ろうげつ

花より男子&有閑倶楽部の二次小説ブログ。CP :あきつく、魅悠メイン。そういった類いが苦手な方はご退室願います。

沈め屋(花男CPナシ) 説教後篇

2020-07-04 17:33:12 | CPナシ(花男)
「今夜、ウチに来て。お願い」

小首を傾げながらにっこり微笑み、そんな可愛らしい言葉を口にする女を無視する程、この男は出来ちゃいない。
むしろ、ホイホイのこのこ下心満載でやって来る。
何せ、密かに好意を抱いている女からのお誘いだ。
これを受けずして何とする。
据え膳食わぬは男の恥。

などと、自分に都合の良い言葉を胸の内で羅列しながら足取り軽くやって来たボンボンは、幾分鼻息を荒くしながらインターホンを鳴らした。

『はい』

「俺だ。開けてくれ」

『俺?俺なんて名前の人、知りませんけど』

「つくしちゃんをこよなく愛する男です。お誘い頂いたのでやって参りました」

『該当者が多すぎて分かんないなぁ』

「てめっ・・・そんなにいるのか!?俺以外の男が」

『ちょっと!人を淫乱みたく言わないでよ!大体ね、男に捨てられた私が男っ気あるわけないでしょーが』

「該当者が多すぎるなんて言うから───」

『冗談に決まってんじゃん。今、鍵開けるから』

インターホン越しでのこれ以上の掛け合いは、さすがにボンボンが不審者に間違われる。
もし警察に通報されたら厄介だ。
そう思ったつくしは、玄関の鍵を開けて来訪者を招き入れた。

「いらっしゃい。急に呼び出して悪かったわね」

「いや、気にするな。つくしちゃんの為ならいつでも駆けつけるからよ」

「それなら安心ね。さ、中に入って」

満面の笑みを浮かべながら来訪者を部屋の中へ誘(いざな)ったつくしは、心の中で高笑いを上げながら、

「夜は長いんだし、まずはシャワーでも浴びてリラックスしたら?」

などと、勘違いを増長するような言葉を浴びせた。
すると案の定、来訪者のボンボンは顔を紅潮させマッハな勢いで首を縦に振るではないか。
そんな来訪者に意味ありげな微笑を向けたつくしは、客用のバスタオルを手渡すと、浴室へと案内した。
そして、来訪者がシャワーを浴びている音を耳にすると、部屋の明かりを消し、簡易照明だけを点けて室内を薄暗くした。

「ふっふっふっ。今夜は寝かせないわよ。覚悟をおし、エロ門総二郎」

聞く者によっては完全に勘違いするであろう言葉を呟いたつくしは、エロ門・・・西門総二郎がシャワーを浴びている間に素早くパジャマに着替えると、万全の態勢を整えた。
と同時に、カラスの行水よろしくシャワーを浴びた総二郎が、フェロモン全開で室内に姿を現した。

「ず、随分早いじゃない。シャワー浴びるの」

「あんまりお待たせするのは悪いと思ってな」

「ふ~ん」

「それにしても、部屋を暗くするには気が早くねぇか?こういうのはさ、ムードを作って気分を高めてからの方が盛り上がるってもんよ」

「へぇ・・・」

「おまけに何だよ!?そのパジャマは。色気もへったくれもねーな」

「だって、そんなモンは必要ないから」

「はっ?」

「駆け引きなんてまどろっこしい事、嫌いなの。やる事は一つなんだから、さっさと始めましょ」

そう言うや否や、口角を上げ不敵な微笑を浮かべたつくしは、指をパチンと鳴らした。
すると、それが呼び水となり、数人の女性達がつくしと総二郎の周りをぐるっと囲った。

「うわっ!な、なんだよコレは!?」

「アンタみたいなヒドイ男に騙され、失意のうちにこの世を去った女性達よ」

「・・・この世を去った?」

「そっ!」

「って事はつまり・・・」

「幽霊」

事もなげにそう言い放ったつくしは、顔を強ばらせ唇を戦慄(わなな)かせながら自分に救いを求める総二郎に、フンッと鼻息を荒くしながら説教をし始めた。

「昔から言ってたよね?私。アンタみたいなチャランポラン男、いつか刺されるよって。運の良い事に、今まで刃傷沙汰にはなってないけどさ。でもね、やっぱりこのままではダメだと思うのよ。人間、成長しなくちゃ」

