ろうげつ

花より男子&有閑倶楽部の二次小説ブログ。CP :あきつく、魅悠メイン。そういった類いが苦手な方はご退室願います。

紫土に染まる 肆

2021-11-03 11:40:52 | 紫土に染まる(あきつく)
紫土に染まりし怒りの焔(ほむら)に、培ってきた全てが焦土と化す。
やり場のない感情が、出口を求め暴れだす。
鋭い牙が、獲物を求め疼(うず)きだす。

一度に天国と地獄を味わった15回目の誕生日を、俺は絶対に忘れない。
忘れてなどやるものか。



紫土に染まる 肆



家族に誕生日を祝ってもらい、幸せな気分を味わいながら自室へと戻ろうとした際、

「あきら、私の書斎に来なさい」

いつになく厳しい表情をのぞかせる親父に引き留められた。
柔和で温厚で厳しくも優しい美作肇としてではなく、美作家を束ね導いていかんとする美作家当主としての顔を見せる親父に、自然と俺の気持ちも引き締まる。

つくしの親父さんを不慮の死で失った事により、ジワリジワリと邸内に綻びが出始めてきた。
有り体に申さば、統率力と団結力が低下し、まとまりがなくなってきた。
人畜無害で飄々とし、頼りなさげで時として不安に思う事もあったけど、実はつくしの親父さんは美作家の執事として上手に手綱を引いていたんだ。
その事を、失ってから気付かされるとは思いもしなかった。

多分、その辺りの話をするんだろうなと予測をつけた俺は、大人しく親父の後に続き、書斎へと足を踏み入れた。
するとそこで待ち受けていたのは、恐ろしいくらい顔立ちが整った、見た事もない男だった。

「親父、この人は・・・」

「そうか、あきらは初対面だったな。紹介しよう。私の『シノブ』だ」

「!?」

「初めまして坊っちゃん」

「っ!初めまして。美作あきらです」

親父の『シノブ』から放たれる圧倒的なオーラに思わずしり込みしそうになったものの、それを面に出す事なく無難に挨拶を交わした俺は、不躾にならない程度に親父の『シノブ』を盗み見した。

一見、物腰が柔らかそうに見えるその風貌も、俺には空恐ろしく感じる。
一変すれば瞬く間に、悪鬼へと変貌するだろう。
何の躊躇もなく、ただ愚直なまでに親父の命令に従い、的確に敵の喉笛を咬みきって。
俺の目には、そんな獰猛な獣にしか見えない。
興味本位で深入りするのは危険だ。命取りになる。
そんなニオイが、親父の『シノブ』からは漂っていた。

「あきら、『シノブ』が気になるかもしれんが、今は私に集中してほしい」

「・・・あっ、はい」

「大事な話がある。そこに腰掛けなさい」

そう言いながら定位置の椅子に腰かけた親父からは、疲労の色がうかがえる。
これは、かなり難しい話になるかもしれないな。
そんな事をぼんやり思いながら、俺は親父の正面にある椅子に腰かけた。
するとそれを合図かの様に、親父は軽く息を吐いてから言葉を発した。

「つくしの家族が襲われた事件は、もうカタがついた。心配はいらん」

「・・・カタがついた?」

「そうだ」

「カタがついたって、どうやって犯人を・・・」

「今から『シノブ』に報告させる。シノブ、あきらに事件の全貌を聞かせてやってくれ」

「へいへい。じゃ、遠慮なく報告させてもらいますかね」

苦笑いしながら親父の背後に立ち、俺と対峙した『シノブ』は、事件のあらましについて淡々と話してくれた。
つくしの家族を襲った犯人達や、ソイツらの犯行に至るまでの経緯、そしてどう始末をつけたのかまで全て。
それらを顔色一つ変える事なく俺に報告する『シノブ』からは、何の感情も読み取れない。
ただ業務の一貫として報告をするだけ。
冷静に正確に、事のあらましを俺に伝える。
そんな『シノブ』から告げられた真実は、俺を絶望の淵へと追いやるに充分だった。

