アメージング アマデウス

天才少年ウルフィは成長するにつれ、加速度的に能力を開発させて行きました。死後もなお驚異の進化は続いています。

丘の上のマリア Ⅴ 小早川真③

2016-12-31 19:56:05 | 物語

 こんな夢を見た。
 胡座をかいてベッドに座っていると、暗闇の向こうで何かが輝いている。
 じっと見詰めると、真が藻掻きながら走っているのが見えた。
 溢れる光の中で誰かが佇んでいた。
走っても、走っても、彼女の姿に近づけ無い。いつも恋していた女性に違い
ない。
 女性が真の方を見た。矢張り陽子だ。娘の手を引いてるが、その娘は真から
背を向け続けていた。
 ベッドで目が覚めた。
 跳ね起きて浴室に駆け込む真、顔へジャブジャブと水を被せて鏡を見た。
「俺は何をしているんだ。指定された時間にのこのこと出かければ、罠に掛か
って殺されるだけだ」
 真はいまや銃撃戦を覚悟していた。吉溝か公安に助けを呼ぶのが正しい選択
だと分かっていたが、恩有る石井を助ける為に掛けに出る決心をしていた。
 部屋に戻って時間を確認する真、十時半、まだ十分に時間は残されている。
身支度を調える真、念のために防弾チョッキも着た。夏用に彼自身が工夫して
薄くなっているので、効果は期待できない。
 拳銃を手に持つ真、サイレンサーを外した。派手な音がした方が警官の真に
は有利なのだ。

 午前一時少し前、真は須崎埠頭を天神方向から北の海側へと歩いていた。下
調べで全てを裸にして有った。人が潜むとしたら何処かも分かっていた
 真は敢えてその方を見ないで拳銃を持つ右手を背中に隠した。
 ゆっくりと、姿勢を崩さないように注意して歩く真、別々の方向から気配が
した。
 真は不意に近い方に振り向いて発砲した。
 バキューン、プシューン。二つの銃声がした。
 右肩を打ち抜かれた真が倒れ込んだ。
 真をライフルで撃った男は額を打ち抜かれて絶命していた。
 倒れた真に向かってくる足音。
 真はそっと拳銃を左手に移し、死んだかのようにグッタリ止め
としてみせた。
 男は真が死んだのか確認をしようと近づいてくる。
 間抜けな男だ。生き残る為には確認など取らずに止めを刺すべきなのだ。
 真は不意を突いて男を撃った。が、男のライフルも火を噴いていた。今度は
左足を打ち抜かれたが、男は絶命していた。
 目を閉じて精神を集中する真。これで終わった分けでは無い、最低でもあと
一人、石井が残っている。
 暫くの間静寂だけが漂っていた。
 不覚にも痛みで気を失いかける真、歯を食いしばって必死に堪えた。
 コツコツと一人の男が近づいて来た。以外なのは海側からで無く天神方面か
らだった。十メートル、五メートル。
 真はようやく目を開けて男を見た。暗闇では石井とは認が出来ない。だが、
拳銃を構えているのは分かった。
「久し振りだなあコバ。お前が左でもあんなに上手いとは知らなかった。あ
あ、思い出したよ、俺はお前が生まれつきは左利きで矯正されたんだろう?」
 更に歩き続け、三メートル程で立ち止まった。
「ここまでは計算通りだ。どうする? コバ、お前には二つの選択種が有る。
一つは俺と共謀してブツをせしめるか。まあ三分の一位はやっても良い、末端
価格で百億にはなる覚醒剤だ。一つは俺がお前を殺して独り占めするか」
「選択種はもう一つ有るじゃないか! 石井さん」
「無い」と言い捨ててニヒルに笑う石井、そんな石井の相貌には克っての面影
は残って居なかった。身体もやせ細っていた。
 海風が真に石井の体臭を届けて呉れた。覚醒剤に蝕まれた者の、あの饐えた
臭いだ。
 真は石井の苦悩を感じ取った。そして石井さんは俺が決して拳銃を引かない
と確信しているに違いない。
「俺はなコバ、ようやくお前を憎む事が出来るようになった。お前に陽子と雅
子をやるわけにはいかない。・・・実は選択種なんて無いんだよ」
 須崎埠頭に二発の銃弾が木霊した。
 小早川真の意識が薄れていった。
     2016年12月31日   Gorou

