ろうげつ

花より男子&有閑倶楽部の二次小説ブログ。CP :あきつく、魅悠メイン。そういった類いが苦手な方はご退室願います。

六花の軌跡【魅悠】 2

2020-04-17 02:22:00 | 六花の軌跡【魅悠】
「あちらもあちらで、同じ事を感じたのかもしれませんわね」

「同じ事?」

「ええ。魅録にとって、悠理は唯一無二の存在なんだって事に。誰よりも大事にしている人だって事に。だから、あちらも悠理のお顔を覚えていたのではなくて?」

「・・・違うよ。ただ単に、記憶力がいいだけだよ」

そんな都合の良い話があるワケない。
だってそうだろ?
もし唯一無二の存在だって言うのなら、何で魅録はあたしを彼女にしてくれなかったんだ!?
おかしいだろ。
だから、野梨子の言ってる事は違う。
見当違いだよと告げたあたしは、手元にある湯呑みを口につけると、すっかり冷めたお茶を一気に呑み干してから話の先を続けた。

「実はさ、手紙を託された時に言われた言葉があるんだ」

「言葉?」

「ああ。『このままの状態では、駄目になりそうで』って。だから!だからあたしは・・・渡さなかった」

手紙を渡しさえしなければ、二人が元に戻る事はないと思ったから。
復縁はしないと踏んだから。
だからあたしは、元彼女からの手紙の存在を魅録に教えなかった。
いや、教えなかったんじゃない。
教えられなかったんだ。
この手紙を渡したら、魅録があたしから離れてしまうんじゃないかと思って。
元彼女の後を追って、アメリカに行っちゃうんじゃないかって。
そんな恐怖に襲われたから、どうしても渡せなかった。

「しかも、日本を経つ日とフライト時間を聞いたのに、それすらも魅録に伝えなかった」

「・・・」

「な?ひどい女だろ、あたし。全部、自分都合だもんな。魅録の気持ちなんて全然考えてない。魅録はあの子とやり直したかったかもしれないのに。もう一度、会いたかったかもしれないのに。そのチャンスをあたしは・・・自分のワガママで潰したんだ」

その上、魅録の隣をキープし続けてさ。
ヘドが出るくらいイヤな女なんだ。
あたしってヤツは。

「悠理。ご自分の事を、そんな風に仰らないで下さいな。貴女は嫌な女性ではありませんわ」

「いや。サイテーで卑怯でイヤな人間なんだよ、あたしは。だって、自分がした事を棚に上げて告白しちゃったんだから」

抑えても抑えても、抑えきれずに出口を求め暴れだす恋心。
それが遂に、溢れ出してしまった。
好きだという気持ちを閉じ込められないくらい、想いが巨大になってしまったから。
だから、我慢出来ずに告白しちまったんだ。


「あたしじゃ魅録の特別にはなれないのか。彼女として傍においてくれないのか。あたしは彼女として魅録の隣に立ちたいんだって言っちゃった」

「・・・それで、魅録は何と仰ったの?」

「魅録は『昔から悠理は俺の中で特別な存在だ。だから、ずっと傍にいろ』って」

「まあ!まるで、プロポーズみたいな言葉ですわね」

「そうかぁ!?そうは思わないけどなぁ。あ、実際のプロポーズの言葉は違ったぞ?」

「はしたない事は重重承知の上で、伺ってもよろしくて?」

「うん。魅録はあたしに『松竹梅悠理になるか?』って言ってくれたんだ」

あの時は嬉しかったな。
だって、魅録の奥さんになれる権利をもらえたんだから。
他の誰でもない、このあたしが。
これでもう、不安に苛(さいな)む必要はない。
あの手紙を渡さなかったのは時効だ。
もう忘れよう。大丈夫。
そう心に言いきかせ、魅録と結婚した。
けれど・・・