「・・・俺のせいだ。俺がつくしの家族を奪ったんだ。つくし以外の女に興味がないって突っぱねたせいで、あのジジィはプロの殺し屋につくしを襲うよう依頼した。そして・・・結果的につくしの家族が殺された。元はと言えば俺が・・・俺が悪いんだ!つくししか眼中にないって態度を示したから。安易な言動をとったからジジィは・・・ジジィは強硬手段をとったんだ。俺が・・・俺がつくしを苦しめた元凶なんだ!」

「あきら、自分をそんなに責めるな。自分で自分を追い詰めるな」

「だって事実だろ!俺が軽薄な言動を慎んでいれば、こんな事にはならなかった。俺がつくしを苦しめたんだ。誰よりも幸せにしたいと願った女を、俺が誰よりも不幸せにした」

「つくし本人はそんな事、思ってもいない。だからあきら、そんなに───」

「そんなの分かんねーだろ!」

「あきら・・・」

「俺が引き金になったんだ。俺がつくしの家族を奪った張本人だったんだ。それなのに俺は、つくしの全てを手に入れたと喜んで、浮かれて、有頂天になって・・・最低な男だ」

「「!!」」

「・・・は・・・はははっ!そうか。だからあの時、つくしは首を縦に振らなかったんだ。俺からのプロポーズを受け入れてくれなかったんだ」

「・・・なるほど。つくしと関係を持ったんだね」

「何だよ。文句でもあるのか!?」

「いや、そうじゃない。納得したんだよ」

「はっ?」

「つくしが『あきらのシノブとして働きたい』と言った真意と覚悟がね。そうか、つくしはつくしで自分の気持ちに区切りをつけたんだな。そして、あきらの恋人としてではなく、あきらの『シノブ』としてあきらと共に人生を歩む決意を固めたんだ」

・・・今、何て言った!?
つくしが俺の『シノブ』として働きたいだって!?
冗談か?もちろん冗談だよな?
俺の『シノブ』になりたいなんて、性質の悪い冗談に決まってる。
だって『シノブ』だぞ。
主人に命を捧げ、主人の為だけを考え、主人の為なら顔色一つ変えず人を殺め、いつも危険と隣り合わせで過酷な任務を遂行するあの『シノブ』になりたいなんて、何かの冗談に決まってる。

「何を言ってるんだ親父。つくしが『シノブ』になりたいなんて、そんな事を言う───」

「事実だ。つくし本人から『シノブになりたい』と申し出があった。これからは、あきらと美作の為に働きたいと・・・両親のように美作を守りたいんだと、私の目を見てはっきり言ったんだ。私のシノブもその場にいたから間違いない」

「お嬢ちゃんの腹は決まってる。何が何でも坊っちゃんの『シノブ』になるつもりだ。いや、なる。そんな強い意志を感じたね」

「ふざけるな!そんなの、認められるワケねーだろ!」

「認める認めないは坊っちゃんが決める事じゃない。坊っちゃんの『シノブ』を決める決定権は俺のご主人様、つまり、美作家の当主が持っている。坊っちゃんが口を挟む権利はない。そもそも、坊っちゃんが迂闊にお嬢ちゃんの名前を出さなけりゃ、こんな事態にならなかっただろ」

「シノブ、あきらを追い詰めないでくれ」

「へぃへぃ。ご主人様は本当にお優しい事で」

「すまないね、あきら。シノブは物事をオブラートに包む事を知らないんだ」

「・・・」

「あきら?」

「・・・何も考えたくねぇ」

「えっ?」

「美作の為だとか美作を守るだとか、知った事か。煩わしい」

「・・・」

「つくしと一緒にいたい。そんな簡単な事が出来ねぇ家なんて、どうだっていい。俺はただ、つくしが欲しい。つくししかいらねぇ。つくしが傍にいてくれるだけでいい」

「・・・」

「ああ、そうか。そんな幸せを望む事すら、俺には許されないよな。俺の顔なんて見たくもねぇだろうし」

自分の家族を奪った元凶の俺を、つくしが受け入れてくれるはずがない。
例え受け入れてくれたとしても、つくしの心の奥底で燻(くすぶ)る火種を消す事なんて出来やしない。
俺に対するわだかまりはなくなりゃしない。
きっと俺を、本心から許してくれる日なんて来やしない。
そんな絶望が俺を襲う。