あめゆじゅとてちてけんじや

2016-12-30 07:21:19 | 文化
 宮沢賢治は愛する妹トシ達の為に数多の童話を書いた。
 皮肉な事に、後世では子供のための読み物というより、大人が読むための童話になった。

 けふのうちに
 とほくへいってしまふわたくしのいもうとよ
 みぞれがふっておもてはへんにあかるいのだ
 あめゆじゅとてちてけんじゃ
 (永訣の朝)

 1922年、宮沢賢治が愛する妹トシとの永訣を想って書いた詩である。
 トシがけんじゃと呼ぶ宮沢賢治は生涯を教師として過ごした。
 けんじゃが稼いだ原稿料はたった五円だったと伝わっている。
 けんじゃの不幸は、雨にも負けずの詩が当時の軍国主義の精神と酷似していた事だ。
 けんじゃは、そういう者に成りたかっただけで、軍国主義者達はそういう者を創りたかった。
 宮沢賢治の物書きとしての凄みは、晩年農民の相談を受けた時、メモした物がそのまま詩に成っていた事だ。

 宮沢賢治より三十年ほど前に生を受けた正岡子規は晩年を新聞記者としての給料二十円だけで生計とした。原稿料は勿論、印税などの無い時代だった。子規も又、生涯教育者として生きた。
 子規は弟子を教え、友人達(夏目漱石もその一人)の書いた物を添削した。
 子規は絶えず物を書いていた。漱石が手紙で忠告した程だ。
「御前の如く朝から晩まで書き続けていては此ideaを養う余地なからんかと懸念仕る也」
 子規の膨大な創作を後世に伝えたのが妹リツだ。
「兄が肺病になってどうにもならぬ。看病のために一日おきに帰らせて貰う」と、夫に宣言したリツはそれを実行した。結果二度目の離婚となった。
 リツは幼い時から兄思いだった。子規は幼年期は弱虫で、よく泣かされて帰った。そんな時リツは「兄ちゃまのかたき」と言って飛び出したという。
 そのリツを兄がこう書いている。
「兄ノ看病人トナリ了レリ」
 子規はリツを嘲笑しているのでは無く、リツの看病なしでは生きられぬ己を比喩しているのだ。リツは子規の晩年七年間を支え続けた。
 子規の母八重は、子規とリツをそれぞれ、ノボさん、リーさんと呼んだ。
 リツも兄をノボさんと呼んだかも知れない。
 そんなノボさんは、けんじゃが妹を偲んだようにはリツを想はない。先に他界したからだ。
 子規はリツを酷評する。
「律ハ強情也。人間ニ向ツテ冷淡也」
 この文章の陰にはリツへの愛情が溢れている。
 更に子規はリツを批判する。
「終ニ兄ノ看病人トナリ了レリ」
 リツとトシの違いは、教育の違いだ。リツは小学年までの教育を受けていなかったが、トシは晩年教師となった位だ。

 けんじゃは私たちに数多の珠玉の童話と詩を残して呉れ、ノボさんは一度壊れた日本語を残して呉れた。
 正岡子規と宮沢賢治、わたしは二人が良く似ていると思っている。子規は朗らかで賢治は暗い。
 それでも似ている。
 私は二人を思う時。二人の妹が頭に浮かび。
「涙ガ止マラナク成ツテ了ウノダ」
    2016年12月30日    Gorou
 

磐嶋と鬼の三兄弟

2016-12-29 11:20:50 | 伝奇小説
 天平勝宝元年(749)五月二十日、時の聖武天皇は詔して東大寺初め十の大寺に大層な財宝を喜捨なさった。
 十寺は大いに潤い、その恩恵は庶民にまで及んだと云う。

