ろうげつ

花より男子&有閑倶楽部の二次小説ブログ。CP :あきつく、魅悠メイン。そういった類いが苦手な方はご退室願います。

うまずたゆまず(あき→つく←総) 3

2020-07-23 09:14:38 | うまずたゆまず(あき→つく←総)
運命を変える出会いとは、案外こんなものかもしれない。

品のある夫婦に連れ出され外出したつくしは、散歩中に偶然、古めかしい寺を見つけた。
お世辞にも豪華だとは言えない造りだが、手入れは行き届いていて小綺麗な寺である。
豪奢とは真逆の地味な佇まいのその寺に、つくしはひどく惹かれた。

「牧野さん、急に立ち止まってどうしたんだい?」

「このお寺がどうかしたの?」

「えっ?中に入るのかい!?」

「ま、待って!?牧野さん」

夫婦の言葉も耳に入らない。
街中の喧騒も、自然が奏でる音も同じく耳に入らない。
まるで魂が吸い寄せられるかの様に、ここに呼ばれているかの様に、つくしは足早に寺の門をくぐり境内へと歩みを進めた。
すると、そこに現れた風景は───


祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり
 沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらはす』

境内に作られた簡易的な舞台で琵琶を弾く老齢の女性と、年季が入った縁台に座る数人の聴衆者の姿だった。

静寂(しじま)の中に響く声。
撥(ばち)で琵琶の弦を弾き音を奏で、この場にいる者達を一気に物語の世界へと引きずりこんでいく。

『おごれる人も久しからず ただ春の夜の夢の如し
 たけき者も遂には亡びぬ ひとへに風の前の塵に同じ』

栄華におごる人も、それを長く維持は出来ない。
勢い盛んな人も、遂には亡びる。
演者の老齢女性が琵琶の伴奏でそう語る物語に、つくしは無意識のうちにのめり込んでいった。

知識としては知っていても、実際耳にする事など一度もなかった。
耳なし芳一の話は知っていても、平家物語については内容まで把握していなかった。

この演者が語る平家物語をもっと聞きたい。
この演者が語る平家物語をもっと知りたい。
この演者が作り出す世界に、自分も足を踏み入れてみたい。
そんな欲望がつくしの中に芽吹いていった。

しかし、外出時間は限られている。
そろそろ病院に戻らなければならない。
最後まで聴いていたいが、そういう訳にもいかないのだ。
もどかしさを感じつつ、つくしは後ろ髪ひかれる思いでこの場を後にした。
そんなつくしの姿を目にした夫婦は、互いに顔を見合わせ小首を傾げつつも、彼女と一緒に病院へと戻って行った。
そして、外出許可申請書に記した時間内に病室に戻ってくると、

「ケーキを切り分けるから、三人で食べましょう」

婦人がそう言い出し、いそいそとケーキを切り分け始めた。
そんな婦人の姿を目でぼんやり追いつつも、思い返されるのは、先程目にした老齢の琵琶奏者の姿だ。

凛とした佇まいに独特のオーラ、撥(バチ)で弦を弾いただけで聴衆者を自分の世界に誘う技量。
それら全てに、つくしは魅せられてしまった。
もっとあの世界に浸りたいと思った。
勿論、そんなつくしの変化に気付かぬはずもなく、

「あの琵琶奏者が気になるのかい?」

「!?」

微笑を浮かべた紳士が、つくしにそう訊ねた。
しかし、つくしは貝のように口をつぐんで何も話さない。
それを百も承知の上、紳士は更に言葉を続けた。

「祇園精舎の冒頭部分は、いつ聴いても身につまされるよ。たけき者も遂には亡びぬ、これは肝に命じておかなければならないな」

「・・・」

「今日聴いた祇園精舎は、特にそう思わされた。本当に素晴らしかったよ。あの奏者が語る平家物語は」

「・・・」

「やはり気になるようだね、あの奏者の事が。そんなに気になるのなら、あのお寺に行って奏者の名前を聞いてこようか」

紳士が放ったその言葉に、つくしは右目を輝かせ思わず力強く頷いた。
が、心を閉ざし未だに一言も言葉を発しない自分が、そんな図々しい願いをするのもお門違いだろうと思い至り、弱々しく首を横に振った。

いや、そもそも左目の光を失う原因を作ったF4の親に、自分が遠慮する必要なんてこれっぽっちもない。
むしろ、何でも要求してやればいいのだ。
一瞬、そう開き直ってはみたものの、それをすると借りを作ったみたいで、自分の矜持が許さない。
そんなつくしの心の葛藤を見抜いた紳士は、

