今回は、「出向」について説明したいと思います。
職業安定法第44条には、
「何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又は
その労働者供給事業を行う者から供給される労働者を指揮命令の下に
労働させてはならない」
と規定されています。
労働者供給事業を行ってはいけないという規定ですが、では、労働者供給
とは何かというと、職業安定法第4条第7項に、
「この法律において、「労働者供給」とは、供給契約に基づいて労働者を他
人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいい、労働者派遣事業の
適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第2条第1号
に規定する労働者派遣に該当するものを含まないものとする」
と規定されています。
簡単に言うと、労働者供給事業とは、
「自社(個人事業主の場合等も含む。以下同じ)の雇用する又は、自社の
支配従属関係にある労働者を他社(個人事業主の場合等も含む。以下
同じ)に貸し出して働かせること」
を意味します。
昔の「人足出し(にんそくだし)」や「人夫出し(にんぷだし)」などの単純労働
や重労働の労働者をあっせんする業者をイメージしていただければ分かり
やすいと思います。
上記の関係にある場合はすべて労働者供給となり、労働者派遣や出向も
労働者供給の一部となります。
つまり、ある会社に雇用又は拘束されながら、他の会社の人間から指揮命
令又は雇用されて働くことは全て『労働者供給』になり、職業安定法の44条
に抵触することになります。
しかし、労働者派遣は労働者派遣法という法律が設けられ、その法律の枠
内で労働者を適正に派遣する場合は、労働者供給には該当しません。
(職業安定法第4条第7項)
また、出向も法律に定められているわけではありませんが、出向の要件を満
たす場合は労働者供給事業には該当せず、職業安定法44条に違反しない
と考えられています。
では、出向とはどういうものかというと、労働者派遣事業関係業務取扱要領
には、
「いわゆる、出向は、出向元事業主と何らかの関係を保ちながら、出向先
事業主との間において新たな雇用契約関係に基づき相当期間継続的に
勤務する形態であるが、出向元事業主との関係から、次の二者に分類で
きる。
① 在籍型出向
出向元事業主及び出向先事業主双方との間に雇用契約関係が
ある(出向先事業主と労働者との間の雇用契約関係は通常の雇
用契約関係とは異なる独特のものである)。
形態としては、出向中は求職となり、身分関係のみが出向元事業
主との関係で残っていると認められるもの、身分関係が残っといる
だけでなく、出向中も出向元事業主が賃金の一部について支払い
義務を負うもの等多様なものがある。
なお、労働者保護関係法規等における雇用主としての責任は、出
向元事業主、出向先事業主及び出向労働者三者間の取り決めに
よって定められた権限と責任に応じて、出向元事業主又は出向先
事業主が負うこととなる。
② 移籍型出向
出向事業主との間にのみ雇用関係がある」
と規定されています。
つまり、①の在籍型出向とは、出向元との雇用契約を残しながら出向先とも
雇用契約を結んで、出向先において就業することをいい、②の移籍型出向と
はいわゆる「転籍」のことを言い、転籍後は出向元との一切の関係を持たな
い(雇用関係や指揮命令等)就業を意味します。
②の移籍型出向については、出向元との雇用関係は終了することになるの
で、一般的には出向させる際に労働者の同意を得て出向させた後は、出向
先の労働者として就業することになるだけなので、特に労働者の同意以外
の要件は必要とされていません。
①の在籍型出向については、出向元・出向先の両方と雇用契約を締結する
特殊な雇用形態であり、適正な出向を行うためには、以下の要件を満たす
必要があります。
(1) 以下の4つの目的のいずれかによって出向させていること
a 労働者を離職させるのではなく、関係会社において雇用機会を
確保するため
b 出向先の経営指導、技術指導の実施のため
c 出向労働者の職業能力開発の一環として行うため
d 企業グループ内の人事交流の一環として行うため
(2) 出向先との雇用関係が認められること
(3) 出向によって利益を生じさせていないこと
(4) 出向後、出向元に戻ってくることが明らかであること
(5) 就業規則に出向させる旨の規定があり、出向労働者の同意を得る
こと
(1)については、a~dのいずれかの目的で行われている場合は、労働者供
給事業を業(ぎょう)として行っているとまでは言えないことから、労働者供給
事業には当たらないとされています。
「a 労働者を離職させるのではなく、関係会社において雇用機会を確保する
