今回も企業のハラスメント対策について解説したいと思います。
企業のハラスメント対策としては、
① セクシュアルハラスメント対策(すべての企業で義務化)
② 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策(すべての企業で義務化)
③ パワーハラスメント対策(令和2年6月1日から大企業が義務化。令和4年
4月1日から中小企業も義務化)
があります。
今回は、
② 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策(すべての企業で義務化)
について解説したいと思います。
ちなみに今回の内容については、下記のパンフレットの内容を解説したものとなりま
す。詳細については下記のパンフレットをご参照ください!
(厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」)
今回のブログはかなり長くなりますが、企業にとってハラスメント対策は非常に重要
な内容となるためどうか最後までお付き合いください!
【根拠条文】
「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策」の根拠条文
は、「職場における妊娠、出産等に関するハラスメント対策」と「職場における育
児休業等に関するハラスメント対策」の2つに分かれます。
「職場における妊娠・出産等に関するハラスメント対策」は男女雇用機会均等法
に規定されており、「職場における育児休業等に関するハラスメント対策」は育児
介護休業法に規定されています。
このように法律は異なるのですが、「職場における妊娠、出産等に関するハラス
メント対策」と「職場における育児休業等に関するハラスメント対策」の取組内容
は殆ど同じ内容となるので、パンフレット等でも一体的な取組として記載されてい
ます。
職場における妊娠、出産等に関するハラスメント対策については、男女雇用機会均等
法第11条の3に以下のとおり規定されています
<男女雇用機会均等法>
(職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)
第11条の3 事業主は、職場において行われるその雇用する女性労働者に対する
当該女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法第65条第1項の規定
による休業を請求し、又は同項若しくは同条第2項の規定による休業をしたことそ
の他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものに関する言動
により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう、当該女性労働者から
の相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な
措置を講じなければならない。
2 第11条第2項の規定は、労働者が前項の相談を行い、又は事業主による当該
相談への対応に協力した際に事実を述べた場合について準用する。
<筆者解説>
上記の条文を要約すると、
均等法11条の3第1項では、「会社は女性労働者が妊娠したこと、出産したこと
、労基法第65条第1項の休業(産前休業)を会社に請求したこと、産前産後休業
を取得したこと等に対して、その女性労働者が他の労働者から言動による嫌がらせ
等の被害を受けないようにするため及びもし被害を受けた場合は適切な処置を行う
ための必要な措置を講じなさいよ」
均等法11条の3第2項では、「女性労働者から妊娠したこと、出産したこと、産
前休業を会社に請求したこと、産前産後休業を取得したこと等に対して、その女性
労働者が他の労働者から言動による嫌がらせ等の被害を受けたことを会社に相談し
たことに対して、その女性労働者を罰する等の不利益な取扱いをしてはいけません
よ。
また、当該嫌がらせの事実関係の確認のために関係者から事情聴取を行った際に
、嫌がらせの事実があったこと等をその関係者が証言したことに対して、会社は証
言を行った者を罰するなどの不利益な取り扱いはしてはいけませんよ」となります
「職場における妊娠、出産等に関するハラスメント対策」の対象者は女性労働者
限定となります。また、上司又は同僚からの言動による嫌がらせ等が対象となりま
す。
職場における育児休業等に関するハラスメント対策については、育児介護休業法法
第25条に以下のとおり規定されています
<育児介護休業法>
(職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置
等)
第25条 事業主は、職場において行われるその雇用する労働者に対する育児休業
、介護休業その他の子の養育又は家族の介護に関する厚生労働省令で定める制度又
は措置の利用に関する言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう
、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の
雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対
応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他
不利益な取扱いをしてはならない。
<筆者解説>
上記の条文を要約すると、
育介法25条第1項では、「会社は労働者が育児休業や介護休業等を取得したこと
等に対して、その労働者が他の労働者から言動による嫌がらせ等の被害を受けない
ようにするため及びもし被害を受けた場合は適切な処置を行うための必要な措置を
講じなさいよ」
育介法25条第2項では、「労働者から育児休業や介護休業等を取得したこと等に
対して、その労働者が他の労働者から言動による嫌がらせ等の被害を受けたことを
会社に相談したことに対して、その労働者を罰する等の不利益な取扱いをしてはい
けませんよ。また、当該嫌がらせの事実関係の確認のために関係者から事情聴取を
行った際に、嫌がらせの事実があったこと等をその関係者が証言したことに対して
、会社は証言を行った者を罰するなどの不利益な取り扱いはしてはいけませんよ」
となります。
「職場における育児休業等に関するハラスメント対策」の対象者は男女労働者
となります。これは、育児休業・介護休業等は女性労働者のみならず男性労働者
も取得できるためです。また、上司又は同僚からの言動による嫌がらせ等が対象
となります。
【妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの対象企業】
中小企業、大企業、個人事業主、法人等、労働者を雇用するすべての事業主はこ
れから説明する妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策を講じる義務が
あります。
講じていない場合は行政からの指導を受ける可能性があります!
【妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの定義】
では、「妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」とは何かというと『職
場(※1)において行われる上司・同僚から(※2)の言動(妊娠・出産したこと
、育児休業等の利用に関する言動)により、妊娠・出産した女性労働者(※3)や
、育児休業等を申出・取得した男女労働者(※3)の就業環境が害されること』を
いいます。
なお、業務分担や安全配慮等の観点から、客観的に見て、業務上の必要性に基づ
く言動によるものはハラスメントには該当しません。
<筆者解説>
つまり、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントとは、「職場で、労働者
が妊娠や出産後の体調不良等により業務を行えないことや、産前産後休業や育児休
業、介護休業等の制度を利用したことにより上司や同僚から受けた言動により被っ
た精神的・肉体的被害」のことをいいます。
※1 「職場」とは「事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し、労働
者が通常就業している場所以外の場所であっても、労働者が業務を遂行する
場所であれば「職場に」含まれます。
※2 加害者となる労働者は、「セクハラ対策」のところでは「事業主や上司、同
僚に限らず、取引先の労働者等も含む」としていましたが、「妊娠・出産・
育児休業等に関するハラスメント」では、「上司又は同僚」となります。
※3 被害者となる「労働者」とは「正規雇用労働者のみならず、パートタイム労
働者、契約社員などいわゆる非正規雇用労働者を含む、会社が雇用する全て
の労働者」をいいます。
また、派遣労働者については、派遣元事業主のみならず、派遣先事業主も
自ら雇用する労働者と同様に、措置を講ずる必要があります。
(労働者派遣法第47条の2、労働者派遣法第47条の3)
さらに、事業主は自社が雇用する労働者のみならず、個人事業主、インタ
ーンシップを行っている者、他の事業主が雇用する労働者、就職活動中の学
生等に対する自社の労働者の言動についても妊娠・出産等に関するハラスメ
ント防止措置をとることが望ましいとされています。
<筆者解説>
派遣労働者については、就業先が派遣先となるため、妊娠・出産・育児休
業等に関するハラスメントについても派遣先で発生する可能性があり、もし
、派遣労働者から妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの相談を派
遣元責任者や派遣元の営業担当者が受けた場合であっても、派遣元は派遣先
と連携し、両社で妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策を行わ
なければいけません。
もし、派遣元・派遣先が後で説明する妊娠・出産・育児休業等に関するハ
ラスメント対策を怠っていた場合は男女雇用機会均等法又は育児介護休業法
違反として行政から指導を受ける可能性があります。
また、自社の労働者以外の「請負関係にある個人事業主」や「インターン
シップ制度によって受け入れている者」「取引先の労働者」「就職活動のた
めOB訪問に来ている就活生」等に対しても、妊娠・出産等に関するハラス
メント対策の対象となる自社の労働者ではないものの、自社の労働者がこれ
らの者に対して、もし妊娠・出産等に関するハラスメントをした場合、当然
、自社に対して社会的責任の追及が及ぶ可能性も高いため、自社の責任とし
て妊娠・出産等に関するハラスメント対策の対象することが望ましいとして
います。
【妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの種類】
「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」は大きく分けると
1⃣ 制度等の利用への嫌がらせ型
2⃣ 状態への嫌がらせ型
の2つに分類されます。
1⃣ 制度等の利用への嫌がらせ型
次に掲げる制度又は措置(制度等)の利用に関する言動により就業環境が害され
るものをいいます。
【男女雇用機会均等法が対象とする制度又は措置】
① 産前休業
② 妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置(母性健康管理措置)
③ 軽易な業務への転換
④ 変形労働時間制での法定労働時間を超える労働時間の制限、時間外労働及び
休日労働の制限並びに深夜業の制限
⑤ 育児時間
⑥ 坑内業務の就業制限及び危険有害業務の就業制限
【育児介護休業法が対象とする制度又は措置】
① 育児休業
② 介護休業
③ 子の看護休暇
④ 介護休暇
⑤ 所定外労働の制限
⑥ 時間外労働の制限
⑦ 深夜業の制限
⑧ 育児のための所定労働時間の短縮措置
⑨ 始業時刻変更等の措置
⑩ 介護のための所定労働時間の短縮等の措置
【ハラスメントの内容】
上記の男女雇用機会均等法又は育児介護休業法に規定する制度・措置を労働者が
