ろうげつ

花より男子&有閑倶楽部の二次小説ブログ。CP :あきつく、魅悠メイン。そういった類いが苦手な方はご退室願います。

父さん頑張れ 16

2020-10-24 08:58:16 | 父さん頑張れ(総つく)
観光協会に籍を置き、観光案内所の窓口で働く総二郎の1日は、大体決まっている。
朝8時半の始業に間に合うよう家を出て、余程の事がない限り、定時である夕方5時には窓口業務が終了する。
そして、残務処理を行ってから帰路に着く。
そんな日々を、総二郎は送っている。

基本的に土日は出勤なのだが、修平の学校行事に合わせて休みを取るなどの融通は利くので、総二郎に不満はない。
何より、家族仲良く毎日を過ごせる事が幸せなのだ。
西門の家にいた時とは比べ物にならない程、総二郎の心は満たされ、充実した日常を過ごしている。

さて、そんな総二郎の留守を狙ったかのように、牧野邸を訪れた人物がいる。
一人は道明寺財閥の御曹司である道明寺司で、もう一人は、

「つくしぃ~!体の具合はどう!?元気?」

「ぐ、ぐえっ・・・ぐ、ぐるじぃ」

「おい、滋!牧野が潰れちまうだろ。放してやれ」

「は~い」

司に放してやれと言われ渋々つくしを解放したのは、石油関連を扱う大企業、大河原グループの御令嬢である大河原滋だ。
新築祝いならぬ新居祝いと称して、桜子や優紀と一緒に牧野邸に遊びに来た事があるが、その時以来の再会となる。

数ヵ月前に会った時と比べ今の滋は、雰囲気が柔らかくなり微かな色気まで漂わせている。
と言うか、司との距離感や空気感が明らかに変わった。
司の隣に立ち、幸せオーラを撒き散らしている。
それは司にも言えて、つくしの前だから自重しているものの、それでも滋を見る瞳からは愛情が駄々漏れている。
全く隠せていない。
だが、つくしは敢えてそこには触れず、笑顔を浮かべながら「いらっしゃい」と二人を招き入れた。

「ウチの人も息子もいないけどよかった?」

「あ、ああ。まずはお前にちょっと用事があってな」

「ふ~ん・・・用事ね。それにしても突然すぎない?」

「あ、まあ、その、ワリィ」

「別に私はいいんだけどね。療養中で仕事してないし。それにしても、珍しい組み合わせだよね。どうしたの!?」

「うっ!その、まあ、何だ・・・うん」

二人揃って畏まり、独特の緊張感を身にまとうその姿を目の当たりにしたつくしは、直ぐにピンときた。
あ、幸せな報告をする為にわざわざ来てくれたんだな・・・と。
だから、ここは我慢強く相手側から切り出すのを待とうと心に決め、笑顔を絶やさぬまま向こうの出方を待った。
とは言いながら、ほんのちょっぴり「サッサと言っちまいな」という圧もかけてはいたが。

そんなつくしからのプレッシャーなど気にも止めぬのか、はたまた余裕がないだけなのか、顔を真っ赤に染めた司がシドロモドロになりながら事情を説明した。

「あ、あのよ、俺達その、けけけけけ」

「毛?」

「違ぇよ!けけけっ結婚するんだ!」

「わぁ!本当に!?」

「お、おう」

予想はしていたのでそこまでの驚きはなかったものの、それだと滋に悪いかなと思い、つくしは両手を叩き喜びを露にした。

「おめでとう、滋さん。よかったね」

「うん・・・ありがとぉ~つくしぃ」

「一途な想いが実って本当によかった。凄く嬉しいよ」

「ほ、本当に!?」

「もちろん!道明寺に幸せにしてもらってね。そして滋さんも、道明寺を幸せにしてあげてね」

「うん!」

「道明寺、どんな時でも滋さんを守ってあげて。例え世界中の誰もが敵になったとしても、アンタだけは滋さんの傍から離れないで。二人で手を携えて難局を乗り越えてね」

「お、おう!」

「道明寺家に嫁ぐプレッシャーは、他家に嫁ぐのとは似て非なるものだから。滋さんだって心細いはずよ。アンタがしっかり支えてあげないと。分かった!?」

腰に手を当てながらそうピシャリと言い放ったつくしの姿は、どことなく学生時代を彷彿とさせる。
元気いっぱいに蹴りを入れ、全速力で走り回り、必死になって物事を追い、誰よりも親身に相談事に乗る。
そんなパワフルで少しお節介なつくしを、久しぶりに垣間見た司は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら先を続けた。