ため」とは、文字通り、労働者を雇用し続けることが困難となった場合に離職
させるのではなく、子会社やグループ会社に出向させることによって雇用の
継続を図ることを意味します。
「b 出向先の経営指導、技術指導の実施のため」とは、出向先の子会社に
おいて経営指導や技術指導を行うために労働者を出向させることを意味し
ます。この時に、経営指導や技術指導だけではなく、出向先の通常業務を行
わせることは、経営指導・技術指導のための出向とは認められない可能性が
あるのでお気を付け下さい。
「c 出向労働者の職業能力開発の一環として行うため」とは、労働者を職業
能力開発のため出向先に出向させることを意味します。bと同様、職業能力
開発だけではなく、出向先の通常の業務を行わせることは職業能力開発の
一環としての出向とは認められない可能性があるのでお気を付け下さい。
「d 企業グループ内の人事交流の一環として行うため」とは、文字通り企業
グループ内の人事交流のために行われる出頭を意味します。人事交流なの
で、出向元から出向先に一方的に出向させることは人事交流とは認められ
ない可能性がございますので、相互に出向させる必要があります。
「(2) 出向先との雇用関係が認められること」については、出向先における
①賃金の支払い、②社会・労働保険への加入、③懲戒権の保有、④就業規
則の適用の有無、⑤出向先が独自に労働条件を変更させることの有無、な
ど雇用関係にあったかどうかを判断することになります。形式的に雇用契約
書を作成しているが、実態としては、派遣先との雇用関係が認められない場
合は出向としては適正でないと判断される可能性もあるので、ご注意ください。
「(3) 出向によって利益を生じさせていないこと」については、出向は「業と
して行われている場合」は、労働者供給事業に該当することになり、職業安
定法第44条で禁止されています。
「業として行う」とは、労働者派遣事業関係業務取扱要領には以下の通り記
載されています。
「イ 「業として行う」とは、一定の目的をもって同種の行為を反復継続的に
遂行することをいい、1回限りの行為であったとしても反復継続の意
思をもって行えば事業性があるが、形式的に繰り返し行われていた
としても、全て受動的、偶発的行為が継続した結果であって、反復
継続の意思をもって行われていなければ、事業性は認められない。
ロ 具体的には、一定の目的と計画に基づいて経営する経済的活動とし
て行われるか否かによって判断され、必ずしも営利を目的とする場
合に限らず(例えば、社会事業団体や宗教団体が行う継続的活動
も「事業」に該当することがある)、また、他の事業と兼業して行われ
るか否かを問わない。
ハ しかしながら、この判断も一般的な社会通念に則して個別のケース
ごとに行われるものであり、営利を目的とするか否か、事業としての
独立性があるか否かが反復継続の意志の判定の上で重要な要素
となる。例えば、①労働者の派遣(または出向)を行う旨宣伝、広告
している場合、②店を構え、労働者派遣(または出向)を行う旨看板
を掲げている場合等については、原則として、事業性ありと判断され
るものであること」
つまり、営利を目的として出向している場合は業として行っているものとみな
される可能性があり、職業安定法第44条の労働者供給事業に該当する可
能性があるのでお気を付け下さい。
「(4) 出向後、出向元に戻ってくることが明らかであること」とは、出向は上
記のa~dの目的で一時的に出向先で就業する契約であるので、出向元に
戻ってくることが出向契約書等で計画されていなければ、適正な出向とみな
されない可能性があります。
「(5) 就業規則に出向する旨の規定があり、で出向労働者の同意を得るこ
と」については、一般的に、移籍型出向が出向労働者の同意を必要とされて
いるのに対し、在籍型出向は就業規則等に規定しておれば出向労働者の同
意は不要とされています。しかしながら、過去の判例によると、就業規則に規
定されていても出向条件等が明確でない場合等について出向が認められな
いケースも見られることから、できれば、出向労働者の同意を得ていた方が
無難と言えます。
http://haken-higashitani.com/
(資料)
厚生労働省 「労働者派遣事業関係業務取扱要領(平成30年7月6日以降)」
https://www.mhlw.go.jp/general/seido/anteikyoku/jukyu/haken/youryou_h24/dl/all.pdf
厚生労働省 「平成27年労働者派遣法改正法の概要」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11650000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu/0000098917.pdf