「ママの手作りケーキを食べた後、あのお寺に行って聞いてこよう」

そう言いながら、婦人から受け取ったケーキを口に運んだ。
と同時に、病室の向こう側から来訪者を告げるノックの音が、室内に響き渡った。

「誰か来たようだね」

「そうね。私、見てくるわ」

「いや、ママは牧野さんの傍にいなさい。私が応対しよう」

そう言いながらケーキ皿を婦人に手渡した紳士は、優雅な足取りで病室の出入口まで向かうと、扉の引戸を少しだけスライドさせ来訪者の顔を確認した。
すると、

「あきら!?」

「親父!!」

扉の向こう側にいたのは、F4の一員である美作あきらであった。



〈あとがき〉

やっと、あきら登場です。
この後、どんな展開になるのやら・・・。



うまずたゆまず(あき→つく←総) 2

2020-07-18 08:00:47 | うまずたゆまず(あき→つく←総)
「謝って済む話ではないが、それでも謝らせてほしい。此度の左目失明の件、本当に申し訳ありませんでした。牧野さんに対し、取り返しのつかない事を息子が仕出かしてしまいました。償える罪でないことは重々承知していますが、それでも私達に償わせてほしい」

「本当に・・・本当に申し訳ありませんでした。牧野さんの左目が・・・左目の視力が失われた原因を息子が・・・ほ、本当にご、ごめんなさいっ!母親である私からもお詫びさせて下さい」

「・・・」

完全に心を閉ざしてしまった今、どんな言葉も胸に響かないし、届かない。
何も感じないし思わない。
喜怒哀楽が抜け落ちたような感じだ。
そんなつくしの心情を知ってか知らずか、いかにも上流階級に属するといった風体の夫婦は、彼女を気遣いながら言葉を続けた。


「体調の方はどうかな?食事はちゃんと摂れてるかい?」

「何か食べたいものはある?ケーキやクッキーなんていかが?」

「・・・」

「ベッドから出て院内を歩いたり出来るのかな?もし歩けるなら、私達と一緒に少し散歩でもどうだろう」

「あら!それはいい考えね、パパ。どうかしら?牧野さん」

「・・・」

そんな呼び掛けにも反応せず、病室内の窓から見える景色を無表情で見やるつくしに、品のある夫婦は優しい瞳を向けた。
その様子からは、気分を害したとか不機嫌になっただとかは読み取れない。
穏やかな表情を浮かべ、つくしの心に寄り添おうとしている。
それは明らかに、今までこの病室を訪れた者達とは違っていた。

「術後の経過が良いとは言え、無理は禁物だな。となると、散歩は次に訪れた時の方がいいかもしれないね」

「そうね。もう少し安静にして、体力をつけてからの方がいいと思うわ。それとパパ、そろそろ失礼させてもらいましょう。牧野さん、疲れてるんじゃないかしら」

「そうだね、ママの言う通りだ。あまり長居すると牧野さんが気疲れしてしまうから、今日のところはこれでお暇(いとま)しようか」

「ええ」

「いきなり訪れて悪かったね、牧野さん。また近々、お邪魔させてもらうよ」

「甘い物がお嫌いでなければ、ケーキを焼いてお持ちするわね。私、お菓子作りが大好きなの」

「・・・」

否とも是とも言わぬつくしに、品のある夫婦はにこやかな笑みを向けている。
返事はなくとも、拒絶されている訳ではない。
それを肌で感じているからだろう。
そんな夫婦は一度たりとも、つくしから声を掛けられぬどころか視線すら向けられぬまま、病室を後にした。

そして、それから5日ほど経った後、品のある夫婦は約束通り再びつくしの元へと姿を現した。
婦人の手作りケーキを手土産にして。


「良い天気だね。体の具合はいかがかな?牧野さん」

「昨夜ね、シフォンケーキを作ってみたの。牧野さんのお口に合えばいいのだけれど」

「・・・」

「ママの作るケーキは絶品なんだよ。後で私達も、牧野さんのご相伴に与(あずか)ってもいいかな?」

「あらっ!いい考えね。三人で食べると更に美味しくなるわ、きっと」

「・・・」

「じゃあ、より一層美味しく食べる為に、散歩でもしようじゃないか。今日はね、牧野さんの主治医から外出許可をもらったんだよ。少しは歩いて体力をつけた方がいいそうだ。それには、散歩が打ってつけだそうだよ」

「そうね。外の空気を吸うのも、一つの気分転換になるわ。みんなで散歩しましょ」

「・・・」

口調も穏やかで柔らかな雰囲気を漂わせているけれど、会話の内容は強引で一方的だ。
しかし、不思議な事に不快感や反発感は生じない。
むしろ、この夫婦の言う通りだなと納得してしまう。
だからつくしは、コクリと頷いて是の意思を伝え、自ら先頭をきって病室を後にした。

そしてこの判断が、ゆくゆくつくしの運命を変えていく事となる。



〈あとがき〉

話の展開が進まない・・・。
でも徐々に進めていきますよ。
本当に中篇くらいの長さで終われるのだろうか。


うまずたゆまず(あき→つく←総) 1

2020-07-16 15:31:31 | うまずたゆまず(あき→つく←総)
正論を述べたまでの事。
いかんせん、述べた相手が悪かった。
常識が通じず、自分の思い通りにならないと、暴力でねじ伏せ排除する。
そんな圧政者によって、牧野つくしの人生は狂わされた。
圧政者から発令されたイジメを指示する赤紙により、つくしの左目は光を失ったのだ。



