明治32(1899)年1月、漱石の旅の一コマです。
漱石第五高等学校教職時代、同僚の奥太一郎とともに、宇佐・耶馬溪・日田・久留米と回りました。
今回は、1月5日守実(もりざね)に泊まったときのことを詠んだ句の記念碑を紹介します。守実では旅宿業で郵便局の河野謙吾宅に泊まります。
句碑は、山国町(やまくにまち/現・中津市山国町)守実の大歳御祖神社(おおとしみおやじんじゃ/大歳祖神社)境内にあります。河野家は当時この神社に隣接していたとのことですが、確認し得ませんでした。
句碑 句は「せぐゝまる蒲団の中や夜もすがら」。句意は、〈夜どおし蒲団の中で背を丸めて寝ることだ〉といったものでしょうか。寒さで十分に熟睡できない情景ですが、自分を客観視していて、ややユーモラスな印象も受けます。
時が経って多少字が読みにくくなっていました ↓
山国町教育委員会の説明も丁寧です。 ↓
句碑のある大歳御祖神社(大歳祖神社) ↓
漱石は、「守実に泊まりて〔三句〕」として次の句を記しています。
〇たまさかに据風呂(すえぶろ)焚くや冬の雨
〇せぐゝまる蒲団の中や夜もすがら
〇薄蒲団なえし毛脛(けずね)を擦(さす)りたり・・・・前回紹介した中にある句です。
そして、更に下に掲げる句を加えていますが、その前書きに、
「家に婦人なし之を問へば先つ頃身まかりて翌は三十五日なりといふ庭前の墓標行客(こうかく/旅人)の憐(あわれ)をひきてカンテラの灯の愈(いよいよ)陰気なり」と記しました。
〇僧に似たるが宿り合せぬ雪今宵
河野氏は妻を亡くして間のないころだったのでした。折しも僧に似た様子の人が泊まり合わせていたというのです。初句の字余りに漱石の沈んだ気持ちが出ているように思いました。
翌朝、漱石たちはそこを発ち、日田に向かいます。
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