 左京六条五坊の住人楢磐嶋(ならのいわしま)は大安寺から銭三十貫を借りて、越前敦賀で商いをした。
 磐嶋が商品を馬の背中に乗せて奈良へと急いだ。
 滋賀辛前の手前で日が沈んだが、磐嶋は構わず馬をいそがせた。一町ほど後ろから足音が聞こえて来たからだ。
 いつの間にか一人の鬼が並んで走っていた。背は鬼のように高く無いが、手足が長く見事に発達した筋肉を持っていて、誰よりも早く走れるのだ。
「俺は焔魔堂に使える南血麻呂という鬼だ。腹が減った、何か食わせろ」
 磐嶋は観念して、馬を止めて干飯を鬼に食わせた。
 そうしている内に、後の二人も追いついてきた。
「ナカチ、お前一人で食っちまったのか」と、おそろしく背の高い鬼が唾を飲み込んで言った。
 もう一人の鬼は巨体を揺すってゼイゼイと息を切らしていた。
「俺たちだって腹を空かしているんだ。そうだこいつを食ってしまおう」
「おい弟、俺たちは此奴を連れて来るように命令されているだけだ。鎚麻呂」
「そうだ兄貴、此奴を逃がしたら、俺たちが代わりに罰を受ける」
 磐嶋が恐る恐る口を挟んだ。
「あのう、明日の夜明けまでには大分時間が有ります。これから家に来ませんか? 美味しい物をたらふくご馳走しますから」
 鬼の三兄弟は互いに顔を見あわせて満足げに頷いています。

 磐嶋は鬼の三兄弟を歓待しました。
 酌は美しい妻がし、夫の磐嶋は次々とご馳走責め。
 次の間で、娘が恐ろしさの余り、しくしくと鳴いていました。
 長兄の高佐麻呂が気付いたようです。
「誰か泣いているようだ」
「どうかお許し下さい。娘だけは見逃して下さいませ」
「年は?」
「まだ八つになったばかりです」と、磐嶋が斧を抱えて身構えました。
「俺も昔妻と娘がいた。妻は恋しいものだ。娘はいとおしいものだ」
「そんなに怒るな磐嶋、お前が鬼の三兄弟に勝てる分けが無い。・・・お前は何年の生まれだ?」
 磐嶋は南血麻呂にこう答えた。
「戊寅です」
「兄者たち、いざかや神社の易者が同じ生まれです。あの悪たれを代わりに連れて行こう」「お前からは随分ご馳走になった。このナカチも承知」
「決めた。そのインチキ易者を代わりに連れて行こう。その代わり、生駒仙房の竹林の奥に俺たちの墓が有る。時々でいいからお経の一つもあげてくれ」

 鬼の三兄弟は夜明け前に磐嶋の家を出て行きました。

 磐嶋は、そんな約束は忘れてせっせと商売に励んでいましたが、妻と娘は三兄弟の墓を見つけ出して手厚く弔いました。
 
 一方、鬼の三兄弟。嘘が露見して閻魔大王の前に引き据えられました。
「お前たちに罰を与える。一番恐ろしい無限地獄で永遠に彷徨うが良い」
 未だに彷徨い続ける三兄弟は時々この世に出現するそうです。
 そんな時、どうすれば良いか? あなたに分かっていますよね。
 そうです。賄賂と気付かれずに歓待するのです。
2016年12月29日    Gorou

丘の上のマリア Ⅴ 小早川真②

2016-12-27 14:20:44 | 物語

 小早川真は本来剛毅な男だったが、石井とコンビを組んでからは、慎重で入
念な習性を身に付けていた。
 函館から大阪までは本名を使い、石井の指示通りにある暴力団でパスポート
等の身分証明書一式と拳銃を手に入れた。
 パスポートを一瞥した真は苦笑を禁じ得なかった。小川真一郎と言う名だっ
たからだ。
「その名前、気に入ら無えんですか?」
「いや、名などどうでも良い」
「そいつは本物です、最低でも一ヶ月は何の心配ねえ」
「どう言う意味だ?」
 男はニタニタ笑いながら、倉庫の外に流れる河、いや、その先の大阪湾を見
やった。多分、小川真一郎は海の底に沈んでいるのだ。
「拳銃、試して良いか?」
 無言のまま、男は倉庫の鉄扉を閉め、真から十メートル程離れたドラム缶の
上に空き缶を並べた。
 試射をする真、感触は良好だ。癖の少ない拳銃だった。
 真はアトランタの五十メートルピストルの強化選手に選ばれた程の腕を持っ
ていた。石井が彼を選んだのもその腕を買ったからだろうと思ったが、それは
二人にとって危険な賭だ。