「へっ?」

「騙された女性も悪いと思うよ?でも、騙す男性も悪い。そして、罪悪感を抱いてないヤツが最も性質が悪い!みんながみんな、アンタやアンタが相手するような女みたいに割り切れる訳じゃないの。分かる!?」

「は、ハイ・・・」

「ってなワケで、今から説教大会を開催します。参加者は、アンタに似た男に人生振り回された被害者女性の幽霊と、元凶であるアンタよ」

彼女達の怨み辛みを夜通し聞くがいい。
そして反省しろ。女性に対して誠実になれ。
あたしゃ、向こうで寝るから。
えっ?俺を放ったらかして呑気に寝るつもりか・・・って!?
当たり前田のクラッカーよ。
何で私がアンタに付き合って説教喰らわなきゃなんないのよ。
元はと言えば、アンタの行いのせいじゃない。
言わば「身から出た錆」ってヤツでしょ。
人を巻き込まないでくれる!?

そうケンモホロロに冷たく突き放したつくしは、大あくびをし、パジャマの上から肉付きのよい腹をボリボリ掻くと、布団の中に入り幽霊達の怨み節をBGMにしながら秒殺で眠りに入った。

そして、明け方になりやっと幽霊に解放された総二郎が叩き起こすまで、つくしは腹を出し、ヨダレを垂れ流しながら熟睡していたという。



〈あとがき〉

CPナシのはずが、気づけば総→つく・・・。
その方が話の流れを作りやすいからなんですけどね。
初めに考えてたラストとは違った内容になってしまいましたが、まあいいか(笑)
それにしても総ちゃん、かなり幽霊達に絞られたんだろうなぁ。


沈め屋(花男CPナシ) 説教前篇

2020-07-01 18:13:52 | CPナシ(花男)
沈め屋とは───
金ナシ・家ナシ・男ナシの3ナシづくしの崖っぷち厄年女が、ワケあり物件に住んで、成仏出来ずにこの世をさ迷っている霊をグーパンチ(力ずく)で沈めて成仏させる事を言う。

捉え方によっては『家ナシ』ではなく『家アリ』なのだが、霊を浄化させた後は次なる物件へ引っ越し・・・移動するので、ひとつ所に定住出来ないという意味では『家ナシ』で正解である。

さて、そんな沈め屋である崖っぷち女、牧野つくしは、新たに住み始めた物件で例の如く霊と対峙していた。
が、今回ばかりは勝手が違うのか、つくしも幾分困惑気味だ。

『あ、あの!貴女が悩みを解決して成仏させてくれると評判の、牧野さんですか!?』

「うえっ!?」

『今か今かとお待ちしておりました』

「お待ちしておりましたって・・・」

『是非、私の話を聞いて欲しいんです。そして、怨みを晴らして下さい!あんな男に騙された私も悪いけど、あの男に一矢報いないと成仏出来ません』

「怨みを晴らしてくれって言われてもねぇ。必殺/仕事人じゃあるまいし」

『ささ、まずはこちらへ。粗茶ですがどうぞ』

「粗茶って・・・私がスーパーで買ってきたお茶なんだけど。しかもそれ、私が入れたお茶だからね!?」

『それで、私の話なんですけど───』

「聞いちゃいねーな」

数多のワケあり物件に住んできたけれども、ここまでゴーイングマイウェイな幽霊は初めてだなと独りごちたつくしは、軽く溜息を吐きながら幽霊の向かい側に座った。
そして、それを合図に幽霊は身の上を語り始めた。

『同じ職場にいた、知的な雰囲気を漂わすイケメンにダメ元で告白したんです』

「で?」

『信じられない事に、相手からオッケーの返事をもらいました』

これは夢!?
社内ナンバーワンのモテ男が、私の告白を受け入れてくれた。
お洒落で人当たりが良くて、いつも輪の中心にいるような彼が、地味で目立たない私を彼女にしてくれた。
本当に本当に、信じられない。
まるで、少女漫画の世界みたい。
でも、これは決して少女漫画の話ではない。
現実におこった話だ。
彼が私を受け入れてくれたのは紛れもない事実。
そう当時を懐古しながら、幽霊は話の先を続けた。

『彼はエリート街道をまっしぐらに走ってた。近い将来、必ず重役のポストに就くと周囲から言われてた。だから、そんな彼の足を引っ張る訳にはいかないと思って・・・私・・・』