「貴女のご両親にお金を要求されたから、慰謝料として1億円、それとは別に、見舞金として5千万円も併せて支払いました。貴女にその金額分の価値があるとは思えないけど、しつこく付きまとわれるよりはマシですから。それにしても貴女のご両親、下品ね。謝罪よりお金を要求するなんて」

これでもう二度と、司とは関わらないでちょうだい。迷惑するから。分かったわね!?
蔑むような目でそう言い放った道明寺財閥の鉄の女は、数多の部下を引き連れ病室から立ち去った。

ただただ、惨めだった。
鉄の女に何一つ言い返せなかった事が、反論出来なかった事が、情けなくて不甲斐なくて憐れだった。

自分は間違った事は言っていない。
親の威光で威張り散らしているけど、アンタ自身には何の力もない。単なる裸の王様だ。
自分でお金を稼いだ事もないくせに、偉そうな事を言うな。
そう言っただけなのに何故、この様な目に遇わなくてはならないのか。
ごくごく当たり前に、普通に、正論をかましただけなのに何故、左目の視力を失う羽目になったのか。

そもそも、自分はあんな男にしつこく付きまとっていない。
むしろ、しつこく付きまとってきたのはアッチの方だ。
関わってほしくないのも、迷惑してたのも全てコッチの方だ。
それなのに、鉄の女の圧倒的なオーラに呑まれ、反論すら出来なかった。本当に悔しい。
そんな声なき声を上げたつくしの元に、新たなる客人が現れた。



「この件に関しまして、類様・・・いえ、花沢家には一切関わりがございません。全ては道明寺財閥の司様が勝手になさった事。ですので、花沢家は貴女様に対する保障を行う義務はございません。しかしながら、貴女様のご両親がしつこく慰謝料を要求して参りましたので、手切れ金代わりに些少額を支払いました。よって今後一切、花沢家と類様に関わらないでほしい・・・と、奥様から言づかっております」

類様に汚点を残す訳には参りません。
貴女様のご両親は、類様と貴女様に絶対接点を持たせないと約束した上で、手切れ金を受け取っています。
それを努々(ゆめゆめ)お忘れなきよう。
そう告げてから、花沢家の執事は病室を後にした。

ひたすら哀しかった。
花沢家の執事に一方的に言われたのも、こちらの言い分を一切聞く気がないという態度をとられたのも、ただひたすらに情けなかった。

汚点ってなに!?どういう意味!?
花沢家にとって自分は、汚ならしい存在なのか。
自分と関わること自体が恥なのか。
確かに、彼がよくいる非常階段に行って言葉を交わしたりしたけど、ただそれだけの事。
それ以上でも以下でもない。
それなのに、何であんな言われ方をされねばならぬのか。合点がいかない。
そう胸の内でつくしが呟いた時、更なる来客が病室に現れた。



「本来なら当家が君に謝る義理などないのだが、後から面倒な事に巻き込まれるのも厄介なのでね。こうして当主たる私がわざわざ出向いて来た。そうそう、先日君のご両親にお金を要求されてね、手切れ金と兼ねて見舞金を支払ったから承知しておいてくれたまえ。それともう一つ。西門宗家には近づかないでくれ。家名に傷をつける訳にはいかんのでね」

総二郎には若宗匠を名乗らせ良家の令嬢を娶(めと)らせる予定なのに、君みたいな人間に周りをウロウロされたら迷惑だ。
自分の身のほどを弁(わきま)えたまえ。
と、言い捨てた西門流家元は、つくしに一瞥をくれると静かに病室から出ていった。

少しずつ感覚が麻痺し始めていた。
家名に傷がつく様な存在と言われても、身のほどを弁えろと言われても、悔しいだとか腹が立つだとかそういった感情が何一つ湧かなかった。

もう、どうだっていい。
高い場所からこちらを見下ろし、好きなだけ罵ればいい。
蔑まされた目で見られても、汚らわしいものを見るような目で見られても、何も思わないし感じない。
ただ、ひたすら、煩わしいだけだ。
ありとあらゆるもの全てがただ、煩わしい。

左目の視力を失ったのに子供に寄り添う事もせず、恥も外聞もなく金の亡者になった親も疎ましい。
こちらの体の具合を気遣う言葉すらなく、お金で解決したから関わるなと言い放つ権力者たちも疎ましい。
全てがもう、嫌だった。

そんな心境の中、新たなる来訪者がつくしの病室に現れた。




※うまずたゆまず・・・途中で飽きて投げ出したり怠けたりせず、努力し続ける。


〈あとがき〉

中篇くらいで完結させようと考えてます。
今のところ、着地点はまだ不明。
最終的にあき→←つく濃い目になるのか、それとも総→←つく濃い目になるのか、それともモヤっとしたまま終わるのか!?