「ったりめーだ。滋は俺様がちゃんと守ってやる」

「司ぁ~」

「滋さん、安心してお嫁に行けるね」

「うん・・・うん。嬉しいよぉ」

「道明寺、滋さんの手を離さないでね。アンタを幸せに出来るのは滋さんだけなんだから」

「分かってるよ」

かつて、この手で司を幸せにしたいと思った事もあった。
短い交際期間だったけど、あの時の想いは本物だった。
だけど、想像以上の障害が二人の仲を阻んだ。
手を携え、どんな困難も乗り越えようという気力すら削がれるほどの障害が。

未熟だったのだ、二人とも。
敢えて言うなら、そこまでの覚悟と勇気と自覚が足りなかったのだとつくしは懐古する。
本人同士は本気でも、周りの大人達はママゴトの様な恋愛にしか見えなかっただろう。
正に、若さ故の無謀。
好きだけではどうにもならない社会。そして、社会のしがらみ。
それが痛いほど分かり、身に滲(し)みた。

だからこそ、幸せになってもらいたい。
心休める温かい場所をやっと見つけた司と、孤独な司を見守り続けた滋には。


「改めまして、ご結婚おめでとうございます」

「「ありがとう」」

「わざわざ報告に来てくれてありがとう。分刻みのスケジュールなんでしょ?大丈夫なの?」

「ああ。牧野には直に一番で報告したかったからな」

「司と相談して決めたの。つくしには直接会って報告しようって。だから、司に時間作ってもらっちゃった」

「ありがとう」

じゃあ、無理して時間作ってくれたんだ。
折角だからお茶でもと思ったけど、無理っぽそうね。
などと残念そうに口にするつくしを他所に、司と滋は悪戯っ子のような笑みを浮かべ、

「昼までなら大丈夫だ。仕方ねぇから茶を飲んでやる。何なら早めの昼飯も食ってやるぞ!?」

「つくしお手製のラスクとあられ食べたい!」

其々が勝手な事を言いながら、呆気にとられるつくしを他所に、さっさと牧野邸に上がりこんでいった。



父さん頑張れ 15

2020-10-18 19:03:06 | 父さん頑張れ(総つく)
「牧野にしては、随分と大胆な発言をしたもんだ。私を抱いてくれ~って総二郎に懇願するとはな」

「ちょ、ちょっと!」

「今更、恥ずかしがるなって。事実だろ?」

「ぐぬぬぬぅ」

「言われた総二郎も、余裕がなかったんだな。普段のアイツなら、絶対にからかってるぜ?『つくしチャンってば積極的なのね』ってな」

それだけ二人とも、追い詰められてたって事か。ま、何はともあれヨカッタじゃん。
お互い、腹の内が読めたんだから。
これで益々、夫婦の絆が深まるな。
めでたい事じゃないのと言いながら、優雅に紅茶を飲む男を、つくしは膨れっ面をしながらじっと見つめた。

「図星だったからフテくされてんのか?」

「そうじゃないけど・・・何だかなぁ~」

「ん?」

「何でペラペラ話しちゃったんだろ。そこまで詳しく話すつもりなかったのに」

「何でだろうなぁ」

「う~ん。多分、雰囲気って言うか空気感?上手く言えないけど、美作さんの持つ独特のオーラにやられちゃったのかも。だって美作さんってさ、妙な安心感があるんだよねぇ。話し易いんだ」

「聞き上手って事か?」

「あ~そうかも。何でも受け止めてくれそうだもん。そういうのを『器がデカイ』って言うんだろうなぁ」

「それはそれは。けどな、そんなに誉めても何も出ないぞ?」

「ちぇっ!誉めて損した~」

「「アハハハハ」」

顔を見合わせ楽しそうに笑い合う二人の姿は、どこからどう見ても彼氏彼女の関係だ。
お互いがお互いに寄せる空気感が、とても穏やかでほのぼのとしている。
見ているこちら側が微笑ましくなるほどに。
しかし、幸か不幸かこの二人の間には、恋愛に発展する「何か」が足りない。
だから、友達以上恋人未満といった関係性が続いているのだ。
それは類ともまた、ひと味違った関係性とも言える。

