NHK ラジオ第一放送に「ラジオ深夜便」という深夜放送番組があります。この番組を愛聴している母のために、それまで聴きにくかった AM ラジオに代えて、スマートフォンでラジオをキャッチし、無線で使えるスピーカとつないでクリアなデジタル音声を聴いてもらえるようにしました。
ところが、母はどうも以前の、雑音交じりの AM ラジオ音声の魅力を忘れられないようなのです。
■
「NHK ラジオ深夜便」という番組のリスナーは、年配の方が中心のようではありますが、様々な分野で活躍する人へのインタビュー、また世界各地で生活している日本人の方による現地レポート、さらには専門的な領域で人生をかけて生きている方の講話のようなものなど、たいへん幅広い内容となっており、若い方にとっても一聴の価値があるラジオ番組です。
そんなラジオ深夜便を私の母も愛聴しているのですが、マンション暮らしですと、AM ラジオの電波の入りがよろしくなく、基本的にクリアに聞くことができません。
考えてみればマンションというのは、鉄骨や鉄筋で作られていますから、言ってみれば巨大な鳥かごの中に区分されて住んでいるようなものです。
またマンションでなくとも、最近では AM ラジオの受信に影響を与える電気製品が生活空間を取り囲んでおり、AM ラジオを家庭内で楽しむのは難しくなってきています。
つまり電波的な面でいうと、電化製品に囲まれたマンション生活というのは、AM ラジオを楽しむという点において、非常にハンディがあるわけで、いくら高感度のラジオを購入したところで、根本的な解決にはなりません。
以前私は、AM ラジオ本体を防水ケースに入れてベランダに置き、極力建物の影響を受けないようにしたうえで、イヤホン端子から延ばした音声ケーブルを換気口から室内へと導き、パソコン用の小さなスピーカを鳴らしたこともありました。
しかしこれでは、音量調整や選局、スイッチのオン・オフなどの操作が大変です。
AM ラジオの内蔵アンテナのみを取り出して外へ出してみようかと考えましたが、さすがに面倒です。
■
そんなことをしている一昨年から昨年にかけ、世の中はスマートフォンが普及しだしました。そして複数の民放ラジオ局の音声を、インターネット経由で楽しめるサービスが利用できるようになり、そして NHK でも、第一放送、第二放送、NHK-FM をスマートフォンやパソコンで楽しめるようになりました。
スマートフォン(やパソコン)でラジオを聴くということは、従来のラジオ電波を受信することなく、インターネットから流れてくる音声「情報」を、手元のスマートフォンで音声として「合成」し、再生するということです。
「合成」というとなんだか、ひと昔前のロボットの話し声のように思われる方もいるかもしれませんが、まったくそんなことはありません。
まず第一に「雑音がまったくない」ということが特長です。第二に音質が大変クリアで、たとえば聴き慣れていた番組タイトル音楽なども、これまで聞こえていなかった楽器の音まで聞こえてくるほどです。
NHK 第一放送が、スマートフォン(やパソコン)で、安定した高音質で楽しめるようになったことを機に、私は母の携帯電話「らくらくホン」を、「らくらくスマートフォン」に替えることをすすめました。
しかし、スマートフォン本体の小さなスピーカでは、せっかくの高音質が楽しめませんし、はっきり言って音質はよろしくありません。
ふつうの人ならここで、イヤホンやヘッドフォンを使うことになるわけですが、母の場合はそんなものは受け付けません。まぁ確かに、寝ながら、ウトウトしながらラジオを聴くにあたって、頭や耳にまとわりつくものはウルサイものです。
■
そこで家にあったパソコン用のスピーカを使おうと思い、「スマホ」からスピーカまで音声ケーブルを延ばすことになりました。そうすると案の定、「これではジャマ」ということで即刻却下。電源コードすら邪魔であるとの指摘を受け、私はワイヤレススピーカを考えるようになったのです。
そして今年の正月3日、ついに購入したのが、スマホと無線でつながるスピーカなのです。