「やっぱり神様はちゃんと見てるな。とんでもない罰をあたしに与えてきた」

「罰?罰って何ですの?」

「・・・魅録と元彼女の再会。そして、裏切り」

スーツ姿の二人が、ホテルの受付カウンターでルームキーを受け取り、そのままエレベーターに乗って姿を消してしまった。
そんな光景を目の当たりにしたあたしの気持ち、分かるか?
どんなに惨めで悔しかったか、想像できるか?
まるで、奈落の底に突き落とされたかの様な気分を味わったよ。

まさかあの子が、日本にいるだなんて。
おまけに、魅録といつの間にか再会してただなんて、誰が予想できる!?
出来やしないよ。
そもそも、どうやって連絡取り合ったんだ?
あたしに内緒で、こっそり調べたのか?
そんな事をしてまで、あの子に会いたかったのか?魅録は。
分からない。
あたしには魅録の心が分からない。

「きっと、あたしが手紙を握り潰した事もバレてるよな。魅録には」

「悠理・・・」

「魅録ってさ、曲がった事や卑怯な真似は許さないヤツじゃん。だからさ、あたしがした事は絶対に許さないと思う。愛想尽かして、あたしを捨てるんじゃないかな」

「魅録に限って、そんな事しませんわ!」

「分かんないじゃん!だって既に、あの子とホテルに行ってあたしを裏切った。きっとその時に、あたしがした事がバレてる」

「悠理・・・」

「早い段階で離婚を切り出してくると思う」

もう、あたしの顔なんて見たくないだろうから。
嫌われて当然の事をしたんだから、仕方ない。
こんな事になるなら、あの時ちゃんと手紙を渡しておけばよかった。
魅録に選んでもらえばよかった。
あの子とやり直すのか、それともあたしの手を取るのか。
そうすれば、日々の生活でビクビクする必要なんてなかったのに。

「あたし、魅録の傍にいたい。離れたくない。だって、すっげー好きなんだもん。どうしようもないほど大好きなんだもん。魅録が」

嫌われても憎まれてもいい。
魅録の傍にいられるのなら。
だって魅録に疎まれるより、あたしが魅録を諦める事の方が辛いんだもん。
だから、あたしは魅録の傍にいる。傍にいたい。
でも、その一方で迷いがあるのも事実。

「魅録の幸せを考えるなら、離婚して自由にしてあげた方がいいんだろうな。本当に魅録を愛してると言うのなら、それが正解なんだろうな」

分かってるさ。分かってる。
頭の中では分かってるんだ。
魅録を解放しなきゃって、ちゃんと理解してる。
でもさ、心がついていかないんだよ。

魅録がいない生活なんて、想像できないんだ。
なぁ、あたしはどうしたらいいんだ?
そう涙ながらに訴えるあたしを、野梨子はそっと抱き締め、そして頭を優しく撫でてくれた。







六花の軌跡【魅悠】 1

2020-04-16 23:57:00 | 六花の軌跡【魅悠】
あたしが犯した1つの罪は、高校時代にまで遡(さかのぼ)る。

あれは、いつの頃だったか。
チーマーにナンパされ困っていた女を、たまたま近くを通りかかった魅録が目にしたらしい。
そして、当然ではあるがナンパしていたチーマーを締め上げ追っ払った魅録は、何かあるといけないからという理由で、その女を家まで送り届けたそうな。
まあ、ここまで言えば後は分かるだろ。
お察しの通り、これがキッカケとなって、二人は付き合うようになったんだと、あたしは野梨子に簡単に話した。