利用したことに対し、下記の(1)~(3)のハラスメントを行った場合に、『制
度等の利用への嫌がらせ型』に該当します。
(1) 解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの
労働者が、制度等の利用の請求等(措置の求め、請求または申出をいう)
をしたい旨を上司に相談したことや制度等の利用の請求等をしたこと、制度
等の利用をしたことにより、上司がその労働者に対し、解雇その他不利益な
取扱いを示唆することです。
● 典型的な例
・ 産前休業の取得を上司に相談したところ、「休みを取るならやめても
らう」と言われた。
・ 時間外労働の免除について上司に相談したところ、「次の査定の際は
昇進しないと思え」と言われた。
<筆者解説>
ここは、「解雇その他不利益な取扱いを示唆したこと」がポイントとなり
ます。例えば『制度の利用を労働者が上司に相談したことに対して、上司か
ら「休みを取るならやめてもらう」と言われた』というように、実際に不利
益な取扱いを行う前に上司が部下の労働者に対して制度の利用をさせないよ
う示唆した場合は妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントに該当しま
す。
ちなみに、『示唆』ではなく、妊娠・出産・育児休業等の利用を申し出た
ことによる、
① 解雇すること
② 期間雇用者の契約更新をしないこと
③ あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数
を引き下げること
④ 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規雇用社員とするよう
な労働契約内容の変更を強要すること
⑤ 降格させること
⑥ 就業環境を害すること
⑦ 不利益な自宅待機を命ずること
⑧ 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと
⑨ 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと
⑩ 不利益な配置の変更を行うこと
⑪ 派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係
る労働者派遣の役務の提供を拒むこと
は、ハラスメントではなく、労働者に対する不利益な取扱いとして、男女雇
用機会均等法第9条第3項、育児介護休業法第10条等で禁止されており、
もし会社が上記のような不利益な取扱いを労働者に対して行った場合は、行
政から指導を受ける可能性が高くなります。
妊娠、出産、育児休業等を契機としたこれらの不利益取扱いは、妊娠、出
産、育児休業等を取得したのち1年以内に行われた場合は契機としたものと
みなされます。
(2) 制度等の利用の請求等又は制度等の利用を阻害するもの
以下のような言動が該当します。
① 労働者が制度等の利用の請求をしたい旨を上司に相談したところ、
上司がその労働者に対し、請求をしないように言うこと
② 労働者が制度の利用の請求をしたところ、上司がその労働者に対し
、請求を取り下げるように言うこと
③ 労働者が制度の利用の請求をしたい旨を同僚に伝えたところ、同僚
がその労働者に対し、繰り返し又は継続的に、請求をしないように
言うこと
④ 労働者が制度利用の請求をしたところ、同僚がその労働者に対し、
繰り返し又は継続的に請求等を取り下げるよう言うこと
● 典型的な例
・ 育児休業の取得について上司に相談したところ、「男のくせに育児休
業を取るなんてあり得ない」と言われ、取得をあきらめざるを得ない
状況になっている
・ 介護休業について請求する旨を周囲に伝えたところ、同僚から「自分
なら請求しない。あなたもそうすべき」と言われた。「でも自分は請
求したい」と再度伝えたが、再度、同様の発言をされ、取得を諦めざ
るを得ない状況になっている
(3) 制度等を利用したことにより嫌がらせ等をするもの
労働者が、制度等の利用をしたところ、上司・同僚がその労働者に対し、
繰り返し又は継続的に嫌がらせ等をすることをいいます。
「嫌がらせ等」とは、嫌がらせ的な言動、業務に従事させないこと、又は
専ら雑務に従事させることをいいます。
● 典型的な例
・ 上司・同僚が「所定外労働の制限(残業を拒否できる制度)をしてい
る人にはたいした仕事はさせられない」と繰り返し又は継続的に言い
、専ら雑務のみさせられる状況となっており、就業するうえで看過で
きない程度の支障が生じている
・ 上司・同僚が「自分だけ短時間勤務をしているなんて周りを考えてい
ない。迷惑だ」と繰り返し又は継続的に言い、就業をする上で看過で
きない程度の支障が生じている。
2⃣ 状態への嫌がらせ型
女性労働者が妊娠したこと、出産したこと等に関する言動により就業環境が害さ
れるものをいいます。
【対象となる事由】
① 妊娠したこと
② 出産したこと
③ 産後の就業制限の規定により就業できず、又は産後休業をしたこと
④ 妊娠または出産に起因する症状(つわり、妊娠悪阻、切迫流産、出産後の回
復不全等、妊娠または出産をしたことに起因して妊産婦に生じる症状)によ
り労務の提供ができないこと若しくはできなかったこと又は労働能率が低下