「で?結局、子作りすんのか?」

「露骨な言い方しないでよ」

「だって事実だろ」

「ぐっ!」

「総二郎とちゃんと話し合ったんだろ?まだ結論は出てないのか?」

「ひとまずは・・・ね」

ここで言葉を一旦切ったつくしは、レモンスカッシュを一口飲んで気分転換してから、子作りについての見解をあきらに話した。

「自分達だけで結論を出さず、まずはお医者さんと相談して決めようって話になったの。妊娠、出産に耐えられる体なのか、出産できたとして、産後の肥立ちはどうなのか、その辺りが判断できないからさ」

「まあ、それが妥当だろうな。妊娠中に何かあれば、中絶しないとなんねぇ場合もあるだろうし。最悪のパターンを想定して、総二郎や医者と話し合え。それからでも遅くはないだろ」

「うん」

「今は取り敢えず、体力を取り戻す事に専念しろ。まだ退院して日も浅いんだからさ。ま、体に負担のかからないセックスなら問題ないんじゃね?あんまり溜めすぎると体によくないぞ」

「セッ・・・!美作さん!」

「ぷっ!何年経ってもウブだねぇ、牧野は」

顔を真っ赤にしてプンスカ怒るつくしを、優しく包み込むかのような瞳で見つめていたあきらは、ふうっと軽く息を吐いたかと思うと、その目線を遠くに見えるビル群へと向けた。

その表情はどこか淋しげで、何かを悟り諦めたかのようで、それでいて新しい一歩を踏み出そうとしている、そんな複雑な感情が入り交じっているように見える。
それは、母性本能をくすぐるには充分で、憂いを帯びたあきらの表情を目にしたつくしの心は持っていかれ、つい「何か困った事があれは言って」などと手を握らんばかりに詰め寄った。

当の本人であるあきらは、そこまでの計算はしていなかった様だが、つくしからの折角の申し出なので、それはそれで便乗する事にした。

「今度さ、俺と最初で最後のデートしてくれないか?」

「・・・はっ?」

「心配しなくても、総二郎には事情を説明して了解を得る。ちゃんとその日のうちに家には帰すから、区切りをつける為にもデートして欲しい。頼む」

「その日って・・・デートって・・・区切り?どういう事?」

予想だにしなかった発言に加え、意味不明な言葉を羅列され困惑するつくしに、チラリと視線を向け苦笑いを浮かべたあきらは学生時代の、とある出来事を淡々とした口調で述べた。

「牧野は忘れてるだろうけど、夜の公園で偶然会って、肩並べてブランコに乗った事があったんだ。そん時、スゲェ落ち込んでてさ。そんな俺に『美作さんって月みたい』的な事をお前は言ったんだよ」

俺がいないとF4はバラバラだ。
誰かに頼られてるって凄い事だよね。
決して前には出てこないけど、アイツらの癒しみたいだってお前は言ってくれた。
それが今でも忘れられないと、当時を懐古しながらあきらは言葉を続けた。

「俺に合うのは牧野みたいな女だって直感的に思った。でも、その時は司がお前に惚れてたからな。だから、ブレーキをかけた。この想いが膨らまないようにって」

「・・・」

「その段階で、俺はダメだったんだよ。本当に好きなら、司に宣戦布告すればよかったんだ。正々堂々ぶつかればよかったんだ。だが俺は、お前が司と別れた後もブレーキをかけ続けた。司に悪いと思ってな。変な義理立てをしちまった。何も、遠慮する必要なんてなかったんだ」

「美作さん・・・」

「そんな俺を後目に、総二郎は周りに気取られずお前に想いをぶつけた。アイツの事だからきっと、告白した後どうするかも考えてたはずだ。牧野と付き合う以上、中途半端な真似はしない。牧野が自分を受け入れてくれたら絶対に手放さないし、将来を見据えて西門を捨てる覚悟を決めてたはずだ。現に総二郎は、跡を継がないと早々に宣言してたし、お前と生活する為の資金を貯めてた。けど、肝心なお前が姿を消した。西門を捨てる頃合いを見計らってた最中にな」