 真は拳銃は宅急便で博多のホテルに送り、自分の携帯も持ち歩く分けにいか
ないと思い、地下街のロッカーに預けようと決めたが、一応メッセージを確認
した。
「吉溝だ、十日も休暇をとって何するつもりだ」
「公安も躍起になってお前を捜してるぞ」
 メッセージは全て吉溝からだった。
「今、大阪にいるのは分かってる。兎に角連絡を呉れ」
 電波が届かぬのを確認し、電源をオフにして、真は携帯をロッカーに放り込
んだ。
 大阪からソウル、ソウルから福岡、そして博多に入った。
 その間、神経質なまでに尾行に気配りをした。公安のマークよりも、石井の
手先を警戒していたからだ。
 尾行は無かった。しかし、指定されたホテルの前に怪しげな車が停車してい
た。尾行では無く、待ち伏せていたのだ。

 丸二日経っても連絡は無かった。
 真は内心焦り、イライラとしていた。ホテルの冷房が真夏だというのに効か
なかったからかも知れない。
 夕方、我慢の限界を感じ、窓を開け放った。涼しい風が心地よかった。
 カーテンに隠れて怪しい車を捜したが、今は居なかった。
 その時、携帯が鳴った。
 真は頭の中で、ゆっくりと五つ数えてから携帯に出た。
「久し振りだな」
 石井とは思えぬほど掠れた声だ。
「尾行はまいたようだな」
 相変わらず慎重な男だ。二日の間、様子を伺っていたのだ。
「そんなヘマはしません。石井さん」
「言い忘れたが,今は新井と名乗っている。覚えといて呉れ」
「新井ですか?」と惚けた。
「俺だって小川にされてます」
「本物の身分証の為だ。お前の持っているのは全部正真正銘の免許書とパスポ
ートだ。今夜一時に須崎埠頭の西側の海側に向かって歩いて来るんだ。拳銃忘
れるなよ」
「必要になるんですか?」
「さあな、お前次第だ」
 一時までには大分時間がある。真はギシギシと軋むベッドに横たわって思案
を巡らせた。足首から先がはみ出していた。
 拳銃が必要になる? どういう事だろう? 石井さんは何を企んで居るの
だ。それにしても変わり果てた声音だった。余程辛苦を味わったのだろう。心
が痛んだ。半分は俺が原因を創った。
 石井さんは、やはり陽子の事を気づいていた。雅子の父親が俺だとも気付い
ていた。
   2016年12月27日 Gorou

丘の上のマリア Ⅴ 小早川真①

2016-12-27 14:14:48 | 物語
小早川真


 T電力OL殺人事件はネスタの無期懲役で解決したと、誰もが思っていまし
たが、一人だけ真犯人の究明を諦めない男がいた。初動捜査から外されて函館
に左遷された小早川真である。
 二三か月で渋谷署に復帰させると署長が約束していたに関わらず、真は函館
で勤務し続けた。
 事件から十年後、2009年、未だに真は函館に居た。

 何年ぶりだろうか? 石井陽子から電話があった。
「真さん、最近石井と連絡取っている?」
「いや、全くご無沙汰です」
「何とか石井と連絡取れないかしら。生活費はキチンと送って呉れていたのの
だけれど。・・・今月は三百万もの大金が入金されていたの。私何だか心配だ
わ。悪いことに首でも突っ込まなければ、こんなお金、刑事には出来ないわよ
ね」
「分かりました。実は俺も石井さんの電話知らないんです。何とか捜して見ま
す」
 真は、雅子がどうしているか? 聞きたかったが、口に出せなかった。今で
は、あの娘の父親は自分だと思っていた。石井さんも気付いている。だから妻
の陽子からも真からも身を隠しているに違いない。