したこと
⑤ 坑内業務の就業制限若しくは危険有害業務の就業制限の規定により業務に就
くことができないこと又はこれらの業務に従事しなかったこと
【ハラスメントの内容】
上記の対象となる事由に労働者が該当した場合で、下記の(1)(2)のハラス
メントを行った場合に、『状態への嫌がらせ型』に該当します。
(1) 解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの
女性労働者が妊娠等したことにより、上司がその女性労働者に対し、解雇
その他の不利益な取扱いを示唆することです。
● 典型的な例
・ 上司に妊娠を報告したところ「他の人を雇うので早めに辞めてもらう
しかない」と言われた。
<筆者解説>
ここは、「解雇その他不利益な取扱いを示唆したこと」がポイントとなり
ます。例えば『上司に妊娠を報告したところ、上司から「他の人を雇うので
早めに辞めてもらう」と言われた』というように、実際に不利益な取扱いを
行う前に上司が部下の労働者に対して不利益な取扱いをする可能性があるこ
とを示唆した場合は妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントに該当し
ます。
ちなみに、『示唆』ではなく、妊娠・出産・育児休業等の利用を申し出た
ことによる、
① 解雇すること
② 期間雇用者の契約更新をしないこと
③ あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数
を引き下げること
④ 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規雇用社員とするよう
な労働契約内容の変更を強要すること
⑤ 降格させること
⑥ 就業環境を害すること
⑦ 不利益な自宅待機を命ずること
⑧ 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと
⑨ 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと
⑩ 不利益な配置の変更を行うこと
⑪ 派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係
る労働者派遣の役務の提供を拒むこと
は、ハラスメントではなく、労働者に対する不利益な取扱いとして、男女雇
用機会均等法第9条第3項で禁止されており、もし会社が上記のような不利
益な取扱いを労働者に対して行った場合は、行政から指導を受ける可能性が
高くなります。
妊娠、出産、育児休業等を契機としたこれらの不利益取扱いは、妊娠、出
産、育児休業等を取得したのち1年以内に行われた場合は契機としたものと
みなされます。
(2) 妊娠等をしたことにより嫌がらせ等をするもの
女性労働者が妊娠等したことにより、上司・同僚がその女性労働者に対し
、繰り返し又は継続的に嫌がらせ等をすること。
● 典型的な例
・ 上司・同僚が「妊婦はいつ休むか分からないから仕事は任せられない
」と繰り返し又は継続的に言い、仕事をさせない状況となっており、
就業をする上で看過できない程度の支障が生じている
・ 上司・同僚が「妊娠するなら忙しい時期を避けるべきだった」と繰り
返し又は継続的に言い、就業をする上で看過できない程度の支障が生
じている
【妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの判断
基準】
部下が休業するとなると、上司としては業務の調整を行う必要があります。妊娠
中に医師等から休業指示が出た場合のように、労働者の体調を考慮してすぐに対応
しなければならない休業について、「業務が回らないから」といった理由で上司が
休業を妨げる場合はハラスメントに該当します
しかし、ある程度調整が可能な休業等(例えば、定期的な妊婦検診の日時)につ
いて、その時期を調整することが可能か労働者の意向を確認するといった行為まで
がハラスメントとして禁止されるものではありません。
ただし、労働者の意を汲まない一方的な通告はハラスメントとなる可能性があり
ますので注意してください。
【ハラスメントに該当しない業務上の必要性に基づく言動の具体例】
① 「制度等の利用」に関する言動の例
・ 業務体制を見直すため、上司が育児休業をいつからいつまで取得するの
か確認すること
・ 業務状況を考えて、上司が「次の妊婦検診はこの日は避けてほしいが調
整できるか」と確認すること
・ 同僚が自分の休暇との調整をする目的で休業の期間を尋ね、変更を相談
すること
※ 制度等の利用を希望する労働者に対する変更の依頼や相談は強要しない
場合に限られます
② 「状態」に関する言動の例
・ 上司が、長時間労働をしている妊婦に対して、「妊婦には長時間労働は
負担が大きいだろうから、業務分担の見直しを行い、あなたの残業量を
減らそうと思うがどうか」と配慮する
・ 上司・同僚が「妊婦には負担が大きいだろうから、もう少し楽な業務に
変わってはどうか」と配慮する。
・ 上司・同僚が「つわりで体調が悪そうだが、少し休んだ方が良いのでは
」と配慮する
<筆者解説>
妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントに該当するかどうかは、被害を受
けた労働者が訴訟を起こし裁判で判決が出て初めて確定します。
つまり、それまでは行政であっても妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメン
トに該当するかどうかは判断できません。
では、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策として企業が行わなけ
ればならないことは何かというと、後で説明する「職場における妊娠・出産・育児
休業等に関するハラスメントを防止するための措置」及び「職場における妊娠・出
産・育児休業等に関するハラスメントが発生した際の対応」について男女雇用機会
均等法第11条の3第1項及び育児介護休業法第25条第1項で定めています。
したがって、企業が労働者から妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント相
談を受けた場合はまずは、法律に沿った対応を行うことが重要となります。
法に沿った対応の結果、企業が「妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント
はなかった」という結論を出しても法律違反とはなりません。
企業の結論に対して納得できない場合は労働者が訴訟を提起してくる可能性もあ
りますが、訴訟になった場合は、改めて、企業は妊娠・出産・育児休業等に関する
ハラスメントがなかったことを証明すればいいのです。
また、訴訟になった場合であっても、企業が法に沿った妊娠・出産・育児休業等
に関するハラスメント対策が取られていなかった場合は、そのことも判決に影響し
てくる可能性があります。
まず、企業がしなければいけないことは、今から説明する「妊娠・出産・育児休
業等に関するハラスメント防止措置を実施する」ということになります。
【企業が実施しなければいけない妊娠・出産・育児休業等に
関するハラスメント防止措置】
企業が実施しなければいけない妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント防
止措置は、大きく分けて次の2つに分類されます
(1)今すぐに実施しなければいけない事項
(2)労働者から相談を受けたとき及び相談終了後に実施しなければいけない
事項
(1)今すぐに実施しなければいけない事項
企業がセクハラ防止措置としてすぐに実施しなければいけない事項は次の6項
目となります。
① 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの内容、妊娠・出産・育児休業
等に関する否定的な言動が職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラス
メントの発生原因や背景となり得ること、妊娠・出産・育児休業等に関するハラ
スメントを行ってはならない旨の方針、制度等の利用ができることを明確化し、
管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること
→ 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントとは具体的にどういうこと
を指すのか、妊娠・出産・育児休業等に関する否定的な言動が職場における
妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの発生原因や背景となり得る
こと、制度等の利用ができること、会社として妊娠・出産・育児休業等に関
するハラスメントは絶対許さないという意思表示についてチラシ等を作成し
、自社のすべての労働者に周知します。
周知方法については、就業規則のように、作成したものをファイルに入れ
て保管し「誰でも見ていいよ」というような周知方法ではなく、すべての労
働者の目に必ず触れるような周知方法(すべての事業所において、そこに就
業するすべての労働者が目にする場所にチラシを貼付する方法やすべての労
働者にそのチラシをメールで送信する方法等)が必要とされています。
② 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの行為者について厳正に対処す
る旨の方針・対処の内容を就業規則に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・
啓発すること
→ 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの行為者に対し厳正に対処
する旨の方針及び具体的な処分方法をチラシ等に記載し、自社のすべての労
働者に周知します。
また、実際に行為者を処分するために会社の懲戒規定に妊娠・出産・育児
休業等に関するハラスメントを行った者に対する処分内容を規定します。
懲戒規定の記載例については上記、厚生労働省「職場におけるパワー
ハラスメント対策が事業主の義務になりました!」パンフレットのp38
を参照ください!