と、総二郎が教えてくれた。
お前と再会した後にな。
そう話すあきらの表情は、自嘲しているように見えた。

「所詮、俺の牧野に対する想いはブレーキかけられる程度のものだったって事だ。けどな、俺は俺なりに牧野を想ってる。この想いは本物だ。ただ、表現に差が出ただけだ」

「・・・」

「と、思うようにしてる。じゃなきゃ、惨めだろ?ま、そう思い込もうとしてる時点で、かなり惨めなんだけどな」

「美作さん・・・」

突然、告白まがいの言葉を浴びせられたつくしは、明らかに動揺し、目が泳いでいる。
そんな戸惑いの色を見せるつくしに、わざと明るい笑声を上げ、場の雰囲気を変えようとしたあきらは、冷めた紅茶が入ったティーカップに視線を落とすと、感情を抑えながら言葉の先を続けた。


「見合いが決まってさ、多分そのまま結婚する流れになる」

「えっ!?見合いに結婚!?」

「だから、自分の気持ちに区切りをつける為にも、お前とデートしたいんだ」

完全に俺のワガママだ。
そんな事は重々承知してるし、牧野を困らせるだけだって分かってる。
だけど、それでも我を通したい。
デートしたからと言って、どうにかなる
訳でもないし、どうにもならない。
でも、前に進む為には必要なんだと、あきらは常になく粘った。

「俺にとって、牧野は特別な女だ。きっと、死ぬまで忘れられないだろう。何せ、F4全員を陥落させるくらいの女だからな、牧野は」

「はぁ!?」

「間違いなく、お前はイイ女だよ。きっと、総二郎がお前をイイ女にさせてるんだろうな」

そう言いながらつくしを見つめるあきらの瞳は、ほんの少しだけ濡れ、微かに揺れていた。




父さん頑張れ 14

2020-10-13 16:54:48 | 父さん頑張れ(総つく)
「修平に、弟か妹を作ってあげないのかって聞かれてたでしょ?その時、キッパリと作らないって答えてたよね」

「ああ」

「どうして?」

「どうしてって・・・」

「欲しくないの?」

「あ~・・・ん~」

「何で即答出来ないの!?何で困ってるの!?私との子供はもういらないの!?」

「ちょっ!お、落ち着けって」

「だって、私に手を出そうとも触れようともしないじゃない。再会してから一度も、私を抱こうとしなかった。同じ布団で寝てるのに、そんな雰囲気も作らないでガーガー寝ちゃうじゃないの。私相手じゃ、そんな気が起こらない!?子供作る気ないから、そういった行為をしないの!?その気にならないくらい、私は魅力ないの!?」

「興奮すると心臓に負担がかかる。頼むから落ち着いてくれ」

「何でそんなに冷静なの!大好きな人が自分に手を出さない辛さ、惨めさが分かる!?大好きな人が隣で寝てるのに、何もされない苦しさが分かる!?」

「それは俺も同じだって」

「嘘言わないで!F4イチ女好きなアンタが、女日照りでいられる訳ないじゃない」

「ヒデェ言われようだな、オイ」

「事実じゃないの。女好きなアンタが・・・て、まさか、違う女でスッキリさせてるんじゃないでしょうね!?あ、愛人がワンサカいるから、私に手を出さないんじゃ・・・だ、だからセックスレスなのね!?私達・・・う・・・うわぁぁ~~ん!」

「どうしてそーなる!話が飛躍し過ぎだ」

気が高ぶったのか、大きな声をあげて子供みたいにピーピー泣くつくしを、総二郎はそっと抱きしめ、優しく背を撫でながら彼女が落ち着くのを待った。

確かにつくしの指摘通り、総二郎は再会してから一度も彼女と肉体関係を結んでいない。
だがそれは、決してつくしが言っている様な理由からではない。
総二郎には総二郎なりの悩み、考えがあるのだ。
まさかつくしも、同じように悩んでいたとは夢にも思わなかったが。

「ククッ」

「何を笑ってるのよ」

「いや、似たモン夫婦だなと思ってよ。だって、同じ悩み抱えてウジウジしてたんだぜ?俺達。相性抜群だな」

そう言いながらつくしの背を撫で続けていた総二郎は、彼女が落ち着きを取り戻したのを声色で確認すると、己の考えを静かな口調で話し始めた。

「俺がお前に手を出さなかったのは、怖かったからだ」

「怖い?」

「ああ。心臓に負担がかかるんじゃないかと思ってな」

心の底から愛してやまない女を相手に、手加減など出来やしない。
きっと暴走し、とてつもない愛欲を覚え、それをぶつけてしまう。
そんな自分の激しい愛を、心臓の弱いつくしが受け止めきれるかどうか。
もし、そのせいで心臓に負担がかかり、寿命を縮める結果に繋がったら、悔やんでも悔やみきれない。
だから、手を出せなかったと総二郎は伝えた。

