春愁・秋思(しゅんしゅう・しゅうし)

冬の雪、秋の月、夏の風、春の花
萩の花が好きだった人を思い出す

創作民話(第1話)化ける岩

2018年09月08日 | インポート
太郎山に人が見ていないと

姿かたちが変わるという不思議な岩があります。


 ・・・・・「化ける岩」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

太郎山の山ふところ

「こくぞうの沢」から「オバコ山」を越えて登って行く

ワシが小学生の昭和三十年ころの話

その岩は山道の坂がこれからきつくなる手前にあるので
 
村のしょうは(人は)  最後に水場として沢の水を飲んで

いっぷくする場所の目印のような岩だ。

でっけい岩が四尺ほどお椀を伏せたように飛び出ていて

横っちょが一尺ばっか えぐれていて腰掛みてえにてえら(平ら)になってるんだ

画像


ワシはあんちゃんたちに、「いいからここに座ってみれ」って言われ

座っただが

硬くごつごつした感じで尻が痛えくれいだ。

あんちゃんが「その座り心地を よく覚えてけよ」って

そんで夕方 山でキノコを採ったりして帰りに またここでいっぷく、

あんちゃんに「ほう もういっぺん(一度)座ってみろ」って

言われた通りに座ってみると

朝とは違って気持ちいいい座り心地だ

「どうだ ちがうだろう」「・・・うん えぐれている形が違うわ」

「だろう~ この岩は誰も見ていねい時に形を変えるんだ」

確かにここから先の道はちょっと曲がっていて

朝上って行って振り向いてもすぐ見えなくなる。

きっと この岩はいろいろな形に変わって遊んでいて 

そんで人の気配で元に戻るのだが

戻りきれずに微妙に形が変わるんだとワシは信じていただ。



大人になってから考えてみたんだけどさあ

硬い岩が形が変わる訳がねえ

たぶん朝は、

これから山に行く緊張した体につめてい(冷たい)岩は気持ち良かねーさ

だけどけえり(帰り)は 

一日中山歩きして ほてった体はつめてい岩は気持ちいいし

ほどよく くたびれた体が 岩の方になじんじゃった つう訳だわい



人生も幸せだと思えば

硬い岩も体を癒してくれる

世の中も 

周りが変わらなくても自分が変われば 心地よくなるつう事じゃねーかい

画像