「どうしたの?」

『付き合ってる事は、周囲に内緒にしよう。仕事が落ち着いたら、二人の仲を話そう。本当は俺だってみんなに自慢したいんだ。でも今は我慢しようなって彼に言われて・・・嫌われたくない一心で、言われた通りに内緒にしました』

「あ~・・・卑怯な男がよく使う手だね」

『はい・・・私、本当に彼が好きだったから・・・なのに・・・うっ!』

「わ、分かった分かった。まずは、茶でも飲んで落ち着いて。な?」

今にも号泣しそうな幽霊を宥(なだ)め、茶をすすめたつくしは、話の展開が何となく読めるだけに憂鬱な気分に陥った。
しかし、ここで突き放す訳にはいかない。
もし突き放したりしたら、それこそ地獄の果てまで追いかけてくるだろう。
そんなのはイヤだ。
って言うより、何で地獄行き前提の話をしてるんだ!?私。
と、自分自身にツッコミを入れたつくしは、先手必勝とばかりに、涙をこらえる幽霊に向かって言葉を放った。

「体の関係を持ち、金品を貢ぎ、二股かけられフラれたってパターンでしょ。違う?」

『・・・六股です』

「はっ?」

『私を含め、6人の女性と関係を持って・・・うっ・・・うわぁ~ん!』

「はぁ!?6人ってどういう事よ」

『知りませんよ!そんなの、こっちの方が聞きたいくらいです!』

「あ、ま、そ、そうよね」

逆ギレされた挙句、そら恐ろしい目でギロリと睨まれたつくしは、これ以上霊を刺激するのは得策ではないと悟り、相手が口を開くまでじっと我慢した。
そしてしばらく後、逆ギレし、ひとしきり泣いた事によりすっきりしたのか、徐々に落ち着きを取り戻した霊は、ポツリポツリと当時の事を話しだした。

『身だしなみを整えるのも、出世街道にのる一つの手段だって言われたから私、買ってあげたんです。高級スーツとネクタイとワイシャツと革靴を』

「一式揃えたら、かなりの額になるねぇ」

『はい。でも、当時の私は幸せを感じてました。彼の役に立ててるって。それに彼も、甘えられるのは私しかいないって言ってくれてたし』

「完全にヒモ野郎・・・いや、続きをどうぞ」

『上司の覚えもめでたく順調に出世し、足場も固まりつつあったから、そろそろ私達の仲を公表するだろうと思ってたのに・・・』

「思ってたのに?」

『取引先の重役の娘さんと婚約したって・・・社内で発表されて・・・私、頭が真っ白になって』

「そりゃ、頭真っ白になるわ。で?正気に戻った後は当然、十発くらい殴ったんでしょうね!?」

『いえ。彼の言葉を耳にして、更に頭がグシャグシャになっちゃって』

「何て言ったの?そのクズ男は」

『恋愛と結婚は別物だ。恋愛は自由、結婚は不自由。だから、自由気儘な恋愛をしてたんだって言われました。それと・・・』

「自由の意味をはき違えてるな。で、後は何て?」

『彼の憧れてる人が「同じ女と3回以上は寝ない」「何人の女と付き合えるか挑戦」「13股してる」とか言ってるみたいで、それを彼が真似して・・・』

「・・・ちょっと待って」

手を挙げ霊の言葉を遮ったつくしは、眉間にシワを寄せながら軽く舌打ちした。

霊が付き合っていたクズ男が憧れている人物とやらに、思い当たる節があった。
バツイチではあるが、F4の中で唯一の独身者であり、未だに女遊びが絶えない茶道家のボンボンが、同じ事をよく口にしていたのをつくしは知っている。
記憶が確かなら、彼が大学生の時から一貫して口にしているモットーではなかったか!?
まさか、こんな所で繋がりが出てくるとは。
と、心の中で嘆息したつくしは念の為に、クズ男が憧れている人物の名を霊に訊ねた。

