内田光子さんが59回グラミー章クラシック部門で受賞しました。
今日はそれを記念してお話をしたいと思います。
内田光子さんは、ジェフリー・テイトとイギリス室内管弦楽団とモーツァル
トのピアノ協奏曲全集を出していて、最高の評価を得られています。
わたしも大多数を聴きましたが、残念ながら全てでは有りません。
この全集では曲により評価が分かれています。良いか悪いかでは無く、こう
いう演奏、解釈有りや否かについてです。
光子さんは引き振りで何曲か再録音しており、絶賛されておりますが、わた
しはまだ聴いていないので、・・・
今日のテーマは、モーツァルトでは無くベートーベンです。
2013年、内田光子はBBCプロムに出演しました。指揮マリス・ヤンソンのバ
イエルン放送管弦楽団で、曲がベートーベンピアノ協奏曲四番でした。
この曲は、協奏の部分が少なく、ピアノとオーケストラがテーマを受け渡
していくスタイルをとっているため、ピアノと指揮者とオーケストラの関係が
微妙に演奏に影響を与えてしまいます。
間違えるとバラバラに成ったり、バトルに陥ったりしてしまいます。そう成
らぬ為に、従来は感情をコントールした端正な演奏が多い曲です。ポリーニ・
アバド・ルーツェルンのライブがその代表です。
内田光子とヤンソンスは既成概念に挑戦します。
ピアノに座った光子の様子が尋常では有りませんでした。自ら心を奮い立た
せ、昂揚した顔が苦痛に歪んでさえいます。今にも涙が零れてしまいそうで
す。
気持ちを静めてヤンソンスに合図を送り、鍵盤の上に両手を置く光子、指に
全身の力が込められていますが、・・・穏やかなピアニッシモで語り始めまし
た。
ヤンソンスとバイエルンが絶妙のタイミングでピアノのテーマを受け、大ら
かな表情で、ピアノと観衆む包み込んでいきます。
ピアノは時には端正に、優しく、そして美しく、煌めく輝きを醸し出してい
ます。
第一楽章が終わると、光子さんは涙を拭い、気持ちを静めてからピアノに向
かい、指揮とオーケストラとピアノはお互いの音に耳を傾け、美しいハーモニ
ーを紡いで行きます。
いよいよ第三楽章です。
光子は昂揚を必死に押さえてピアノに向かいます。かなり速いテンポの楽章
なので、感傷に浸っている場合では有りません。
それでも、彼女の弾くピアノは、指の先まで繊細に神経を研ぎ澄まして美し
い音を出していました。決してバリバリと演奏技術に溺れるような音は一つと
して出しません。
演奏が終わった後、観衆からの拍手に、やっと恥ずかしそうに微笑んだ内田
光子がヤンソンスと抱擁を交わします。
弦楽奏者は皆、弓を上下に振っています。彼等にとって、それはブラボーと
叫んでいるのと同じ事なんです。
この夜のアルバートホールの観衆が羨ましいですね。滅多に聴けない、魂の
限り、命を尽くした、名演奏に出会えたのですから。
因みに、内田光子が59回グラミー賞に輝いたのは次の演奏です。
2017年2月23日 Gorou