フランクルに学ぶ―生きる意味を発見する30章斉藤 啓一日本教文社
小さいころ、今の生活は実はにせもので、お芝居なんじゃないだろうかとか、考えたことはないだろうか。私は、小学生くらいのころよくそんな夢想をふくらませていた。
それが、家庭状況のせいなのか、その年代特有のものであるのかはわからないが、“実は自分の家の天井の上に観客席があって、パッと客席の明かりがつくとみんなが見ている。それが人生なのではないか”、そんなことをよく考えていた。
おとなになり、そんな考えはずっと忘れていたのだけれど、まんざら子どもの夢だけの話ではなく、そういう思想もあるのだと知った。
フランクルは、第2次世界大戦中ナチスドイツのユダヤ人隔離絶滅政策(ホロコースト)により、ユダヤ人強制収容所に入れられながらも、からくも生きながらえた精神科医で哲学者だ。強制収容所で体験した出来事を精神科医という心理専門家の目から冷静でありながら暖かい目で執筆した『夜と霧(原題は「心理学者、強制収容所を体験する」)みすず書房』は、あまりにも有名だ。
一方で、哲学・精神医学の面でも思索を深め、ロゴセラピーという意味、言葉による療法の第一人者でもある。
『フランクルに学ぶ』は、そんなフランクルの思想の真髄を、わかりやすい言葉でわたしたちに教えてくれる。私が、今もいろいろな困難に遭遇しながらも、どこかで能天気でいられるのは、アサーティブコミュニケーションや森田ゆりさんと同時に、この本のおかげでもある。いわく「人生に何かを期待するな、人生が逆にあなたに期待しているのだ」、いわく「信じなければ、実現するものもしなくなる」「見えない観客は、私たちがどのような劇を演じていくのか、期待しながら見つめている」など、人生を考えさせてくれることばがいっぱい載っている。
私は、ついついトラブルを抱えた人に近づいて結婚までしてしまったり(笑)、しなくてもいい借金を重ねてしまうくせがあり、それらはきっと“共依存”のせいなんだろうと思っていたのだが、この本の中に、「壊れそうな家は、屋根に石を載せた方がよい。同じように重荷は人生を生きやすくする。」というようなことばがあって、とても救われた思いがした。
誰でも、いろいろな弱点があるが、それを欠点として見れば“直すべきもの”“いけないもの”となる。しかし、逆の方向から見たとき弱点はすてきな個性ともなりうる。その壊れそうなすてきな個性を活用して、宇宙とつながり生きていく。
そんなことをこの本に教えてもらった。
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