「あきら、つくしはそんな子じゃない。あきらのせいで家族を失ったと思う様な子じゃない。もしそう思うなら、自ら『シノブ』になりたいとは言わないんじゃないのか?つくしは二心を抱くほど器用じゃない。自分の置かれた立場を理解し、ベストを尽くそうとする」

「親父・・・」

「つくしを誰よりも理解しているあきらなら分かるだろ?」

「分かりたくもねぇよ。ちくしょう!つくしを苦しめた自分が憎くい。俺の心に爪をたてるつくしが憎くい。そこまでつくしを追い詰めた自分が憎い。俺に何も言わず勝手に人生を決めるつくしが憎い。俺を好きだと言いながら、離れていくつくしが憎い。でも・・・それ以上につくしが愛しい」

「あきら、そこまでつくしを・・・」

「坊っちゃんよ。たかが15のボウズに、愛の何たるかが分かるのか?そもそも愛って何だ。そういうのはさ、軽々しく口にするモンじゃねーと思うぜ!?」

「シノブ!」

「はいはい。これ以上、余計な事は言いません」

ホールドアップし降参のポーズをとるものの、全く悪びれた様子のない『シノブ』に、俺は何も言い返せなかった。
だって、『シノブ』の言葉に間違いはないから。
世間知らずの中学生の俺が、愛の何たるかを知る由もないから。
だから不思議と『シノブ』に対して怒りは沸いてこない。
その変わり、自分に対する怒りだけは沸沸と沸いてくる。
抑えても抑えきれない怒りが。
そんな俺を正面から見据えていた親父は突然、

「先代のところに行きなさい」

と言いだした。
先代というのは、前当主である俺のジィ様の事だ。
早くに隠居し、世捨て人のように暮らすジィ様は、あまり俺達家族と交わろうとしない。
顔を合わせるのは年に1回程度。
それだけ行き来がないジィ様のところに行けなんて、親父は何を考えてるんだ。

「何でジィ様のところに行けと?」

「今のあきらの心には、先代の言葉が一番響くと思ったからだ」

「ジィ様の言葉・・・」

「これからどう美作の家と向き合っていくか、つくしと接していくか、先代と話をして答えを見つけてきなさい。あの人の哀しい過去の話を聞いて、自分の行く末と照らし合わせなさい」

有無を言わさぬ親父の圧に負けた俺は、ジィ様のところに行くと約束し、ここを後にした。



紫土に染まる 参

2020-12-11 09:21:44 | 紫土に染まる(あきつく)
紫土に染まりし血の花びらに、俺の心は沸き上がる。
幼き頃より想いを寄せ、生涯の伴侶にと秘かに願う女の花を、自分のこの手で散らした。

必死に俺にしがみつき、痛みをこらえつつ受け入れ、羞(は)じらいを見せるその姿に、愛しさが募っていく。
愛とは何たるか、詳しく知らぬ身なれど、今のこの感情は間違いなく愛だと断言できる。

そんな幸せな気持ちで迎えた15回目の誕生日を、俺は一生忘れない。



紫土に染まる(あきつく) 参



深夜0時、部屋のドアをノックする音が耳に届いた。
遠慮がちなその音に、ノックする人物は女性だろうと当たりをつける。

最近、女性の使用人達から秋波を送られる機会が増えてきた。
多分、俺と関係を持ちたいが為のものだろう。
正直、鬱陶しいし煩わしい。
そんなメスの目をして物欲しそうに見られても、俺は昔から一人の娘(こ)しか眼中にない。
だから、このままやり過ごそうとしたのだが、

