※話の内容に、流血や死に関する表現が出て参ります。苦手な方は回避願います。
紫土に染まりし血の海で、突っ伏したままピクリとも動かぬ両親と弟の姿を目の当たりにした時、私の世界は暗転した。
二人が倒れた周辺には血溜まりができ、部屋の壁や天井にも血が飛び散っていた。
両親の体は鋭利な刃物で切り刻まれ、弟の額と心臓には銃弾が撃ち込まれていた。
そんな日に迎えた14回目の誕生日を、私は死ぬまで忘れない。
紫土に染まる 壱
私が生を享(う)けた牧野家は代々、美作家に仕える家柄だ。
その歴史を繙(ひもと)くと、平安末期にまで遡(さかのぼ)る。
皇籍を離れ、臣籍降下した元親王が美作の庄に土着した。
その際、牧野家が元親王の烏帽子親を名乗り出、それ以降ずっと美作家に仕え支えてきたのだ。
元親王とは言え生母の身分が低かった為、位階がそれほど高くはない牧野家でも元親王の烏帽子親になれ、娘を嫁がせる事も出来た。
時代によっては主である美作家と婚姻関係を結ぶ事もあり、血の繋がりは少なからずある。
但し、江戸時代に入ってからはそれが皆無となり、今に至るまでずっと主従関係が保たれてきた。
だから当然、私も弟もいずれは美作家に仕えるべきものだと思いそれに備え、両親から色々と学ぶ日々を過ごしていたのだ。
それなのに突然、その当たり前の日常が奪われてしまった。
「必ず犯人は見つけるから、無謀な真似はしないように。私を信じて待ちなさい。いいね?」
「・・・はい、旦那様」
「パパに任せれば何の心配もいらないわ。だからつくしちゃん、変な気をおこさないで。いいわね?」
「は・・・い、奥様」
「何があっても傍にいるからな。絶対につくしから離れない」
「あきら様・・・」
「身内しかいない場で、そんな他人行儀な呼び方すんな!俺はつくしを使用人だなんて思ってない。だから、昔みたいに俺を呼べ」
「・・・あーちゃん」
「そうだ。それでいい」
「あーちゃん・・・あーちゃん・・・あーちゃ・・・あ・・・ぅああ・・・ああああー!」
「自分を抑えず泣きたいだけ泣け。俺がいつだって受け止めるから。つくしは一人ぼっちなんかじゃない。つくしには俺がいる。一生かけてお前の心の傷を癒していくから。だから遠慮せず甘えろ」
そう言いながら私を抱き締めてくれたあきら様・・・いや、あーちゃんに、今だけは甘える事にした。
初恋の人の温もりを忘れない様に。
大好きな人の匂いを忘れない様に。
主従関係を結ぶに辺り、恋心など厄介で邪魔なだけだから。
冷静な判断を下せなくなり、惑う原因にもなるから。
だから私は、キッパリと絶つ。
あーちゃんへの想いを。
正式な主従関係を結ぶ為に。
心に鞭を打ちながら、血の涙を流しながら封印する。
あーちゃんへの恋心を。
※紫土・・・濃い赤褐色。
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