 陽子の電話で不安に駆られる真は、直ぐに東京の吉溝に連絡した。
「俺も連絡先は知らん。公安だったら知ってるだろう」
 公安と聞いて不安が走る真。
「石井さんは危険な任務に就いているんですか?」
「ああ、麻薬組織の潜入捜査だ」

 石井は左遷先の博多に直接行かず、京都でホームレスの一団に紛れた。博多
の麻薬組織の本部がここにあったからだ。名前も新井と変えた。
 石井は強盗や恐喝など、悪事を働きながらチャンスを待った。
 石井が組織に潜り込むのに四年かかり、目的の博多に配置されるまで二年か

った。その頃、彼はすっかり麻薬に犯されていた。組織を信用させる為だ。

 一週間後、真は帰宅途中で何者かに尾行されていた。
 ビルの影で男を待ち伏せした。
 尾行相手が消えたのに慌てて、男は小走りで近づいて来る。
 男が路地にさしかかると、すかさず後ろから首に腕を巻き付けた。
「何故、つける」
 男は足をばたつかせて真の腕を叩いた、腕の力を緩めろと言っているのだ。
 やや腕の力を真が緩めると。ようやく声を出した。
「新井さんに頼まれました」
「新井? 知らんな。どんな男だ」
「中肉中背、年は六十代半ば、髪は金色に染めている」
「そんな男は知らない」
 石井が新井と偽名を使っていることは吉溝から聞かされていたが、特徴は明
らかに他の男の物だ。石井はかなり太っていたし、まだ五十三だ。
「まあいい。詳しい話を聞こうか」

 真は男を空き事務所に連れ込んで跪かせた。
「俺は遠藤と言います」
 立ったままで男を見下ろした真が言った。
「名前なんかどうでもいい。新井との関係は」
「京都で命を助けられました。博多でも世話になってます」
「新井の子分なのか?」
 首を振る男。
「組織の鉄砲玉か?」
「とんでもない。これでも堅気です」
「堅気のお前が何故新井の使者になった」
「これでも、義理堅いんです。恩義を決して忘れない」
「ふざけるな」
「本当はこれです」
 男は札束の入った封筒を取り出した。かなり厚みがあった。
「それから、これはあんたへの手紙と金だ。新井さんは大仕事の為の資金だと
言っていました」
 手紙と札束を受け取る真、束を数えると三つ有った。この男が本当の事を言
ってたしたら、石井さんは,最低一千万もの金を手に入れていた事になる。
 手紙の封を切った真が男を睨み付けた。
「読んだのか?」
「とんでも有りません」
 更に鋭く睨み付けると、男は下を向いた。
 手紙に目を通す真。
 手紙には、こんな事が書いて有った。
 決定的な証拠を掴んだから二人で協力して解決しよう。公安にも警察にも報
告するな。まず一週間の休暇を取って、横浜の暴力団から出所が分からない拳
銃と偽造パスポートと携帯を手に入れ、大阪からソウルに渡り、ソウルから博
多に入って連絡を待て。
 真は迷った。吉溝に報告するのが正しい判断だと分かっていたが、石井さん
が何を企んでいるのか、自分で確かめるべきだとも思った。二人で手柄をたて
て復権する気なのか、組織の鼻を明かしてブツを横取りする気なのか。あるい
は、妻と娘を奪った男に復讐する気なのか。どうしても自分で確かめたいと思
ったのだ。

 真は十日間休暇を取った。石井の指は一週間だったが、帰りに名古屋に寄っ
て、紗智子殺しの真犯人と目星をつけていたある男のアリバイを調べる為だ。

 真は新井の指示に従い、横浜から大阪、大阪からソウル、そして
ソウルから博多に入り、ホテルで待機した。ホテルとは名ばかりで薄汚れた
安ホテルだった。
   2016年12月27日   Gorou