「ドラマの様なお話ですのね」

「だろ?笑っちまうよな」

これじゃあ、安っぽい三流ドラマみたいだよ。
そう言葉を続けたあたしに、野梨子は少し困ったかのような笑みを浮かべた。

「突然の出会いなんて、案外その様なものなのかもしれませんわね」

「ん・・・そうかもな」

「それにしましても、驚きましたわ」

「何が?」

「高校時代、魅録にお付き合いされている方がいらっしゃっただなんて」

「・・・ああ。みんなに冷やかされるのが嫌で、内緒にしてたんだよ。魅録は」

「でも、悠理は知ってらしたのね?」

「知りたくはなかったけどな」

本当に知りたくはなかった。
魅録に彼女が出来ただなんて。
あたしじゃない他の女が、魅録の特別になっただなんて。
だってそうだろ?
惚れた男が、自分以外の女の手を取ったんだ。
これほど惨めな事はない。
しかも、直接紹介されるだなんて、マヌケな話じゃないか。
そう話すあたしを、野梨子はじっと見つめたまま無言で先を促した。

「街で偶然会っちゃってさ。そん時に紹介されたんだよ、彼女を。明るく元気で笑顔が可愛くて、そして・・・似てたんだ」

「似てた?」

「うん。マイタイ王国の王女、チチに・・・さ」

何をどう頑張っても逆立ちしても、敵う相手じゃないし勝ち目はないだろ?
チチ似の女じゃ。

チチが王女という身分故に、結ばれる事はなかった恋。
その恋を引きずっていた魅録の前に、チチ似の女が現れたんだ。
あたしが付け入る隙なんて、ありゃしない。
そんなの、無理に決まってる。
本当、参っちゃうよな。
だから、諦めようとしたんだ。
報われない恋をするのは止めようって。

「でも、出来なかったんだ」

「何故?」

「魅録に彼女が出来る以上に、魅録を諦める事の方が辛かったから」

「悠理・・・」

「ははっ。バカみたいだろ?でもさ、あたしの心はあたしのもんだ。魅録を好きな気持ちは誰にも止められない。邪魔したり迷惑かけたりしなければ、想うくらいは自由だろ!?」

だからあたしは開き直り、現実を受け入れた。
好きなもんは好き。
仕方がないって。
魅録の彼女にはなれないけれど、いつも傍にいられるダチの立場を貫こうって。
誰よりも魅録に近く、誰よりも魅録の味方で、誰よりも魅録を理解出来るダチに徹しよう。
ワガママ言って振り回すのは止めよう。
そう自分に言い聞かせ、日々を過ごしていた。
それなのに───

「二ヶ月経った頃かな。魅録が彼女と別れたんだ」

「まあ!」

「それを知った時、魅録が好きだって気持ちが暴れて、それを抑えるのに大変だった」

もしかして、あたしにもチャンスが巡ってきたんじゃないか!?
好きだと告白すれば、彼女にしてくれるかも!?
いやいや、別れて落ち込んでる魅録に、付け込む様な卑怯な真似なんてサイテーだろ。
軽蔑されたらどうすんだ。
ダチという立場さえ危うくなるじゃんか。

そんな両極端な気持ちが胸の中でグルグル回って、どうしていいのか分かんなくて、答えが見つからなくて途方に暮れて。
自分で自分を持て余していたんだ。

「そんな時だったかな?魅録の元彼女にバッタリ出くわしたのは。そん時あたしは・・・あたしは・・・」

「悠理?」

「あたし・・・は・・・1つの罪を犯した」

そう。
あたしは人として、サイテーな事をした。
魅録宛の手紙を託されたんだけど、それを本人に渡す事なく握り潰したんだ。

「元彼女、家族でアメリカに移住するって言っててさ。その準備で忙しくて、魅録に会う時間がない。だから、この手紙を渡して欲しいってあたしに頼んできたんだよ」

「悠理に?」

「うん。手紙を本人に直接渡したくても、住所が分からない。携帯も解約しちゃってるから、連絡もとれないって。だから、いつ会っても渡せる様に、常に手紙を持ち歩いてるんだって言ってたなぁ」

「・・・そう」

「しかしさぁ、一度会っただけなんだぜ?しかも、自己紹介した程度なのに。よく覚えてたよなぁ、あたしの事。ビックリしたよ」

本当に驚いた。
普通は覚えてないだろ!?
ほんの数分しか、顔を合わせてない人間の事なんて。
しかも最初に会った時、あたし俯いてたし。
と、思った事を口にしたら、野梨子は少し首を傾げながら言葉を放った。

