ハナウマ・ブログ

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東京のタクシー運賃ウラ話

2022年10月16日 | 自動車交通

【2022年11月14日:「配車アプリは大赤字」を一部編集】
【2022年11月4日:「領収書はもう出ない!?」を追補】

令和4年11月14日(月)から東京のタクシー運賃が値上げとなる。筆者は若い頃から一度も自家用車というものを持った経験がなく、車に関してはタクシー&レンタカー派の人間である。
そういえば最近、都内でタクシーをなかなかつかまえられなくなってきている。今回は運賃の値上げを話の糸口として、東京のタクシーについて考えてみる。

INDEX

  • 東京のタクシー(基礎知識)
  • 東京のタクシー(運賃と料金)
  • 値上げの内容と時間制運賃
  • 配車アプリは大赤字
  • 領収書はもう出ない!?(2022年11月4日追補)
  • 事前確定運賃
  • 業界が潤うわけでもないらしい
  • さいごに

東京のタクシー(基礎知識)

「東京のタクシー」というのは正確ではない。
厳密には「特別区・武三(ぶさん)交通圏」と呼ばれるエリアのタクシーであり、東京23区と武蔵野市、三鷹市のタクシーである。ここを「東京事業区域」と呼ぶ場合もあるようだが、東京都にはほかに「北多摩」「西多摩」「南多摩」の各交通圏と「島地区」がそれぞれ事業区域として決められている。
しかし本稿ではわかりやすく、「特別区・武三交通圏」を「東京事業区域」あるいは「東京の」と呼ぶことにする。

そもそも日本のタクシーは、地域ごとに運賃・料金をはじめ細かなルールが異なる。それぞれの地域事情を考慮したうえで、国土交通省が規制しているためだ。その地域が「事業区域」であり、べらんめえ口調で言うならば「ショバ(場所の反対)」なのである。

東京事業区域で東京のタクシーに乗り、たとえば横浜(神奈川県)まで行くことは、事業区域外に出てしまうことになる。このとき、そのタクシーが横浜で客を降ろしたあと、そこで別の客を乗せるとどうなるか。
じつは、横浜で乗せた客を東京事業区域まで送って降ろす分にはなんら問題はない。すなわち出発点か到着点のどちらかが、所属する事業区域内であればOKなのである。

しかし東京のタクシーが、たとえば横浜市内や神奈川県内で発着するような仕事をしてしまうとこれは規則違反となる。
このルールは長距離高速バスなどを考えればイメージしやすいだろうか。石川・金沢のバス会社が「新宿~金沢」を運行する認可は下りるが、「新宿~新潟」を運行することはできないのと同じである。

東京のタクシー(運賃と料金)

そもそもタクシーは、乗っただけで直ちに基本的な運賃が発生する。ご存じのとおり「初乗運賃」である。その後は距離や時間に応じて「爾後(じご)運賃」が加算されていく。
東京の場合、「時間距離併用制」が採用されており、信号待ちや渋滞であってもメーターは上がることになっている(爾後加算)。したがって、まったく同じルートをたどったとしても、交通状況によって金額が変わることがある。

まれに「いつもと料金が違う」といって怒り出す客がいるのだそうだが、そんな仕組みを知らないのかもしれない。というか、そもそも数十円、あるいは100円200円程度の違いでアタマにくる人はタクシーを利用すべきではないだろう。

そもそもタクシーは、電車やバスのように他人と乗合になったり、時間やルート、乗降場所が限定されているわけではなく、非常に自由度が高い(ただし交差点や横断歩道付近でタクシーを止めようとすることは本来NG)。
1台の自動車と一人の運転手を臨時に雇うということは、つまりそういうことなのである(一部に「事前確定運賃」という制度もあるが後述)。

