アメージング アマデウス

天才少年ウルフィは成長するにつれ、加速度的に能力を開発させて行きました。死後もなお驚異の進化は続いています。

火麻呂伝

2016-12-12 03:46:27 | 説話
 吉志火麻呂は武蔵国多摩郡鴨野里の人、母は日下部真刀自である。母は生まれつき信心深く善行を心がけていた。

 聖武天皇の御世、火麻呂は大伴氏に命じられて九州防備の防人に徴用された。防人の任期は三年である。
 母は子について入って共に暮らし、妻は国に留まって家を守った。
 九州に赴任した火麻呂は、妻と別れてから恋しくてたまらず、母を殺して喪に服す事で役を免れて妻と暮らそうと思いついた。
 子は母に語った。
「東方の山の中で、七日間の法華講が有ります。母刀自、聞きに行きましょう」
 母は欺されてしまいます。仏陀の悟りを得ようと決意して湯で体を洗い清め、共に山の中に入って行った。
 火麻呂は牛のような目付きで母・真刀自を睨んで、
「汝、地に跪け」と言った。
 母は子の顔を見詰めて、
「どうしてそんなことを言うのか。お前は鬼にでも取り憑かれたのか」と言った。
 それでも、火麻呂は刀を抜いて母を殺そうとした。
 母は直ぐに子の前に跪いて哀願した。
「木を植えるのは、木の実をとり、木陰にかくれるためです。子供を養うのは、子の力を借り、子に養われるためです。たよりにしていた木から雨が漏るように、思いもかけず、おかしな気を起こしたのですか」
 火麻呂はついに聞き入れなかった。
 そこで母は嘆いて、身に着けていた衣を脱いで三カ所に六お気、子の前に跪いて、こう遺言をした。
「わたしの為に包んでおくれ。一つの衣は兄のお前が取りなさい。一つの衣は弟にやりなさい。一つの衣は末の弟にやりなそーさい」
 極悪の子は前に出て母の首を切ろうとした。
 その途端、大地が裂けて火麻呂はその中に落ち込んだ。
 母は直ぐに立ち上がって進み、落ちる子の髪ををつかみ、天を仰ぎ、
「この子は憑きものにつかれてしたので、正気では有りません。どうか罪をお許し下さい」と訴えた。なおも髪を握って子を引き留めようとしたが、子はついに落ちてしまった。
 慈悲深い火麻呂の母真刀自は髪を喪もって家に帰り、子の為に仏事を営み、むその髪を箱に入れて仏像の前に置き、僧を招きお経を詠んで貰った。
 母の慈悲は深い。深いが為に極悪の子にあわれみをかけ、子の為に善行を行ったのである。不幸の罪の報いはすぐにやって来る。極悪の報いは必ずあることがこれで分かる。
     日本霊異記、平凡社版を参照。なお、この話今昔物語にも引用むされいいます。   
       2016年12月12日    Gorou


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