『えっと、何だったかな。西ナントカさんって言ってた気がします。夜の街では有名らしくて、生まれも育ちも良い、かなりVIPな人だって言ってました』

「・・・エロ門の野郎」

『えっ?』

「いや、何でもない。貴女の怨み、晴らしましょう」

『本当ですか!?』

「うん。但し、そのクズ男にではなく元凶に・・・だけどね」

『あ、はあ・・・』

「ふっふっふっ・・・天誅を喰らえ!エロ門め」

霊の腰が引けるほどの不気味で邪悪な笑みを浮かべたつくしは、自由気儘な茶道家のボンボンの顔を思い出しながら、どんな天誅を喰らわそうかと考えていた。

〈あとがき〉

困った時の総ちゃん頼み(笑)
当サイトの総ちゃん、動かしやすいです。
逆に、あきらが動かしにくくなりました。ヤベェヤベェ。

能事いい感じ(CPナシ)

2020-05-11 11:15:00 | CPナシ(花男)
「本日はお日柄もよく───」

「幾久しくお納め下さい──」

結納時の口上が、静寂に包まれた高級旅館の一室で響き渡る。
豪華な結納品に、厚みのある御袴料。
男性が女性の家に婿入りする為、通常の倍以上の御袴料が男性側の家に納められた。


「本日は誠にありがとうございました。無事、結納をお納めすることが出来ました。何卒、幾久しく宜しくお願い申し上げます」

結びの口上をしたところで、両家の緊張感がふと和らぐ。
この様な場は、婿を迎え入れる側は一生に一度の、婿に出す側は初めての経験とあって、やはり常ならぬ緊張感を身にまとっていたようだ。
それを証拠に、婿取りをする女性側の両親は、結納の儀を無事に行えたと同時に、安堵の溜息を漏らした。

「いやはや。この様な場は初めてでして、いつになく緊張致しました」

「本当に。この子が何か仕出かすのではないかと私、ヒヤヒヤしましたわ」

軽口を叩きながら優しい瞳で自分を見やる母親に、結納の儀の主人公である女性は不満げな表情をのぞかせた。

「ちょっとママ、ひどくない?」

「あら、そうかしら?お転婆で落ち着きなくて、おっちょこちょいで。三拍子揃ってるじゃないの」

「ひっどぉ~い!ねぇ、ひどいと思うよね!?つくし」

「いや、その、まあ・・・何と言うか」

「何で言葉を濁すのよ!?つくし。滋ちゃん、泣いちゃうから」

「何も泣かなくても・・・」

「滋さん、牧野さんを困らせないの。いくら牧野さんでも、本当の事は言えないわ」

「ひっどぉ~い!」

そんな親子喧嘩と言うかじゃれあいと言うか、そんなのは正直、どうでもいい。
出来れば他所でやってくれ。
それよりも、早く解放してくれないだろうか。
そもそも何で、私はこの場に呼ばれてんの。
明らかに部外者ですよね?私。
と、心の中で抗議するつくしを他所に、男性側の家族も会話に参加し始めた。

「愛嬌がおありで元気がよろしくて、素晴らしいお嬢様じゃありませんか。ねぇ?家元」

「うむ、その通りだ。滋さんの婿になる廉三郎は果報者だな」

「はい。これもみんな、牧野さんのお陰です。本当にありがとう、牧野さん」

「廉三郎の兄である僕からも、礼を述べさせてもらうよ。滋さんとの縁を運び、結んでくれてありがとう。牧野さん」

「あ、はぁ・・・」

そんな大袈裟な・・・と、言いたいのをグッと堪えたつくしは、誰にも気付かれる事なく溜息を溢した。

本日は、大河原家と西門家の結納が行われた。
大河原家の一人娘である滋の元に、西門家の三男である廉三郎が婿入りするカタチとなったのだ。
西門家の長男と同じく、茶の世界に関心を抱かずビジネスの世界に興味を抱いた廉三郎は、西門の家から出る決意をしたのだ。

幸いな事に、廉三郎は経営コンサルタントとして活路を得ている。
商才もあり、中々の切れ者だと評判も高い。
そんな廉三郎を婿として迎え入れる大河原家にとって、これほど心強い事はない。
おまけに、西門流家元の三男とあって血筋も確か。
こんな良縁は滅多に転がりこまない。
お転婆で破天荒な娘の結婚には、少々どころかかなり頭を悩ませていただけに、滋が廉三郎と結婚したいと言い出した際、すぐに話をまとめたのだ。