「でも、悠理だって覚えてたんでしょう?偶然お会いした時に、その方が魅録の元彼女だって」

「うん」

「それは何故ですの?」

「何故って・・・そりゃ、忘れるワケないよ。盗み見した程度だったけど、忘れるワケない」

だって、あたしが一番欲しいポジションを手に入れた人だから。
あたしの好きな魅録の心を奪った人だから。
だから、目に焼き付いてしまった。
ほんの少しの時間だけしか、顔を合わせていなかったのに。
強烈にあたしの脳裏に焼き付いた。
そう話すあたしに対し、野梨子は微笑を浮かべながら軽く頷いた。







六花の軌跡【魅悠】 序章

2020-03-26 08:57:01 | 六花の軌跡【魅悠】
都心に広がる曇天を見上げ、夜更けには雪になるかなと独り呟く女の瞳は、何かを映している様で、実は何も映していなかった。
ビル群から足早に立ち去る人も、お洒落な店で買い物する人も、街のイルミネーションを見やる人も、女の瞳には何一つ残らない。
街の喧騒も何一つ耳に残らない。
吐く息が白くなる程の寒さも感じない。

そんな女の瞳に映るは・・・いや、映したものは、最愛の伴侶の凛々しい姿であり、耳に残るは伴侶が過去に愛した女の言葉であり、感じたものは己の胸の痛み。
過去に犯した一つの罪に怯え、後ろめたさに何も言えず、それをいい事に愛する伴侶の傍に今日(こんにち)まで居続け、幸せを享受してきた報いが今になって襲ってきた。

「あの時、本当の事を言ってたら結果は違ってたのかな」

最愛の男の妻という座を、射止める事は出来なかっただろうか?
ずっと、マブダチという関係が続いていたのだろうか?
それとも、

「恋愛に発展して、今みたいな関係に落ち着いたのかな」

そう口にして思わず自嘲した女は、軽く頭を左右に振ると再度、鉛色の空を見上げた。

「本当の事を言っても許してくれるかな。妻のまま傍にいさせてくれるかな。いさせて・・・欲しいな」

心根が真っ直ぐで、曲がった事が大嫌いな情けに厚い伴侶は、真実を知っても許してくれるのか、それとも侮蔑した瞳で見つめ突き放すのか。
どちらにせよ、審判を下すのは伴侶であり自分ではない。
それだけは、はっきりしている。

「家・・・帰りたくないな」

帰宅して伴侶と顔を合わせれば、何かが終わる。
そんか気が女にはしていた。

「帰りたくないけど、あそこしか帰る場所がない」

こんな都心の真ん中で、いつまでも突っ立っている訳にはいかない。
遅かれ早かれ、決着はつけねばならぬのだから。

「仕方ない。覚悟を決めて帰───」

「まぁ!悠理じゃありませんこと?」

帰ろうという言葉を口にしようとするも、それを遮られ出鼻をくじかれた女、悠理は、声をかけられた方へと視線を向けた。
するとそこにいたのは、

「・・・野梨子」

茶道白鹿流の次期家元であり、悠理の仲間である白鹿野梨子だった。
仕事中なのか仕事帰りなのか、高級な着物を身にまとい笑顔を浮かべている。
そんな野梨子の姿を目にした悠理は、思わず涙ぐむと彼女の小さな手を握りしめ、そして、

「・・・助けて」

「悠理!?」

消え入りそうな声で、ただひたすら乞いすがった。





六花の軌跡【魅悠】 はじめに

2020-03-26 08:39:43 | 六花の軌跡【魅悠】
倶楽部内でのカップリングは魅録×悠理だけです。
他のメンバーは其々、オリキャラや既存キャラと家庭を築いています。
ですので、倶楽部内でのカップリングをお好みの方やオリキャラが苦手な方は、回避願います。