「女遊びしてた頃の俺なら、手加減して女を抱けた。本気の相手じゃないから冷静でいられるし、自分をコントロール出来る。自分勝手に果てる事も出来るし、相手を早々と果てさせる事も出来る。けど、お前相手だと勝手が違うんだ。我を忘れ、激しく求めちまう。お前が満足出来るまで奉仕したいと思うし、メチャメチャに乱れさせたいし、そんなお前の姿を見て、俺もメチャメチャに乱れたいし、欲望の赴くまま、手加減なくお前を貪りたいと思ってる」

「なっ!」

「けどよ、そんな事したらお前の心臓が持たねぇだろ。寿命縮めちまうだろ。だったら、しなくてもいい。お前を永遠に失うくらいなら、欲望を抑える。セックスレスでもいい。新しい命もいらねぇ。今の幸せを維持し、守る事に徹する」

「っ・・・」

「本音を言えば、お前を抱きたい。惚れた女が隣にいるのに、手を出せないなんて拷問だろ。よくぞまあ、自制出来てるなと自分で感心するぜ。そこら辺のエセ坊主より精神鍛えられてるんじゃね!?俺って」

「ふふっ」

抱く、抱かないという激しい葛藤の中、己の欲望を抑え、家族の幸せを守ると決心した総二郎の心根に触れ、つくしは彼の腕の中で泣き笑いの表情を浮かべた。

自分と同じく悩んでいた。
それも、心臓の弱いこの体を慮って。
そんな彼に我慢させていた事を申し訳なく思うと同時に、それだけ愛されているんだなと知れて嬉しくもあった。
けど、それ以上に心苦しい思いも抱えていた・・・いや、現在進行形で抱えているつくしは、この際、胸の内でくすぶっている思いを、洗いざらいぶちまけようと決心した。


「私一人が悩んでるだけだと思って・・・勝手な事を言ってごめんなさい」

「いや、俺も悪かった。ゴメンな?」

「ううん、お互い様だから・・・私ね、正直に言うと貴方との子供が欲しい。貴方に愛されたい。求めて欲しいって思ってる」

「・・・ああ」

「でもそれって、凄い自分勝手だよね。だって───」

不慮の事故でもない限り、間違いなく貴方より先に私が逝く。
それを分かっていながら子供を望み、後を託そうとしている。
子供の世話は大変だ。
一人親の子育ての難しさを身を持って体験し知っていながら、同じ事を貴方にさせようとしている。
そんな身勝手な自分に腹が立つと同時に、相反する思いもあると、つくしは総二郎に告げた。

「私が死んでも、子育てに追われてたら悲しむ暇はないかなって。後はね、修平に弟か妹を作ってあげたいの。あの子、弟や妹を欲しがってたから」

「修平が・・・そうか」

「貴方に一人でも多くの家族を残したい。誰もが羨む仲良しな家族を」

「今でも充分、羨ましがられてるぞ?あきらや類、司に」

「そうなの?」

「ああ。あきらんトコは家族の絆が強いから別にして、司や類は本当に羨ましがってたぞ?俺達を」

司はまだ姉ちゃんがいるからマシだけど、類なんか気の毒なくらいに家族愛に恵まれてねぇからな。
案外、ああいうヤツがサッサと結婚しちまうのかもよ!?温かい家庭を求めて。
と、口にする総二郎の背中に手を回したつくしは、類が安寧の場所を得られますようにと心から願った。


父さん頑張れ 13

2020-10-11 08:07:13 | 父さん頑張れ(総つく)
「浮かない顔してどうしたの?心配事?」

「心配事・・・に、なるんすかねぇ」

「ハッキリしないねぇ。折角のハンサム顔が台無しだよ」

「ハンサム顔って・・・久々に聞きましたよ」

愛妻弁当に箸をつけていた総二郎は、職場の貫禄ある熟女先輩の言葉に思わず苦笑いすると、その手をふと止め軽く息を吐いた。


つくしの退院祝いと称し、あきら達が牧野邸に押し掛けてきたのは2ヶ月前の事。
多忙を極める三人が一堂に会する事などなきに等しく、それを充分承知しているからこそ、総二郎はつい三人を引き留め夜通し盛り上がってしまった。