さて、令和4年10月現在の東京のタクシー運賃は、「ほとんどのタクシー会社で」初乗が420円、爾後加算が80円である。
「ほとんどの...」というのは、じつは法的には上限運賃と下限運賃をふくめた4パターンの運賃表から、事業者が選ぶという形になっているからだ。初乗420円のパターンは、ほとんどのタクシー会社が採用している上限運賃だったのである。
したがって都内でも、初乗運賃を安く設定(B運賃、C運賃、下限運賃を採用)していたり、深夜割増料金を取らなかったりする会社も存在する。
ただしそのようなタクシー会社では、やや窮屈な車両を使用していたり、安い賃金でも働いてくれる高齢ドライバーだったりするようだ。また任意保険に加入していなかったりするという噂まである(あくまで噂である)。

ちなみに「運賃」と「料金」は明確に異なる。ちゃんと区別できていないマスメディアもあるようだが、客を運ぶことそのものに対してかかる金額が運賃である。
また料金とは、指定場所に迎えに行く「迎車回送料金」など、付随するサービスに対する金額のことをいう。

値上げの内容と時間制運賃

では、値上げの内容を見ていこう。
まずは初乗運賃で比較してみる。
これまでは420円で1,052mまで進むことが出来たが、今後は500円で1,096mまでとなる。10円あたりで進める距離で比較すると従来は約25m、新運賃では22m弱となる。

次に爾後運賃。
これまでは233mごとに80円だったが、今後は255mごとに100円となる。同様に10円あたりで考えると29mあまりから25.5mに短縮となる。

なお先述したように、運賃は4種類のパターンから事業者が選択できるものであり、上の説明は、ほとんどのタクシー会社が採用するであろう上限運賃で比較していることをお断りしておく。またいずれも普通車の運賃表による。
さらに迎車回送時などに付加されるサービス料金は、タクシー会社ごとに異なる。

もうひとつ、時間料金で比較する。
これまでは85秒ごとに80円だったが、今後は95秒ごとに100円となる。
10円あたり乗っていられる時間は10.625秒から9.5秒となる。

ここで説明が必要なのは「時間料金とは具体的に何なのか」ということではないだろうか。
東京の時間距離併用制では、車が時速10㎞/h以下となった場合、自動的に時間料金制となるのだ。信号待ちや渋滞でもメーターが上がるのはこのルールによる。

となると気になるのは首都高などで渋滞した場合である。せっかく有料道路を利用しているのに、渋滞で時間料金を加算されたのではたまったものではない。
しかし、有料道路を使用する場合は、乗務員がメーターの「高速」ボタンを押すことになっている。こうすればメーターの時間計は停止し、純粋に移動距離のみで加算されるようになる。

まれに押し忘れている乗務員もいるのでよく見ておこう。
と言っても10km/hを下回らない順調な流れであれば、高速ボタンを押そうが押すまいが結果は同じである。
また当然だが、首都高などの有料道路から一般道に降りると、高速ボタンは解除となり、10km/hを下回った場合には時間制料金が適用されるようになる。

配車アプリは大赤字

ところで2年ほど前からだろうか、「配車アプリ」なるものが普及してきている。
スマートフォンを使ってタクシーの配車依頼をしたり、キャッシュレス決済をしたりすることが出来る。
都内のタクシーでは、「GO」、「S.RIDE(えすらいど)」、「フルクル」といったアプリを採用している例が多い。ほかには「DiDi(ディディ)」や「Uber」などもたまに見かける。

ただ都内のこういった見え方は、保有台数の多い大手タクシーグループ(いわゆる「大日本帝国」:大和、日交、帝都、国際)がどこのアプリを採用しているかによって決まるので、全国的なシェアとはやや異なる可能性がある。
また個人タクシーでもこういったアプリ会社と契約している例もある。ただし、ひとつのタクシー(タクシー会社)が複数の配車アプリに対応しているということは無さそうだ。

さて、都内で有名と思える「GO」を提供しているモビリティ・テクノロジーズ社や、「S.RIDE」を提供するエスライド社は、かなり経営が厳しいようである。
こういった配車アプリの商売が、どこからカネを引っぱってくるのかを考えると、①利便性を享受するタクシー利用者から取る、②売上機会を得ているタクシー会社(やタクシー運転手)から取る、の二つしかないような気がする。つまり手数料ビジネスということになるだろうか。だとすれば、一定以上の取り扱い件数がなければ採算が合わないということになる。