結果は、たいへん素晴らしいものでした。ちょっとしたハイファイオーディオの品質でラジオ第一放送が聞こえてきます。AC100V だけでなく電池駆動もできる製品ですので、給電も音声もワイヤレスにすることができます。
「スマートフォンとブルートゥース式のスピーカ」、これはかなりお勧めです。
※スマートフォンとブルートゥース式のスピーカでラジオを楽しむためには、いくつか注意点がありますので本トピックの最後をご確認ください。
■
これで母も、電波障害や雑音に悩まされることなく、身にまとわりつく装置もなく、思う存分「ラジオ深夜便」を楽しんでくれるものと思っていました。
ところが、「ふつうのラジオのほうが聴きやすい」と言い出すのであります。
「音は確かにキレイだけど、何だか落ち着いた気分になれない」というのであります。
確かに理屈で考えればクリアな音質がいいに決まっているわけですが、もしかしたら眠りに落ちたり、ウトウトしながら聴く(聞く)というような場合、あまり高品質な音声は向いていないのかもしれません。アナウンサーやゲストの声、息づかいが、これまではやや「くぐもって」聞こえていたのに、クリアな音質、つまりは生々しく枕もとで響くというのは、生理的にやや緊張を引き起こしてしまうのかもしれません。
私は昨年、日比谷公会堂で蓄音機を鳴らす仕事にかかわりました。
そのときにあらためて感じたことは、「高音質でさえあれば、いかなる場合も人にとって『良い結果』をもたらす」なんてことはいえないのだ、ということです。
今回も、これと似たようなことなのかもしれません。
「NHK ラジオ深夜便」。まさに、眠るための番組でもあり、ウトウトしながら聴く番組でもあり、また夜中に目覚めてしまうときなどにちょうど良い番組です。
くぐもった感じで聞くことこそが、夢の中へ導かれる秘訣なのかもしれません。
【スマホでラジオ】
スマートフォンでラジオを聴くには、まず第一にラジオの役割を果たしてくれる「アプリ」を入れなければなりません。アンドロイド(Android)を基本ソフトウェアとしているスマートフォンであれ、米国アップル社の iPhone 、 iPad などであれ同じことです。
ただし、NTT ドコモが販売している「らくらくスマートフォン」では、購入時にすでに NHK のラジオと、民放数局が受信できるアプリが入っています。
なお「らくらくスマートフォン」については、高齢者などをターゲットとした安全優先の設計思想にもとづく製品のため、一般のスマートフォンのように、自分の好きなアプリをあとから追加することはできません。
さて、イヤホンやヘッドフォンでラジオを楽しむのであれば、スマートフォンにプラグを差し込めばいいわけですが、「無線」でスピーカを鳴らすということになると、ちょっと知識が必要です。
スマートフォンとスピーカの間を無線でつなぐには、「ブルートゥース(Bluetooth)」と呼ばれる、近距離無線通信規格を利用します。つまりここで考えなければならないのは、スマートフォンもスピーカも、Bluetooth に対応していなければならない、ということなのです。このあたりは購入を決める前に、詳しい人に聞くかお店でよく確認しましょう。
- インターネットを経由するラジオでは、テレビの地上デジタル放送や BS デジタル放送と同じく、厳密な「時報」というものがありません。これは、デジタル処理の過程でタイムラグが発生するという事情によるもので、朝のテレビ番組などでは、やんわりと画面左上の数字を変化させるなどの対応を取っています。
また、放送権などの問題で、通常の地上波ラジオ放送と全く同じ内容が流れるわけではありません。たとえばスポーツの生中継などは別の番組に差し替えられることがあります。
【関連リンク】
- NHK「らじる★らじる」
※ NHK 第一、第二放送のほか NHK-FM を受信することができます。
※ドコモの「らくらくスマートフォン」には製品としてすでにインストールされています。 - radiko(らじこ)
※複数の民放ラジオ局を聴くことができます。
※ドコモの「らくらくスマートフォン」には製品としてすでにインストールされています。