国の緊急事態宣言が全国的に解除され、つぎは第二波に備えようという空気がある。しかしそれを考える前に、「1.5波」とでもいうべき、経済的困窮とそれによる混乱が、ひとつの波となって社会に及んでくる気がしている。
第一波の経済的影響はこれから
新型コロナウイルスに関しての第一波、第二波というのは、おそらく感染者数の増加減少カーブのことを指しているのだろう。確かにこれが一連の問題の元凶ではあるのだが、一方で人の動きを制限せざるを得なかったことによる、経済的打撃の波も考えておく必要がある。
第一波の際の外出自粛の影響で、個人経営の飲食店などをはじめとして、小規模経営者は資金繰りに窮している。また個人生活のレベルでも、賃貸住宅に住む人々の家賃支払い、住宅ローンの返済などにも困っている人が多い。
企業によっては、従業員に対して休業補償などをしてはいるが、当然ながらそれで十分なはずはない。
今現在、なんとか生活を維持している人でも、少し遅れて「破綻」を生じる可能性はおおいに考えられる。そしてそのことによってもまた、社会は一定の打撃を受けることになるのではないだろうか。
未だに届かない10万円
政府からの国民全員に対する一律給付金である10万円は、「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」が閣議決定された4月20日以降、本稿執筆中の5月28日になってもまだ、筆者も含め国民のほとんどの人が手にできていない。
とても「緊急対策」な感じはしない。
せっかくのオンライン申請も、その相談をする人が役所に殺到し、8時間待ちとなったところ(東京・品川区役所)もあったという。
しかも、入力フォーム(入力画面)のシステム設計の問題もあって、役所に届いたデータの多くに誤入力や多重申請があり、いちいち問い合わせて確認することになった。
今回、聞いて驚いたのだが、オンラインで役所に届いた振込先データは、そのままデジタル処理されるのではなく、1件1件、担当者がキーボード入力して振込指示データを作成するのだそうだ。
前出の品川区の場合、世帯数は23万。全世帯が申請したとして23万件の振込指示データを入力していくことになる。24時間ぶっ通しで作業しても1週間で2万1千件程度ということだから、ザっと10週間はかかることになる。
振込指示データが毎日、順次処理されるとしても、遅い人は10週間以上待たされることになる。つまり7月末にならないと10万円は受け取れないということになる
私の知人が住む東京・江戸川区では、区が一時的に給付金を立て替える措置を素早く取ったため、5月12日に10万円が振り込まれたそうだ。
通帳に印字された「エドガワクトクベツテイガクキュウ」という文字に、知人は小躍りするような気持になったという。
このように、住んでいる自治体によっても差があるが、こういった給付金や補助金など、あらゆる支援の遅れが致命傷となってしまう国民も決して少なくないのではないだろうか。
それこそが私が心配する、第二波の前に来て継続的に影響を及ぼすであろう「1.5波」なのである。
金額よりも素早さがポイントだったのに
10万円の一律給付が決定したとき、「富裕層にも、生活保護者にも、国会議員にも一律というのはいかがなものか」といった議論を投げかける人々がいた。
一理あるかもしれないが、ポイントはこの問題は時間との戦いであるということだ。
「そんなこと」を議論している間に、ウイルス感染とは別の理由から、進学をはじめとしたあらゆる夢や希望をあきらめる人、場合によっては生きることをあきらめる人が増えていくということだ。
一律給付に関して不公平が存在するのだとすれば、事後にいくらでも対策を考えることが出来る。しかし、あきらめた進学、あきらめた人生を取り戻すことは無理だ。
それなのに、である。
「スピードこそ命」だったはずの10万円一律給付が、なかなか進んでいない。
「スピード感をもって...」とは、ここ数年の流行りフレーズのようだが、言葉だけは巧みに使えても、実行・実現がともなわないことが多い昨今にため息が出る。
全国には市区町村が1741あるらしいが、そのうち1523が住民に申請書を発送したとのことである(総務省)。全自治体数に占める割合は決して低くはないが、筆者が住む横浜市では、申請書の発送自体が「5月28日から6月6日までに順次発送」という発表である。どうやら都市部の自治体ほど時間がかかっているようだ。
それでは、申請書を発送済みの自治体のうち、どれだけの人々に10万円が届いているのか。じつは前出の総務省では把握していない。把握する仕組みすらないのだそうだ。
遅い理由
申請書の発送が遅くなっている理由はさまざまあるようなので、これを一概に非難することはできない。
申請書の発送が都市部ほど遅れている理由の一つには、やはり未経験かつ膨大な量の事務処理を、「結果として」早く完了させる、つまり一日も早くお金を受け取れるために、作業に関する事前の検討や準備が必要となるからだ。
仮に目前のことだけを考えて突っ走っても、予期しなかった問題が発生して作業を滞らせたり、場合によっては手戻りが発生してしまいがちであることは、プロジェクト管理経験者なら常識だ。
それに事務作業はおそらく人海戦術に頼らざるを得ないだろうから、「密」を避けてこれを実行するという、矛盾ともいえる作業をクリアしなければならない。
我々はいま、誰かを非難をすることだけが正解への近道だとは考えてはならないだろう。しかし、この時間の流れの中で、どれだけの夢や希望、命が失われてしまうのか、考えてみると大変悲しいことである。
この「1.5波」、何とかして小さくしたい。