職業安定法第44条には、
「何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又は
その労働者供給事業を行う者から供給される労働者を指揮命令の下に
労働させてはならない」
と規定されています。
労働者供給事業を行ってはいけないという規定ですが、では、労働者供給
とは何かというと、職業安定法第4条第7項に、
「この法律において、「労働者供給」とは、供給契約に基づいて労働者を他
人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいい、労働者派遣事業の
適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第2条第1号
に規定する労働者派遣に該当するものを含まないものとする」
と規定されています。
簡単に言うと、労働者供給事業とは、
「自社(個人事業主の場合等も含む。以下同じ)の雇用する又は、自社の
支配従属関係にある労働者を他社(個人事業主の場合等も含む。以下
同じ)に貸し出して働かせること」
を意味します。
昔の「人足出し(にんそくだし)」や「人夫出し(にんぷだし)」などの単純労働
や重労働の労働者をあっせんする業者をイメージしていただければ分かり
やすいと思います。
上記の関係にある場合はすべて労働者供給となり、労働者派遣や出向も
労働者供給の一部となります。
つまり、ある会社に雇用又は拘束されながら、他の会社の人間から指揮命
令又は雇用されて働くことは全て『労働者供給』になり、職業安定法の44条
に抵触することになります。
しかし、労働者派遣は労働者派遣法という法律が設けられ、その法律の枠
内で労働者を適正に派遣する場合は、労働者供給には該当しません。
(職業安定法第4条第7項)
また、出向も法律に定められているわけではありませんが、出向の要件を満
たす場合は労働者供給事業には該当せず、職業安定法44条に違反しない
と考えられています。
では、出向とはどういうものかというと、労働者派遣事業関係業務取扱要領
には、
「いわゆる、出向は、出向元事業主と何らかの関係を保ちながら、出向先
事業主との間において新たな雇用契約関係に基づき相当期間継続的に
勤務する形態であるが、出向元事業主との関係から、次の二者に分類で
きる。
① 在籍型出向
出向元事業主及び出向先事業主双方との間に雇用契約関係が
ある(出向先事業主と労働者との間の雇用契約関係は通常の雇
用契約関係とは異なる独特のものである)。
形態としては、出向中は求職となり、身分関係のみが出向元事業
主との関係で残っていると認められるもの、身分関係が残っといる
だけでなく、出向中も出向元事業主が賃金の一部について支払い
義務を負うもの等多様なものがある。
なお、労働者保護関係法規等における雇用主としての責任は、出
向元事業主、出向先事業主及び出向労働者三者間の取り決めに
よって定められた権限と責任に応じて、出向元事業主又は出向先
事業主が負うこととなる。
② 移籍型出向
出向事業主との間にのみ雇用関係がある」
と規定されています。
つまり、①の在籍型出向とは、出向元との雇用契約を残しながら出向先とも
雇用契約を結んで、出向先において就業することをいい、②の移籍型出向と
はいわゆる「転籍」のことを言い、転籍後は出向元との一切の関係を持たな
い(雇用関係や指揮命令等)就業を意味します。
②の移籍型出向については、出向元との雇用関係は終了することになるの
で、一般的には出向させる際に労働者の同意を得て出向させた後は、出向
先の労働者として就業することになるだけなので、特に労働者の同意以外
の要件は必要とされていません。
①の在籍型出向については、出向元・出向先の両方と雇用契約を締結する
特殊な雇用形態であり、適正な出向を行うためには、以下の要件を満たす
必要があります。
(1) 以下の4つの目的のいずれかによって出向させていること
a 労働者を離職させるのではなく、関係会社において雇用機会を
確保するため
b 出向先の経営指導、技術指導の実施のため
c 出向労働者の職業能力開発の一環として行うため
d 企業グループ内の人事交流の一環として行うため
(2) 出向先との雇用関係が認められること
(3) 出向によって利益を生じさせていないこと
(4) 出向後、出向元に戻ってくることが明らかであること
(5) 就業規則に出向させる旨の規定があり、出向労働者の同意を得る
こと
(1)については、a~dのいずれかの目的で行われている場合は、労働者供
給事業を業(ぎょう)として行っているとまでは言えないことから、労働者供給
事業には当たらないとされています。
「a 労働者を離職させるのではなく、関係会社において雇用機会を確保する