「あーちゃん、つくしです。寝ちゃってるのかな?」

再度、遠慮がちなノックの音と共に、俺の心を掴んで放さない娘の声が聞こえてきた。


「えっ?つくしか!?」

「あ、うん。遅くにゴメンね。話があるんだけど、中に入れてもらえる?」

「あ、ああ、分かった。すぐ開ける」

面食らいながらも素早くベッドから起き上がった俺は、そのままの勢いでドアに駆け寄り、そして急いでドアノブを回した。

「どうしたんだ!?こんな時間に」

「あ、うん。話があって・・・ここじゃ誰かの目に触れるから、中に入れてもらえると助かるかな」

「あ、そうだな。ワリィ」

そう指摘され慌てて周囲を見渡した俺は、誰もいない事を確認してから、つくしを部屋の中へと招き入れた。

「俺の部屋をつくしが訪ねるなんて珍しいな。ここ数年、近寄りもしなかっただろ。何かあったのか?」

「あ、うん。何かあったと言うか、お願いと言うか何と言うか・・・」

「つくし?」

頬を赤く染め、体を揺らしソワソワしながら視線をさ迷わせるその姿は、挙動不審としか言い様がない。
そんなつくしの様子に何かあるなと踏んだ俺は、急かしたりせず向こうから言い出すのをじっと待つ事にした。

すると突然、何を思ったのか自分の両頬をパシリと叩いたつくしは、意を決したかの様な表情をのぞかせると、そこから一気にまくし立ててきた。


「あーちゃんに『おめでとう』を誰よりも早く言いたくて来たの。あーちゃん、お誕生日おめでとう。大好きなあーちゃんのお誕生日をお祝いさせて下さい。とは言っても、高いプレゼントは用意出来ないから、その・・・あの、わわわ私のバージンを差し上げます。と言うか、貰って下さい。ハジメテの相手は大好きな人がいいから・・・あ、で、でも、あーちゃんには迷惑な話だったかな!?私はあーちゃんが大好きでも、あーちゃんはそうとは限らないし。想いが一方通行なら、こんな誕生日プレゼントなんて迷惑千万よね。誕生日プレゼントって言うより罰ゲーム的な感じだし、押し付けちゃってるし。だけど、これしか思いつかなくて・・・だから、その・・・私のハジメテを貰って下さい」

「・・・」

「い、いりませんか?牧野つくしのハジメテ」

「・・・」

「な、何か言ってよ、あーちゃん。居たたまれないんだけど」

「・・・・・・は?」

いや、ワリィ。
脳が完全に停止しちまって。
だってよ、マシンガントークをぶっぱなしてくるから、考えるヒマがねぇよ。
つうかさ、どのタイミングで息継ぎしてたんだ!?
すげぇな、つくし。
いや、そうじゃなくて、それよりも何だっけ?
あ~、そうそう、バージンがどうのこうの・・・って・・・何だって?

何だって!?


「つくし・・・確認していくぞ」

「う、うん」

「まず、俺の誕生日を誰よりも早く祝いたいって言ったな?」

「うん」

「安心しろ。つくしが誰よりも早く『おめでとう』を言ってくれた」

「本当!?よかった~」

「次に、大好きなあーちゃんって言ってたけど、その『大好き』の意味合いは何だ?家族愛的なものなのか、それとも一人の男として好きなのか。どっちだ?」

「えっと・・・一人の男としてです。あーちゃんは私の初恋の人で、今も好き・・・です」

このつくしの告白に、俺の体は歓喜に震えた。
まさか、つくしが俺に想いを寄せてくれてたなんて、夢にも思わなかったんだ。
時を待って告白するつもりだったのに、何だか格好悪いな。
何て呑気な事を言ってる場合じゃない。
自分からもハッキリ言っておかないと、鈍感なつくしには伝わらない。
それに思い至った俺は、つくしの肩に手を乗せながら自分の気持ちを伝えた。