③ 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること
→ 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの相談窓口を設置((例)
相談窓口:人事課長)し、チラシ等に記載し、自社のすべての労働者に周知
します。
相談窓口が形式的なものしか設置しておらず、実際の相談ができないよう
な場合は、相談窓口を設置していないとして行政から指導を受ける可能性が
あります。
相談窓口担当者は「人事課」など、組織全体としても構いませんが、組織
全体とする場合、その組織のすべての労働者が相談対応できない場合も、相
談窓口を適正に設置していないとして行政から指導を受ける可能性がありま
す。
相談者の個人情報も扱うことから相談窓口の担当者は一定以上の役職者と
しておいたほうがよいでしょう。
④ 相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。
妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントにに該当するか否か微妙な場合
であっても、広く相談に対応すること
→ 相談窓口担当者が相談者に対し門前払いをしたり、しっかりと話を聞
かなかった場合は適正に相談対応していないとして行政からの指導を受
ける可能性があります。したがって、相談窓口担当者は相談者からの相
談に些細なことでも耳を傾け相談対応に当たる旨を、チラシ等に記載し
、自社のすべての労働者に周知します。
⑤ 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周
知すること
→ 相談者・行為者等の情報は当該相談者・行為者等のプライバシーに属
するものであることから、相談及び事後の対応に当たっては、相談者・
行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じる旨を、チ
ラシ等に記載し、自社のすべての労働者に周知します。
⑥ 事業主に相談したこと、事実関係の確認に協力したこと、都道府県労働局
の援助制度の利用等を理由として解雇その他不利益な取扱いをされない旨を
定め、労働者に周知・啓発すること
→ 労働者が妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント相談をしたこ
と、事業主からの事実関係の確認に協力したこと、労働局の紛争解決援
助制度(労働局が実施するあっせん制度や調停制度)を労働者が利用し
たことを理由として解雇やその他の不利益な取扱いを労働者にしない旨
をチラシ等に記載し、自社のすべての労働者に周知します。
上記のチラシ例は以下のような感じになります。
(大阪労働局「ハラスメントは許しません!チラシ例(改正法対応(パワハラ含む)、Powerpoint、イラスト入り)
(令和2年6月更新)」)
(2)労働者から相談を受けたとき及び相談終了後に実施しなけれ
ばいけない事項
企業が労働者から相談を受けたとき及び相談終了後に実施しなければいけな
い事項は次の5項目となります
① 事実関係を迅速かつ正確に確認すること
→ 労働者から相談を受けた相談窓口担当者は早急に、相談者及び行為者
から事情を確認しなければいけません。
相談者と行為者との主張が不一致であり、事実確認が十分にできない
と認められる場合は第三者からも事実確認を行う必要があります。
相談者から相談を受けたにもかかわらず、門前払いをしたり、相談者
や行為者から事情確認もせず、「妊娠・出産・育児休業等に関するハラ
スメントには該当しない」と相談窓口担当者が判断することは事実関係
を迅速かつ正確に確認していないとして、行政から指導を受ける可能性
があります。
相談者、行為者とされる者及び第三者からの事情確認の結果、「妊娠
・出産・育児休業等に関するハラスメントに該当しない」とする結論を
会社が相談者に伝えることは法律上、特に問題ありません!