あきらと類はそうなる事を見越していたのか、翌日の午前中まで休みをとっていたようだが、司はそこまで気が回らなかったらしく、夜明け前に何処からか現れた秘書に叩き起こされると、そのまま連行されてしまった。
そして何故か、この日を境に妻であるつくしの様子がおかしくなっていった。

一点を見つめ厳しい顔をのぞかせたり、眉間にシワを寄せ思い詰めた表情を浮かべたりなど、物思いにふける時間が増えていったのだ。
それとはなしに何かあったのかと訊ねてみたものの「何でもない」の一点張り。
話が平行線で終わる。
正直、総二郎もお手上げ状態だ。


「問い詰めれば問い詰めるほど、意固地になりそうだしなぁ。いや、なりそうって言うか、絶対意固地になる。どうしたもんか」

「術後の経過が思わしくないだとか、実は違う病気も併発していたのが発覚しただとか、病気にまつわる事を言えずに悩んでるのかもよ?」

「それはないっすよ。経過は順調だし、心臓以外は問題ないし」

「う~ん・・・じゃあ、何で悩んでるんだろうねぇ」

「ですよねぇ」

100%大丈夫とは言いきれないが、今のところはつくしの体に異常はないし、術後の経過も安定している。
定期検診には総二郎も必ず付き添っているので、彼女の体が病魔に蝕まれていない事も承知している。
こちらが驚くくらい、心臓以外は丈夫なのだ。

となると、病気以外で頭を悩ませている事が分かってくる。
ただそれが、何に対しての悩みなのかが分からないのだ。

「アイツらが遊びに来た直後から、様子がおかしくなったんだよなぁ」

「アイツらって、牧野君のお友達の事かい?」

「ええ。俺の幼馴染み達ですよ」

「・・・それだ」

「はっ?」

「だから、気が鬱(ふさ)いでる原因だよ」

明後日の方向を見ながら不気味な笑みを浮かべた熟女先輩は、怪訝そうな顔をする総二郎を置き去りに、お弁当をつつきながらまくし立てた。

「ほら、アレだ。焼け木杭(ぼっくい)に火が付いたってヤツよ」

「はぁ!?」

「遊びに来た友人の中に奥さんの元彼氏か、奥さんが好きだった人、いたんじゃない?」

「・・・ああ、いましたね」

「それそれ!旦那の事は好きだけど、でも元彼氏や好きだった人の事も忘れられない。久しぶりに再会して、胸のトキメキを覚えたんだね。抑えられなかったんだよ。幸せな家庭を壊したくないけど、女としての自分の幸せも手に入れたい。正に、板挟みだよ。胸が苦しくて切なくて、憂いちゃってんのよ。熱いパッションがたぎっちゃってんのよ。昼ドラの世界だねぇ~」

自分がたてた仮説に熱弁をふるい、どこぞのラブソングの歌詞みたいな事を口にしてウットリ酔っている熟女先輩を後目に、総二郎は愛妻弁当をひたすら掻きこみながら、今夜にでも膝をつきあわせ話し合ってみるかと呟いた。

そして、その日の夜。
修平を寝かしつけ、一息つく頃合いを見計らった総二郎は、つくしを寝室に誘(いざな)い、胸の奥につかえているモンを吐き出してみろと、穏やかな口調で促した。


「そろそろ打ち明けてくれてもいいんじゃね?一人で悩んでても答えは出ねぇだろ。そんなに俺は頼りない夫か!?」

「ち、違っ!そうじゃないの!」

「じゃあ何だ?俺らは夫婦だろ、一つの家族だろ。デケェ壁が立ち塞がっても、一緒に乗り越えていこうって約束したじゃねーか。まさか忘れたのか!?」

「忘れてないよ!」

「じゃ、話してくれよ。俺はさ、お前の翳(かげ)った顔なんざ見たくねぇんだ。お前には笑顔でいて欲しい。憂いがあるなら取り除いてやりたい。だから頼む、何を悩んでいるのか教えてくれないか?じゃなきゃ、前に進めない」