「俺もつくしが好きだ。ずっとずっと昔から好きで、俺の嫁さんにするんだって心に決めてた。時期がきたらつくしに告白して、それから親父に認めてもらう頭でいたんだ」

「嫁さんって・・・あーちゃん!?」

「えっと・・・プロポーズの予告宣告ってヤツ!?告白はつくしに先越されたからさ、プロポーズは俺からしないと格好つかねぇじゃん」

本番のプロポーズはもう少し先になるけど、その時はもっとスマートにするから。
今はこれで勘弁な?
そう口にした俺を、つくしは何とも言えない表情で見つめた。
戸惑いと言うか困惑と言うか、喜びとは対極している感情と言うか。
兎にも角にも、俺のプロポーズを歓迎していない事だけは分かった。

「懸念材料でもあるのか?嬉しそうじゃねーな」

「う、嬉しい・・・けど」

「けど何だ?将来の事なんて分からない。俺が他の女に心変わりするかもって思ってんのか?そんなのは絶対ない。他の事柄に関しては絶対なんて言い切れないけど、つくしに対する想いだけは絶対だと言い切れる。だから心配すんな」

春から高等部に進学しようが、大学部に進学しようが、社会人になろうが、俺にはつくししか目に入らないし、つくししかいらない。
そう付け加えて言ったものの、やはりつくしの顔色は変わらない。曇ったままだ。

まあ、こればっかりは言葉だけでは信用出来ない部分もあるだろうから、態度でも示していかないとな。
そう自分に言い聞かせた俺は、先を続けた。

「牧野つくしのハジメテをいりませんかって言ったな?」

「うっ!・・・うん」

「いるかいらないかの二択なら、迷わず『いる』って返答する。惚れた女のハジメテを他の野郎に譲ってやるほど、俺はお人好しじゃない」

「ほほほ惚れた女!?」

「今更、動揺すんなっての。もっと過激な発言したんだぞ?つくしは」

「ぐっ!」

「それと、つくしは物じゃない。だから、自分をプレゼントするなんて二度と言うなよ!?」

「・・・はい」

「じゃ、善は急げと言うし!?つくしのハジメテを美味しく頂戴しますかね」

「あ、あーちゃん!」


俺にとって、至福の時間が始まる。


紫土に染まる 弐

2020-12-05 16:39:14 | 紫土に染まる(あきつく)
※話の内容に、流血や暴力に関する表現が出て参ります。苦手な方は回避願います。






紫土に染まりし絨毯の上で、のたうち回る仇の姿を目の当たりにした時、私の世界は急転した。
仇が倒れた周辺は血が点々とし、部屋の調度品が割れてガラスが飛び散っていた。
仇の右腕と右足の腱は切れ、顎の骨は砕けていた。

そんな日に迎えた14回目の年の瀬を、私は死ぬまで忘れない。


紫土に染まる 弐


美作家の当主には代々、二人の守役が付く。
一人は表舞台で活躍する守役で、現在は私の伯父がその任務にあたっている。
そしてもう一人、裏舞台で暗躍する守役がいる。
その守役は通称『シノブ』と呼ばれ、表舞台には一切姿を見せず淡々と汚れ仕事をこなす。
つまり、裏の仕事を厭(いと)わない・・・と、いう事だ。

当主の身にふりかかる火の粉を払い、危険を察知し回避する。
時として手を血で染め、常に頭を働かし五感を研ぎ澄ませ、どんな状況でも堪え忍ばなければならない。
何が何でも、主を守り抜くという強い意志を持って。
そんな『シノブ』が今、私の目の前にいる。
現当主である、あーちゃんのお父様と一緒に。


