の錦を幣として神に捧げようという着想が、当時の人々に喜ばれ、貫之も、「秋の山もみぢをぬさとたむくれば住むわれさへぞ旅心ちする」の類歌をよんでいる。
当代随一の漢学者で、詩文は『菅家文草』『菅家後集』に収められ、和歌にもすぐれ、『新撰万葉集』の編者。後世天満天神として崇められ、後人の手になる家集が多い。