「牧野さんが滋と廉三郎君を引き合わせてくれなければ、今日という日を迎える事は出来なかった。改めて私からも礼を言わせてもらうよ。ありがとう、牧野さん」

「そ、そんな!滋さんのお父様、お礼なんてしなくていいですから。別に私がどうこうした訳ではないですし」

「そんな事はありませんよ。牧野さんが滋さんと一緒にお茶のお稽古をして下さったから、廉三郎さんと巡り会う事が出来たんです。ですから、私からもお礼を言わせて下さいね」

「ほ、本当に結構ですから!滋さんのお母様」

礼を言うくらいなら、早く私をこの場から解放してくれと言いそうになったつくしは、慌てて手で口を押さえ、本日何度目かの溜息を吐いた。

滋の母親が口にした通り、滋と廉三郎の橋渡しをしたのはつくしだ。
あまりにお転婆で落ち着きがない滋を心配した母親が、強制的に茶の稽古をするよう厳命し、それに逆らえぬ滋が半ば強引につくしを誘って、西門流に入門したのだ。

つくしにとっては完全に貰い事故なのだが、西門流の家元夫人にしてみれば、

『飛んで火に入る夏の虫』
『もっけの幸い』

状態であった。
道明寺財閥の気難しい息子と、それ以上に気難しい母親が誉めちぎる嫁を世話したつくしに、家元夫人も何とかすがりたいと願っていたのだ。
だが、つくしとは一度しか面識がなく繋がりもない。
さて、どうやってお近づきになろうかと思案していたところ、つくしの方からやって来てくれたのだから、家元夫人の喜びはいかばかりか。
想像に難くない。

つくしと滋には自ら稽古をつけようとしたが、家元夫人が直接稽古をつけるとなると、どんな憶測を呼ぶか分からない。
よって家元夫人は、教授の資格を持つ廉三郎のお付きに稽古を依頼したのだ。
そしてこの後どうなったかは、語るまでもない。
本当に、人の縁なんてどうなるか分かったもんじゃないなと、つくしが当時を懐古する中、両家の会話は続く。

「ところで家元。家元には三人のご子息がおありでしたな」

「ええ」

「本日の主役である三男の廉三郎君、長男の祥一郎君はこの場にいる。しかし、次男の総二郎君の姿が見当たらないのだが・・・」

「大河原さんに大変失礼だとは思いますが、アレは本日、私の代役として地方に行ってもらってます」

「代役?」

「ええ。若宗匠としての自覚を持たせる為にも、私の代わりに行かせた方がいいと牧野さんからアドバイスをもらいましてね」

厳格な家元にしては珍しく微笑を浮かべると、つくしの方へと視線を向けた。
滋の父親が指摘した通り、この場に総二郎はいない。
それは、つくしの助言を受け入れた家元の命(めい)により、仕事で地方に出向いているからだ。
実は、この結納の事はおろか、滋と廉三郎が交際している事すらも総二郎は知らない。
総二郎どころか、政財界の誰にも知られず二人は交際を続け、結納まで漕ぎ着けたのだった。

「茶道にほぼノータッチとは言え、弟がいる。それが西門さんの一つの甘えに繋がってると思うんですよね」

「ニッシーの甘え?」

「ええ。何かあれば弟に頼ればいいっていう、甘い考えが。でも、その弟が西門を出て大河原を名乗るとなると!?」

「どうなるの?つくし」

「長男は家を出て医師に、三男も家を出て大河原家に婿入り。こうなると、西門さんにかかる重圧は半端じゃない。若宗匠として、責任ある行動をとらないといけなくなる。女遊びも度が過ぎると、一門衆だって黙っちゃいないでしょうし」

「黙ってない?」

「西門の名は、名家だけあって重い。嫁入りする方も相当の覚悟がいる。当然、心細くもなる。そんな時、頼りになるのは旦那だけ。けど、肝心の旦那は夜な夜な女漁りをしにクラブへ。そんな男の元へ、娘を嫁がせたいと思います!?」

「随分ハッキリ言うね、つくし」

「だって、事実じゃないですか。女と何人付き合えるか挑戦って言ってる様な男ですよ?」

そんな男が一人の女で満足する訳ない。
浮気ありきの男の元へ、可愛い娘を嫁がせる親がいます?
娘が不幸になるのを知って、誰が若宗匠に嫁がせます?
誰もいやしない。
色々な意味で面倒くさい名門西門流に嫁がせなくても、世間には他にも御曹司がいる訳だし。
と、辛辣な事を西門家の前で口にするつくしの勢いは止まらない。

