男子にとって小学校の家庭科ほど退屈な授業はないだろう。
「男が料理できるのか」
「裁縫なんかやったらカッコ悪いだろ」
「三角巾かぶれって、本当か」
授業の目的が分からない。
「男の子もこれからは食事を作る時代だよ」
母ちゃんが作るし、結婚すれば奥さんの方がうまいんじゃないの。
関係ないね、と粋がっても実はカギっ子のご身分だった。
母ちゃん帰ってくる前に米を研ぐのが仕事だった。当たり前の仕事だった。
何も知らずにゴシゴシ米を研いでいた。水がキレイになるまでね。
家庭科の先生の言葉が今でも記憶に残っている。
「お米はね、優しく研がなきゃだめなんだよ。お米の栄養が落ちちゃうから。3回までだよ。」
授業で習ったことが実社会で生きた初めての経験だったかも知れない。
「美味しいご飯だね。」
親に褒めてもらいたくて栄養が落ちないようにやさしく研いだ。
今でも研ぐのは1回だけ。
米を研いでいるといつでもあの家庭科の先生の言葉を思い出す。