② 事実確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に
行うこと
→ 事実確認の結果、当該妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント
行為が事実であった場合、会社は被害者と行為者を引き離すための配置
転換や、行為者の謝罪、被害者の労働条件上の不利益の回復等の適正な
措置を講じる必要があります。
③ 事実確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に行うこと
→ 事実確認の結果、当該妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント
行為が事実であった場合、会社は行為者に対し、会社の就業規則に沿っ
て必要な懲戒その他の措置を講じる必要があります。また、事案の内容
や状況に応じ、被害者と行為者を引き離すための配置転換や、行為者の
謝罪等の措置も講ずる必要があります。
④ 改めて職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントに関す
る方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講ずること
→ 事実確認の結果、当該妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント
行為が事実であった場合、または事実が確認できなかった場合であって
も、労働者に対して職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラ
スメントに関する意識を啓発するための研修、講習等を改めて実施する
ことが必要となります。
⑤ 職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの原因や背景
となる要因を解消するための措置を講ずること
→ 事業主は、職場における育児休業等に関するハラスメントの原因や背
景となる要因を解消するため、業務体制の整備など、事業主や制度等の
利用を行う労働者その他の労働者の実情に応じ、必要な措置を講じなけ
ればならないこと(派遣労働者にあっては、派遣元事業主に限る)
<筆者解説>
⑤の規定はセクハラ対策やパワハラ対策には無い取組となります。
妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの発生の原因には、妊娠し
た労働者がつわり等の体調不良のため労務の提供ができないことや、労働能
率が低下すること等により、周囲の労働者の業務負担が増大することなどが
考えられます。
そのため、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントを予防するため
に、妊娠等した労働者の周囲の労働者への業務の偏りを軽減するよう、適切
な業務分担の見直しや、業務の点検を行い、業務の効率化を図ることを会社
に義務付けています。
【まとめ】
最後に、今回説明した妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策と
して企業がしなければいけないことをまとめると、
① ハラスメント全般に対する相談窓口を決定する(至急)
② ハラスメントチラシを作成し、すべての職場の職員が目にしやすい場所
にチラシを貼る(至急)
③ 就業規則の懲戒規定に妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント
(セクハラ、パワハラについても規定)をした場合の懲戒処分を規定する
(速やかに)
④ 相談窓口の担当者に相談者から相談があった場合の対応方法の研修を実
施する(遅滞なく)
対応方法としては、以下の内容をしっかりと担当者に説明する
・決して相談者に対して門前払いをしない
・相談者から必ず話を聞く
・行為者から必ず話を聞く
・関係者から話を聞く(場合によって)
・事情聴取の結果を相談者に伝える(セクハラがなかったと会社が判
断した場合はその旨を伝える)
・セクハラが事実と会社が判断した場合、被害者に対する配慮措置を
行う(被害者の配置転換等、出来るだけ被害者の希望に沿うように
する)
・セクハラが事実と会社が判断した場合、加害者(行為者)に対する
懲戒処分等の措置を行う
・再発防止に向けた措置(ハラスメント研修等の実施)を行う
⑤ 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントを予防するために、妊娠
等した労働者の周囲の労働者への業務の偏りを軽減するよう、適切な業務
分担の見直しや、業務の点検を行い、業務の効率化を図る
⑥ 会社のハラスメント対応に納得しない労働者から訴訟を起こされた場合
、又は起こされそうな雰囲気を感じた場合は、早急に弁護士に相談する
→ 訴訟に発展しそうな場合や泥沼化しそうな場合はすぐに弁護士さんに
相談しましょう。
費用を気にして弁護士さんへの相談が遅れると、状態がより悪化する
可能性があります!
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(資料)
厚生労働省 「派遣労働者の同一労働同一賃金」サイト
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386_00001.html
厚生労働省 「労働者派遣事業関係業務取扱要領(2021年4月)」
https://www.mhlw.go.jp/general/seido/anteikyoku/jukyu/haken/youryou_2020/dl/all.pdf
厚生労働省 「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル(労働者派遣業界編」
https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000501271.pdf
厚生労働省 「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準(令和2年度適用)」
https://www.mhlw.go.jp/content/000595429.pdf
厚生労働省 「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準(令和3年度適用)」
https://www.mhlw.go.jp/content/000685419.pdf