「嫁の来てがなければ、跡取りは出来ない。そうなると、西門流の未来に暗雲が立ち込める。それを一門衆は恐れているのでは?」

「なるほどね~」

「あの男は、自分の家が名門であるが故、嫁選びも難航するって見抜いてる。だから、名家のお嬢さんと交流がない私に嫁選びをさせようと、あんな事を言い出したんですよ」

「そっか。結婚を長引かせて、その間に女遊びをしようって魂胆なんだ。ニッシーは」

「そうです。だから、滋さんと廉三郎君の結婚を、敢えて内緒にしてもらったんです」

油断させ、いきなり奈落の底に突き落とす。
それくらいしないと、あの男の女遊びは止まらない。
長男はまだ独身だが、三男は結婚が決まり婿入りする。
長男は母方の実家の姓を名乗っているし、三男は大河原姓を名乗る事が決まっている。
そうなると、直系で西門を名乗れるのは総二郎一人しかいない。
となれば、いかな遊び人でも尻に火がつき、女漁りしてる場合じゃないと分かるだろう。

黒い笑みを浮かべながら、嬉々として話すつくしを目にした両家は、

『牧野つくしは侮(あなど)れない』

と、其々が心の中で呟いた。


〈あとがき〉

このブログでの総ちゃんの扱い、どうなってるのかしら。
自分で書いておきながら、不安になってくる(笑)




能事終われり(CPナシ)

2020-05-05 22:45:18 | CPナシ(花男)
※司がオリキャラと結婚します。ご注意下さい。



人間万事塞翁が馬とはよく言ったもので、本当に人の人生などどう転ぶのか分かったものじゃないと、牧野つくしは常々そう思っている。

世間を騒がせた道明寺財閥のお坊っちゃまとの恋も、結局は数年もたずに終止符を打った。
原因はいくつか重なったが、最大の原因となったのが遠距離。
東京とニューヨークという距離の壁は、庶民の雑草パワーや野獣の破壊力を持ってしても、打ち破る事は出来なかった。
ただ「好きだ」という気持ちだけでは、どうにもならない状況がある。
本人達だけではどうにもならない、世界情勢の変化というものがある。
一つ歳を重ねる度に、周りの環境が変わる。
それを肌で感じた。嫌になるくらいに。
だから、結果的にニューヨークの野獣と友達関係に戻れたのは、互いにとってベストだったんじゃないか。
少なくとも、つくしはそう思っている。
但し、

「牧野つくしは、俺様が唯一認めた至上最強で最高の女だ。だから、牧野が認めた女じゃねーと、見合いも結婚もしねぇ。牧野以上の女がいるワケねーけど、牧野が認めた女なら仕方ねぇ。俺様も結婚してやる」

と、日本語が不自由な日本人、道明寺財閥次期総帥が上から目線で、訳の分からぬ事を言い出したのには辟易し、困惑もしたが。
しかし、司のこの発言がつくしにとって吉と出た。
司と別れたつくしを排除しようとする輩は、ごまんといる。
フリーになったつくしを警戒する某の親も、少数いる。
そんな中での司のこの発言は、つくしの身を守る盾となり鉾となった。

あの天下の道明寺財閥のお坊っちゃまが、絶大なる信頼を寄せる女、牧野つくし。
そのつくしを害したらどうなるか、そんなのは火をみるより明らかだ。
もしつくしに危害など加えたら、あっという間にこの世から抹殺されるだろう。
危害を加えた人物、家族、会社、何もかも全てが。
後悔してもしきれぬくらいに。
それは、社交界に身を置く者ならば誰でも承知している事柄。
つまりは暗黙の了解。


「最初は『勝手な事を言ってんじゃないわよ』って思ってたけど、今となっては感謝しかないわね」

「何で?」

「だって、暗に私との復縁はないって言ってるようなもんだから。私が認めた女なら結婚するとは言っても、私と結婚するとは言ってない。つまり、道明寺司の花嫁レースから外れた事になる」

「そっか。復縁する可能性があるなら、排除しようとする権力者もいるだろうけど、花嫁レースに最初から参加しないのであれば、次期総帥の怒りを買ってまで排除する必要はないものね」

