歴史とドラマをめぐる冒険

大河ドラマ・歴史小説・歴史の本などを中心に、色々書きます。
ただの歴史ファンです。

大河「黄金の日々」の素晴らしさ・凄さ

2020-12-08 | 黄金の日々
大河黄金の日日、日々ではなく日日が正しいようです。あまりのインパクトにずっとビデオを見ることを回避してきた作品です。信長狙撃の実行犯である杉谷善住防ののこぎり引きの処刑のシーンがずっと「トラウマ」でした。トラウマとは違うかな、とにかく「見たくなかった」ことは確かです。衝撃的過ぎました。

放送されていたころ、私はまだ高1ぐらいだったでしょうか。主人公のルソン助左衛門と美緒の30年以上の「プラトニックな関係」を美しいと思っていました。そして石川五エ門が夏目雅子さんを「かどわかす」ことを「悪だ」と思っていました。

微妙に違うのです。美緒は助左衛門、市川染五郎さんに、ずっと「私を奪って連れ去ってほしい」と願っています。実際、繰り返し、それを口にします。夏目さんをかどわかした石川五右衛門を「地獄に落ちればいい」と言いますが、一方で夏目さんを「うらやましい」と思っています。夏目さんは五エ門に殺されますが、死に際、死ぬことも含めて「幸福だった」と言います。そんなの理解できるか!というところです。いや理解したくなかったのでしょう。学生だったから。そういう情念みたいな世界が怖かった。今みると、明確にそう描かれています。

「これが理解できるか!」という描き方なのですね。色々忖度して八方美人的な描き方をしたりしない。「これが芸術だ、分かるものだけついてこい」という自負を感じます。

一方で、史実の描き方も緻密です。ところどころ史実の変更はあるものの、特に信長の事績に関しては「全て描かれている」と言ってもいいほどです。信長の最大の特徴を「経済重視」として、「戦争とは経済力の戦争でもある」とした点でも、まるで現代を先取りしている感があります。三好三人衆が「名前いり」で出てくる大河はたぶん未だにこれだけだと思います。義昭がどうやって都落ちしたか。毛利と帰京交渉があったが、義昭が信長に人質を要求したため決裂した、、、とか細かく全部描かれています。

時代を「中世の断末魔と近世の産声が交錯した時代」ととらえ、その考えはブレることなく全編を貫いているので、見ていて作家の狙いがはっきりと理解できます。凄い作品です。これこそ大河だと感じます。

なお脚本は市川森一さんです。すごい才能だと思います。