「はじめまして、お嬢ちゃん。俺の存在は知ってるかい?」

「はい。父から少しだけ聞いた事があります」

「そうか、マキさんから聞いてたか」

「・・・はい」

「マキさん・・・お父さんの件は残念だったな」

「・・・っ!」

「許せないだろう!?犯人を」

「あ・・・の・・・」

「犯人が目の前に現れたらどうする?」

「!?」

「目には目を、歯には歯をの精神でいくか?それとも、罪を憎んで人は憎まずの精神でいくか?お嬢ちゃんならどっちを選ぶかな」

「わ・・・たしは・・・」

「シノブ、つくしを追い詰めないでくれ」

「へぃへぃ。ご主人様はお優しいことで」

でも、優しさだけじゃ世の中生きていけないのよねと、おどけた口調でそんな事を言う『シノブ』の姿に、私の目は妙に惹き付けられた。

恐ろしいほどに整った相貌、全てを見透かさんが如く澄んだ瞳、そして、均整のとれた体躯。
聡明で冷静沈着そうに見える一方、儚げで危うい雰囲気も身にまとっている。
頼りがいがありそうで、それでいて母性本能をくすぐられるような、そんな相反する『シノブ』の危険な匂いに酔いしれそうになった。
けれど───

「当主には必ず一人の『シノブ』が付く。その『シノブ』は当主のみを守り、当主だけの命令に従う。そして、安易に人前に姿を見せない。そんな『シノブ』が私の目の前にいるのは、何か意味があるんですね?旦那様」

「よく分かったね、つくし」

「もしかして・・・私の家族を殺した犯人が見つかったんですか?」

「その通りだよ」

詳しくは『シノブ』から報告させる。
そう言い置いてから部屋の隅にある椅子に腰掛けた旦那様は、そこから静観するという立場を示した。
そんな旦那様をチラリと見、軽く息を吐いた『シノブ』は、私へと視線を移すと犯人について話し始めた。

「マキさん達を殺った実行犯はプロだ。だから既に、俺が始末しておいた」

「始末?」

「この世から抹殺したって意味だ。分かる?お嬢ちゃん」

「!?は・・・い」

「オーケー。じゃ、話を進めよう。実行犯がいるという事は、計画犯もいるという事だ。それは分かるな?」

「はい」

「その計画犯を取っ捕まえて、ココに連れてきた。ソイツらの口から直接聞くか?マキさんを殺った理由とやらを」

「・・・ソイツ『ら』って事は、計画犯は二人以上なんですか?」

「ほぅ・・・よく気付いたな。お嬢ちゃんのお察し通り、計画犯は二人だ」

どうするよ!?
会わないなら、こちらで適当に処分した後、マキさん殺害の経緯をお嬢ちゃんに伝える。
だが、直接会うって言うのなら、俺とご主人様はココで静観する。
さあ、決めな。

そう『シノブ』に促された私は、迷う事なく計画犯と対峙すると返答した。
すると、それを合図に『シノブ』は部屋の扉を開け、何処からともなく猿ぐつわされた計画犯二人を乱暴にしょっぴいてきた。

一人は見た事のないオジサンで、もう一人は美作邸に仕える執事。
確か、父親の部下にあたる人だ。
そんな人達が何で、私の家族を抹殺したの!?
何が目的なの!?理由は何!?
そう私が問うた後、『シノブ』が二人の猿ぐつわを外してくれた。
すると、

「あきら君には将来、ワシの孫娘を娶らせる予定だった。それなのにあきら君は、お前でないとダメだと言いよった。正気の沙汰とは思えん。どうせ、お前があきら君をたぶらかしたんだろう!薄汚い女め」

「執事の娘を娶ると言うのなら、私の娘でもいいはずだ。だから、私は牧野家を排除し、牧野さんのポジションを奪おうと考えた。そちらの御仁と協力してね。まさか、一番消えて欲しかった君が、生き残るとは思いもしなかったけども」

「お前は疫病神だ。お前のせいで家族は死んだんだ。ワシのせいではない!成るべくして成ったんだ」

「君の存在が、皆を狂わせた」


二人の男のあまりにも身勝手な物言いに、奥深く眠っていた夜叉が暴れだす。

壊シテシマエ

と。
そして気が付いた時には、護身用として持ち歩いていたメリケンサックで二人の顎を砕き、護身用ナイフで手足の腱を切り裂いていた。
致命傷を与えず、苦痛のみを与えて。