「うん。お陰様で、危害を加えられる事もなかったよ。最強の野獣・・・庇護者が目を光らせてくれてたからね」

陰でつくしに危害を加えるバカがいるかもしれない。
そんな心配をした司によって、つくしの身の回りは常にSPが配置されていた。
司が結婚するまでの間は。

「今はSPついてないの?つくし」

「うん。道明寺が結婚したからね。もう私に危害加える人もいないだろうし」

「大丈夫?」

「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう、彩子」

自分の身を心配してくれる彩子という女性に、つくしはニッコリと微笑んでみせた。
実はこの彩子と呼ばれた女性、つくしの大学時代からの親友であり、道明寺司の妻でもある。
当然ながら、つくしが二人の間を取り持った。

「道明寺が『牧野が認めた女なら結婚する』なんて言っちゃったもんだから、鉄の女・・・道明寺の母親からのプレッシャーが凄かったよ」

「そうなの?」

「それはもう!道明寺に釣り合うお嬢さんを早く見つけなさいって。あたしゃ、見合い婆じゃないっつーの」

今でこそ笑い話にも出来るが、当時は本当に大変だったのだ。
司の母親からのプレッシャーと、道明寺財閥の跡取りに娘を嫁がせたい権力者からの圧が。
司が好意を抱き、鉄の女の眼鏡に叶い、周囲が納得する様な女性を見つけなければならない。

「そんな女性、何処にいるのよって投げやりになってたんだけど・・・」

気付いてしまった。
自分の身近に、周囲が納得する様な女性がいる事を。
京都の茶道家の娘で、大学時代からの親友でもある山科彩子だ。
西の山科、東の西門と言えば、茶道家の二大巨頭として名高い。
その山科流の家元の娘が、彩子である。
茶道家の中でも群を抜いて格式高い山科流。
規模や門下生の数では西門流が上回っているが、伝統や家格の面で言えば、山科流の方が上をいく。
おまけに、日本経済界のドンと山科流家元は親友同士。
政財界にも顔が利く。

「これほどの良縁なら、鉄の女も納得するって確信したよ。でもさ、鉄の女が納得しても、当の本人が納得しないとな~」

問題はそこだった。
司には、人から勧められたものを瞬時に拒否し、反発する癖がある。
それは、物だけでなく人に対してもそう。
その点を、つくしは危惧していた。

「偶然を装い、彩子と道明寺を会わせる。あの時は本当に神経尖らせたわ。だって、初手で躓(つまず)いたら台無しになっちゃうもん。ま、それも杞憂に終わって良かったけどさ」

結論から言えば、二人の仲は急速に縮まり結婚にまで辿り着けたので、めでたしめでたしなのだが───

「違うところでね、厄介事が発生しちゃって・・・」

「厄介?」

「私から言わせると、完全に悪ノリ。あのバカ三人は」

そう言いながら、思わずつくしは頭を抱えた。
と言うのも、司が良縁を得たのは牧野つくしのお陰だという話を聞いたF3が、

「「「俺も、牧野が認めた女としか結婚しない」」」

などと、口を揃えて言い出したからだ。

「アイツらの本心は分かってるのよね」

そう。つくしは見抜いていた。
良縁を見つけるにしても、三人相手にはさすがの牧野でも時間がかかるだろう。
その間に自由を謳歌してやる。
まだ、結婚という名の墓場になんて入りたくないという、三人の見え透いた魂胆が。

「複数の女性にいつ刺されてもおかしくないエロ門に、不倫好きなマダムキラー、三年寝太郎のぐうたらエセ王子。さて、次は誰に引導を渡そうかな」

三人の運命や如何に!?
それは、つくしの手に委ねられているのであった。


〈あとがき〉

旧「たゆたふ」ブログでお馴染み、山科彩子を登場させました。
当ブログの「慕情残火」という話にも出てきます。
茶道家の娘という基本的な設定は同じですが、性格はそれぞれ微妙に違ってきます。






沈め屋(花男CPナシ) 後篇

2020-03-23 10:33:40 | CPナシ(花男)
※この話は、2017/6/20にヤフーブログ「たゆたふ」、2019/4/6「たゆたふ弐」でアップしたものです。


浮気した彼氏に詰め寄ったところ、逆上され殺されてしまったという若い女性。
その女性が住んでいた部屋で、二ヶ月ほど暮らす事になったつくしであるが早速、初日から怪奇現象の洗礼を浴びる羽目になった。