まさか、熟女先輩の言うような『焼け木杭に火が付いた』という訳ではないだろうが、それでも全くないとは言いきれない。
司は兎も角、類に対する不安は少なからずある。
と、包み隠さず己の胸の内を話す総二郎に、つくしは首と手を左右に振りながら「ないない」と、力強く否定した。

そして否定した後、軽く深呼吸をしたつくしは、意を決して悩んでいる事を口にした。

「盗み聞きするつもりじゃなかったの」

「あん?」

「夜中に喉が渇いて、水を飲もうと台所に行こうとしたんだ。その時に偶然、みんなの会話を聞いちゃって・・・」

「俺達の会話?」

「うん。その・・・こ、子作りの話とか・・・その・・・」

「あ~・・・聞かれてたか」

苦笑いを浮かべながら、照れを隠す為に口許を手で覆う総二郎を他所に、つくしの顔色はどこか優れない。
何とも言えない感情が身体中を駆け巡って、この気持ちをどう表現すればいいのか分からないのだ。
しかし、これ以上ノラリクラリと総二郎の追及をかわしていても、何の解決にも至らない。
そう観念したつくしは、上手く伝えられるか分からないと前置きしてから、ポツリポツリと自分の気持ちを伝え始めた。



父さん頑張れ 12

2020-10-02 08:02:00 | 父さん頑張れ(総つく)
基礎がしっかりしている古民家を改築し、そこを新たなる根城に構えた牧野邸で、つくしの退院祝いが行われた。

「「「牧野、退院おめでとう」」」

「ありがとう、みんな」

「よく頑張ったな」

「うん。色々とありがとう」

「おかーさん、おかえりなさい」

「ただいま、修平」

類に無茶ぶりされたあきらと司も無事、夕方に合流し、主役であるつくしや修平、そして総二郎と共に祝い膳を囲む事が出来た。
祝い膳と言っても退院したばかりのつくしが拵(こしら)えたものではなく、気遣いと気苦労の人、あきらが前もって仕出し料理屋に連絡し、牧野家まで祝い膳を配達するよう手配したものである。

「仕出し料理を手配してくれてありがとう。F4の中で一番、大人で気配り上手な美作さんだけあるね」

「よせやい。誉めたって何も出ねぇぞ?」

「何だぁ~。誉めて損した」

「「あはははは」」

顔を見合わせ、楽しそうに笑声を上げるあきらとつくしの姿を目にした総二郎は、思わず涙ぐみそうになるのをグッと堪えた。

今でこそ元気に笑ってはいるが、術後に服用した薬が体に合わず、つくしは副作用でかなり苦しんだ。
嘔吐を繰り返し、食欲は減退し、気力も衰えてくる。
傍で付き添う総二郎も、思わず弱音を吐きたくなるほどだった。
そんなつくしの姿を間近で見てきただけに、今こうして元気に笑っている姿を目にするだけで感慨深いものがあるのだ。

そんな総二郎の心情を知ってか知らずか、マイペース王子である類が、あきらとつくしの間に割って入ってきた。

「調子はどう?まだ体力戻ってないんだから、あんまり無理するなよ。こういう時こそ、総二郎をこき使わなきゃ」

「心配してくれてありがとう。かなり体力も戻ってきたから大丈夫」

「そうは言っても牧野は弱音を吐かないし、頑張りすぎるきらいがあるから心配だよ」

「本当に大丈夫だから。心配し過ぎだよ、花沢類」

「牧野に関してのみは・・・ね。それよりもいい!?無理だけは絶対しないで。役に立つかは不明だけど、何かあったら総二郎に全てを押しつけるんだよ?それでも不安なら、俺を頼ってくれていいからね」

「・・・おい」

色々と突っ込みどころは満載だが、何処から何をどう突っ込んでいいのか分からない。
いや、正確に言うと、突っ込む気力が喪失している。
類に何を言ったとて所詮、糠に釘、暖簾に腕押し状態なのだ。
だから総二郎は、類に対する文句を口にせず我慢して呑み込み、愛する妻と息子、そして友人達の会話する姿を、微笑を浮かべながら見守っていた。