ため」とは、文字通り、労働者を雇用し続けることが困難となった場合に離職
させるのではなく、子会社やグループ会社に出向させることによって雇用の
継続を図ることを意味します。
「b 出向先の経営指導、技術指導の実施のため」とは、出向先の子会社に
おいて経営指導や技術指導を行うために労働者を出向させることを意味し
ます。この時に、経営指導や技術指導だけではなく、出向先の通常業務を行
わせることは、経営指導・技術指導のための出向とは認められない可能性が
あるのでお気を付け下さい。
「c 出向労働者の職業能力開発の一環として行うため」とは、労働者を職業
能力開発のため出向先に出向させることを意味します。bと同様、職業能力
開発だけではなく、出向先の通常の業務を行わせることは職業能力開発の
一環としての出向とは認められない可能性があるのでお気を付け下さい。
「d 企業グループ内の人事交流の一環として行うため」とは、文字通り企業
グループ内の人事交流のために行われる出頭を意味します。人事交流なの
で、出向元から出向先に一方的に出向させることは人事交流とは認められ
ない可能性がございますので、相互に出向させる必要があります。
「(2) 出向先との雇用関係が認められること」については、出向先における
①賃金の支払い、②社会・労働保険への加入、③懲戒権の保有、④就業規
則の適用の有無、⑤出向先が独自に労働条件を変更させることの有無、な
ど雇用関係にあったかどうかを判断することになります。形式的に雇用契約
書を作成しているが、実態としては、派遣先との雇用関係が認められない場
合は出向としては適正でないと判断される可能性もあるので、ご注意ください。
「(3) 出向によって利益を生じさせていないこと」については、出向は「業と
して行われている場合」は、労働者供給事業に該当することになり、職業安
定法第44条で禁止されています。
「業として行う」とは、労働者派遣事業関係業務取扱要領には以下の通り記
載されています。
「イ 「業として行う」とは、一定の目的をもって同種の行為を反復継続的に
遂行することをいい、1回限りの行為であったとしても反復継続の意
思をもって行えば事業性があるが、形式的に繰り返し行われていた
としても、全て受動的、偶発的行為が継続した結果であって、反復
継続の意思をもって行われていなければ、事業性は認められない。
ロ 具体的には、一定の目的と計画に基づいて経営する経済的活動とし
て行われるか否かによって判断され、必ずしも営利を目的とする場
合に限らず(例えば、社会事業団体や宗教団体が行う継続的活動
も「事業」に該当することがある)、また、他の事業と兼業して行われ
るか否かを問わない。
ハ しかしながら、この判断も一般的な社会通念に則して個別のケース
ごとに行われるものであり、営利を目的とするか否か、事業としての
独立性があるか否かが反復継続の意志の判定の上で重要な要素
となる。例えば、①労働者の派遣(または出向)を行う旨宣伝、広告
している場合、②店を構え、労働者派遣(または出向)を行う旨看板
を掲げている場合等については、原則として、事業性ありと判断され
るものであること」
つまり、営利を目的として出向している場合は業として行っているものとみな
される可能性があり、職業安定法第44条の労働者供給事業に該当する可
能性があるのでお気を付け下さい。
「(4) 出向後、出向元に戻ってくることが明らかであること」とは、出向は上
記のa~dの目的で一時的に出向先で就業する契約であるので、出向元に
戻ってくることが出向契約書等で計画されていなければ、適正な出向とみな
されない可能性があります。
「(5) 就業規則に出向する旨の規定があり、で出向労働者の同意を得るこ
と」については、一般的に、移籍型出向が出向労働者の同意を必要とされて
いるのに対し、在籍型出向は就業規則等に規定しておれば出向労働者の同
意は不要とされています。しかしながら、過去の判例によると、就業規則に規
定されていても出向条件等が明確でない場合等について出向が認められな
いケースも見られることから、できれば、出向労働者の同意を得ていた方が
無難と言えます。
http://haken-higashitani.com/
(資料)
厚生労働省 「労働者派遣事業関係業務取扱要領(平成30年7月6日以降)」
https://www.mhlw.go.jp/general/seido/anteikyoku/jukyu/haken/youryou_h24/dl/all.pdf
厚生労働省 「平成27年労働者派遣法改正法の概要」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11650000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu/0000098917.pdf