まずは手始めにラップ音が部屋中に響き渡り、次に電気が突然消える。
そして日が経つにつれ、閉めたはずの扉や襖(ふすま)が自然と開いたり、洗面所の水がいきなり流れたり、人を引きずる様な音が聞こえてきたりと、不可解な出来事が続いた。

さすがのつくしも、これには薄気味悪いものを感じたが、おいそれと逃げ出す訳にもいかず、バイト代を手に入れる為、我慢して住み続けた。
そんな中、遂につくしは遭遇してしまう。
そう。
この部屋で殺された前の住人である、若い女性に。

「・・・うっ!」

あまりの息苦しさに目を覚ましたつくしは、信じられない光景を目の当たりにする。

恨みがましい瞳をこちらに向けながら、死ね死ねと連呼し、自分に馬乗りになって首をギュウギュウ絞め上げてくる女性の霊。
その目は狂気に満ち満ちており、普通の人間ならば悲鳴を上げ失神するところだろうが、生憎つくしは普通の人間・・・いや、精神状態ではなかった。

昼間、街中で偶然見かけた元彼とその相手女性の幸せそうな姿。
自分一人を不幸にし、何喰わぬ顔で日々を過ごす元彼に、言い知れぬ怒りを覚えた。

---許せない。絶対に。このヤロウ。ふざけんな。

ドロドロとした怒りのマグマを胸の内に納め、やり場の無い思いを持て余していたつくしは、霊に首を絞められた事により、何かが弾けた。

右手を握りしめ拳を作り、それを、


「つくしパーンチ!」


自分の首を絞め上げる霊の顔面に向け、思いきりグーパンチをお見舞いしたのだ。
当然ながら、意表を突かれた霊は、驚愕した面持ちでつくしを見つめる。
しかしつくしは全く意に介する事なく、怒りの丈を霊にぶつけた。


「何すんねんワレェ!苦しいやろがアホンダラ!」

『・・・』

「何でウチがアンタに首絞められなアカンねん。関係あらへんやんけ。恨むならワシやなく、アンタを裏切った男ちゃうんけ!?」

『・・・ハイ』

「こっちは親が借金作ってトンズラするは、勤務先が倒産するは、彼氏が浮気相手を妊娠させて結婚するはで、踏んだり蹴ったりや。恨みたいのはウチの方や!ボケ!カスゥ!」


そう言うや否や、枕をむんずと掴んだつくしは、それを霊にめがけ思いきり投げつけた。

余談ではあるが、何故つくしが関西弁を話すかというと、大学時代からの親友がコテコテの関西弁を口にし、それがうつったからである。
おまけに、浮気した元彼や倒産した会社の上司が関西出身で、常日頃から関西弁を使っていた為、自然とつくしも関西弁をマスターしてしまったのだ。
ちなみに、コテコテの関西弁を話す親友は、あきらの妻の座に君臨している。

さて、話を戻そう。

思いきり枕を投げつけられ『痛い』と呟く霊に、つくしはベッドから下り、仁王立ちしながら更にまくし立てた。

「殺されて悔しいのは分かるけど、恨む相手間違えんなや。浮気した彼と相手の女に取り憑きなはれ。ほんで、その二人を気が済むまで懲らしめたら、成仏しぃや。いつまでもコッチの世界にいたらアカン。ええな!?」

『・・・ハイ』

「分かったなら、サッサとここから去(い)ねや」

『ス、スミマセンデシタ』

あまりのつくしの剣幕に恐れをなした霊は、ブルブル震えながらこの部屋から去っていった。

牧野つくし、後厄。
職ナシ金ナシ男ナシの三拍子揃った崖っぷち。
この出来事をキッカケに、次々と事故物件に住む仕事が舞い込む様になり、伝説の女となる。

人呼んで「沈め屋」・・・そう、霊を「鎮める」のではなく、グーパンチで「沈める」という意味の「沈め屋」である。



〈あとがき〉

久々にコメディを書きたくなったので、こんな話を書いてみました。
書いていて、「霊って痛みを感じるのか?」と思いつつ、感じる事を前提に進めました。


〈あとがき2〉

この「ろうげつ」でも、沈め屋つくしチャンを書いていこうと思ってます。
コメディのつくしチャンは、やっぱりこういったパワフルな女じゃないとね(笑)