そして、そんな和気藹々とした楽しい時間はあっという間に過ぎていき、修平の就寝時間がやってきた。


「修平をお風呂に入れてから、寝かしつけてくるわね」

「もうそんな時間か。じゃあ、お前も修平と一緒に風呂入って寝ちゃえよ。退院したばっかで疲れてるだろ。無理すんな」

「でも、それじゃあ集まってくれたみんなに申し訳ないし・・・」

「コイツらは勝手に来たんだから気を遣う必要ねぇよ。心配しなくても俺がちゃんと面倒みとくから。お前は気にせず修平と寝てくれ」

「う、うん、分かった。四人で集まるのも久々だものね。積る話もあるだろうし、遠慮なく先に休ませてもらうね」

「ああ。コッチの事は気にせずゆっくり休んでくれ」

「ありがとう。じゃ、お言葉に甘えてそうする。美作さん、花沢類、道明寺、お先に失礼するね」

「「「おやすみ」」」

「ミーマ、類クン、ジー、おやすみなさい」

「「おやすみ、修平」」

「おいコラ、ちょっと待て!修平、何で俺がジーなんだ!それじゃまるで、俺様がジジィみたいじゃねーか」

納得いかんとばかりに目くじらを立て抗議する司だが、本気で怒っている訳ではない。
もし本気で怒っているのならば、口より先に手足が出るはずだ。
それが分かっているからこそ、総二郎やあきら、類はニヤニヤしながら傍観しているのだ。
ただ一人、司に対し容赦なく手足を出すつくしだけは、まともに受け取ったようだが。

「ちょっと道明寺!子供相手に何ムキになってんのよ。大人げない。別にジーだろうがジジィだろうが、どっちでもいいでしょーが!」

「どっちでもいい訳ねぇだろーが!類はクン付け、あきらはミーマ呼び、だったら俺はツカでいいだろーが。ああ!?」

「仕方ないじゃない。私がアンタを道明寺って呼んでるんだから」

「ああ!?」

「私の言い方を修平が真似してるんだから、仕方ないって言ってんの」

「ンだと!?」

「美作さんって言いにくいでしょ?修平的には。だから修平は修平なりに考えて、美作さんをミーマ、花沢類は名前が言いやすいから類クン、で、道明寺は『どーみょーじ』って言いにくいから、最後の『じ』を取ってジーって呼ぶようにしたんじゃない」

「ぐっ!いや、しかしだな───」

「まさかアンタ、修平からツカって呼ばれたいが為に、私に名前で呼べって言うつもりじゃないでしょうね!?冗談でしょ!そんなの、彼女にでも呼んでもらいなさいよ。私はアンタの嫁でも彼女でもないんだから。私にとって、道明寺は道明寺でしかないの!」

それ以上でも以下でもない。
その事をよ~っく覚えておきな。
おととい来やがれ、スカポンタン。
と、江戸っ子ヨロシク啖呵をきったつくしは、戸惑いの色をみせる修平を抱っこしながら、居間を出て風呂場へと向かった。

そんなつくしの背を言葉もなく見つめていた四人だったが、風呂場の扉の閉まる音が聞こえてきたと同時に、司以外の連中が腹を抱えて笑い始めた。

「くくくっ!さすが牧野、泣く子も黙る道明寺財閥の次期総帥を見事に黙らせたな。学生時代を思い出すぜ」

「ぐうの音も出なかったね、司。世界広しと言えど、司相手にそんな事が出来るのは牧野と司の姉チャンくらいでしょ」

「天下無敵の嫁を持つ俺は果報者だ。これからは、司が何かやらかしたらアイツに言おう。そうすれば、司も大人しくなるだろ。ま、あの言葉遣いは子供の教育上、宜しくはないけどな。そこだけは注意しとくか」

「「確かに」」

「って事で司、今後は自分の言動に責任を持てよ!?理不尽な事をしてみろ。俺の嫁である牧野つくしの鉄拳を、何発か喰らう羽目になるぜ?」

「ウッセー!この俺様をバカにしやがって!てめぇらいい加減に────」

『道明寺ウルサイ!風呂場にまでアンタの声が聞こえてくるわよ!静かにしなさい!』

『お、お母さんの方がウルサイんじゃ・・・』

風呂場から聞こえるつくしと修平の声を耳にした三人は、憮然とした表情をのぞかせる司を横目に、またも腹を抱えながら豪快な笑声を上げた。
そんな四人の更(ふ)け行く夜は、まだまだ続くのであった。