この瞬間、私の手は紫土に染まった。

紫土に染まる 壱

2020-11-27 08:45:22 | 紫土に染まる(あきつく)
※話の内容に、流血や死に関する表現が出て参ります。苦手な方は回避願います。







紫土に染まりし血の海で、突っ伏したままピクリとも動かぬ両親と弟の姿を目の当たりにした時、私の世界は暗転した。
二人が倒れた周辺には血溜まりができ、部屋の壁や天井にも血が飛び散っていた。
両親の体は鋭利な刃物で切り刻まれ、弟の額と心臓には銃弾が撃ち込まれていた。

そんな日に迎えた14回目の誕生日を、私は死ぬまで忘れない。



紫土に染まる 壱



私が生を享(う)けた牧野家は代々、美作家に仕える家柄だ。
その歴史を繙(ひもと)くと、平安末期にまで遡(さかのぼ)る。

皇籍を離れ、臣籍降下した元親王が美作の庄に土着した。
その際、牧野家が元親王の烏帽子親を名乗り出、それ以降ずっと美作家に仕え支えてきたのだ。
元親王とは言え生母の身分が低かった為、位階がそれほど高くはない牧野家でも元親王の烏帽子親になれ、娘を嫁がせる事も出来た。
時代によっては主である美作家と婚姻関係を結ぶ事もあり、血の繋がりは少なからずある。
但し、江戸時代に入ってからはそれが皆無となり、今に至るまでずっと主従関係が保たれてきた。

だから当然、私も弟もいずれは美作家に仕えるべきものだと思いそれに備え、両親から色々と学ぶ日々を過ごしていたのだ。
それなのに突然、その当たり前の日常が奪われてしまった。


「必ず犯人は見つけるから、無謀な真似はしないように。私を信じて待ちなさい。いいね?」

「・・・はい、旦那様」

「パパに任せれば何の心配もいらないわ。だからつくしちゃん、変な気をおこさないで。いいわね?」

「は・・・い、奥様」

「何があっても傍にいるからな。絶対につくしから離れない」

「あきら様・・・」

「身内しかいない場で、そんな他人行儀な呼び方すんな!俺はつくしを使用人だなんて思ってない。だから、昔みたいに俺を呼べ」

「・・・あーちゃん」

「そうだ。それでいい」

「あーちゃん・・・あーちゃん・・・あーちゃ・・・あ・・・ぅああ・・・ああああー!」

「自分を抑えず泣きたいだけ泣け。俺がいつだって受け止めるから。つくしは一人ぼっちなんかじゃない。つくしには俺がいる。一生かけてお前の心の傷を癒していくから。だから遠慮せず甘えろ」

そう言いながら私を抱き締めてくれたあきら様・・・いや、あーちゃんに、今だけは甘える事にした。
初恋の人の温もりを忘れない様に。
大好きな人の匂いを忘れない様に。

主従関係を結ぶに辺り、恋心など厄介で邪魔なだけだから。
冷静な判断を下せなくなり、惑う原因にもなるから。

だから私は、キッパリと絶つ。
あーちゃんへの想いを。
正式な主従関係を結ぶ為に。
心に鞭を打ちながら、血の涙を流しながら封印する。
あーちゃんへの恋心を。


※紫土・・・濃い赤褐色。


紫土に染まる(あきつく) はじめに

2020-11-26 19:16:19 | 紫土に染まる(あきつく)
新たに作品増やしてどうするって話ですが、それでも増やします。

この話は完全にパロディで、少しばかり血生臭い内容になっております。
設定も原作からかけ離れてます。

パスワード公開にしようかとも思いましたが、基本的に気軽に見てもらいたい派なので、公開作品にしました。

当サイトは万人受けする内容ではありませんので、苦手な方は回避願います。
ほんの少しだけ設定内容をば。


牧野つくし
美作家に代々使えてきた牧野家(分家)の長女。
美作あきらは初恋の人であり、現在も想いを寄せている。
とある悲劇により、運命が大きく変わる。


美作あきら
美作家の御曹司。
牧野つくしは初恋の人であり、生涯を共にすると心に決めている。
とある悲劇により、運命の歯車が狂いだし岐路に立たされる。


と、ザックリ紹介しました。
あまり期待せずお待ち下さいませ。