前回(1)で紹介した近くにも漱石の句碑が建っています。なかなかよい恰好の石です。
句は、「なつかしむ衾(ふすま)に聞くや馬の鈴」(明治32年1月)。「吉井に泊りて」という前書きがあります。前回(1)の句碑にも登場していたものです。
私は、馬の鈴の音をなつかしむ、とこれまで思っていたのですが、今では衾[夜具・布団]をなつかしむという意味ではないかと思うようになりました。漱石は1月1日に熊本を出て、宇佐・耶馬溪・日田を廻り川を下って吉井に上がっています。雪の中で馬に蹴られて倒れ、「漸(ようや)くに又起きあがる吹雪かな」という句を詠んだり、泊めてもらった家で「薄蒲団なえし毛脛(けずね)を擦(さす)りけり」という冷寒な思いをしたことを句に詠んだりしています。吉井でやっと暖かい布団にもぐりこみ、馬の鈴も眠気をいざなうように快く聞こえたのではないかと思う次第です。
漱石はこの頃詠んだ句を東京の正岡子規に盛んに送っています。下の句の筆跡も子規宛の書翰中のものだと思います。↓
句碑の裏面には、「平成七年三月吉日建立 ふる里創生一環事業」とあります。なつかしい一億円事業名ですね。「一環」とあるので一億円をここ以外の複数の事業にも使ったことがわかります。 ↓