警備員のバイト。
その日は交通整理ではなくて、工事現場の安全管理が任務だった。
その日の工事現場は、駐車場の木を切り倒して、スペース確保するというものだった。
重機やチェンソーで、大木を倒してる間の周囲の安全管理が私のバイト内容だった。
朝現場に到着しても、工事会社の社長がなかなか来ない。
社長自らが、重機を操る小さな工務店だった。
でも、その社長がなかなかやって来ない。
一時間ぐらい経った頃、やっと社長の車がやって来た。
驚いたのは、社長は一升瓶を片手に車を降りて来たのだった。
嘘!?飲みながら仕事するの?
一升瓶片手に重機を操作するなんて、どんだけ豪快!?
とビックリした。
しかし、それは私の勘違い。
社長は車を降りるなり、今日倒すべき大木の根元を回り、日本酒をバシャバシャ♪かけるではないか!
儀式的なものなんだと思う。
木にも命があって、それを言語道断でなぎ倒すことは、相当な辛苦があるのかもしれない。
その辛苦はとてもとても素面では受け止めきれないほどのものなのかもしれない。
同じ仕事をしている人にそのことについて話すと、
工事現場では時おり、事故がやっぱり起きる。
安全第一でもやっぱり怪我が起きる。
そういう厄払い的な意味合いもあるのだという。
ちなみにその工務店はなぎ倒した木は再利用できるものは再利用して、
残った破片なども持ち帰り、乾かして、冬のストーブ燃料として使っていた。
つまり、なぎ倒した後の最期の最期まで、やり尽くすことがせめての償いなのかもしれない。
仕事中、木の根元をチェンソーでギリギリ、切り込んでる時、近くを通行人が通った。
その通行人は現場を見るなり
「木が泣いてるよ!!!!!!!!!!!!!!」
と叫んだではないか。
たまたま感情的な人だったのかもしれない。
木の痛みを感じていたら、仕事にならない。
その時、なんで日本酒をかけたのかがわかったような気がした。
その叫び以降、現場はシュンっとなってしまったような気がした。
遠くを見ると山が連なっていた。
たくさん木が生えていた。
私は耐え切れず、「木なんてたくさん生えてるんだから大丈夫でしょ」と冗談を飛ばしてしまった。
もちろん、ただの冗談だ、弾みで出てしまった。
そういう問題じゃないということも、承知の上。
それぐらいその叫びは現場の雰囲気を暗いものにしたと感じた。
そんなバイトの思い出がある。