ところが日本社会は長引くコロナ禍と、これに対応したリモート技術の進化や利用増などによって、人の動きそのものが急減してしまった。面接も飲み会もリモートで行う企業や個人が少なくない。
さらにこういったスタイルそのものが定着しつつあり、くわえて第8波の流行を危惧する専門家も少なくないという状況だ。

旅行やショッピングのようなものは個人の欲求から生まれてくるものだから、需要回復の可能性は考えられる。けれど、コスト最低限を図ろうとするビジネスシーンにおいては、ムダに移動しない、ムダに「生」面会しない、というのが常識になりつつある。
モビリティ・ビジネスにとっては、事業哲学の見直しさえ必要になってきそうだ。

そんな状況の中、「GO」を提供しているモビリティ・テクノロジーズ社は、今回のタクシー運賃値上げのタイミングに合わせ、あらたに「アプリ手配料」を取ることにしたようだ(東京の特別区および武蔵野・三鷹市の範囲)。
このアプリ手配料の実際の運用は、採用するタクシー会社(またはグループ)によって微妙に異なるようだが、たとえば都内で最大の台数を保有する日本交通グループ(日交本体と、その他加盟するタクシー会社で構成)を例に見てみると、1手配につき100円の手配料を「利用客から」取ることにしたようだ。
ただし、指定場所にタクシーに来てもらう際に必要となる「迎車回送料金」が従来の420円から300円に値下げされるため、トータルとして見れば、利用者負担は差し引き20円安くなる計算だ。

ところが、タクシーメーターに表示されている金額よりも100円高い金額が客席タブレットに表示されるため、しばらくの期間は新システムの理解不足によるトラブルが起きる可能性はある。

繰り返すが、同じGoアプリ利用であっても、各タクシー会社(グループ)によってやや違いがあるため、配車アプリ利用者の実質負担額が高くなる場合もありえる。
Goアプリでは希望するタクシー会社を指定できる機能があるが、どのタクシー会社を選ぶかによって利用者負担がどう変わってくるのか、それとも変わらないのか、明示されることが期待される。

領収書はもう出ない(2022年11月4日追補)

ところで、支払いをGoなどの配車アプリで決済する場合、今後は領収書(レシート)は発行されなくなるという情報を得た。じつはこれは、税法上あたりまえのことである。
しかし交通費精算に紙の領収書を必要とする利用者も少なくなく、これまでのところタクシー利用の現場では、(乗務員やタクシー会社によっては)領収書を出してくれる場合もあったという。

今回の値上げに伴うシステム改修では、そもそも車載プリンターから領収書が出力されなくなるようだ(現時点では領収書は印字されても、「お渡しできない」と説明する建前なのだという)。
このシステム改修は国税庁からの要請が関係しているらしく、領収書の二重発行、すなわち経費の二重計上を視野に入れているものと考えられる。

そもそも配車アプリでは、利用者が事前に設定しておいたクレジットカードで決済することになっている。そしてタクシー利用に関する領収書は、専用サイトにログインして確認できるオンライン画面上で表示されるものが正規のものである。どうしても紙の領収書が必要なのであれば、その専用サイト内で(パソコンなどを使って)プリントアウトできる。

最近、ビジネスシーンでは「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」という言葉を耳にすることが多くなってきている。
せっかくシステム化されたタクシー料金決済において、未だに紙の領収書を欲しがる企業があるとすれば、「これからはDXですよね」などとわかったようなことを言っていても、実のところDXどころか、その前段階のIT化すら理解されていなかったことになる。

なお現金、交通系電子マネー、iD、QuickPay、Edy、各種QRコード決済、タクシーチケット、そして「配車アプリと連動させない」通常のクレジットカード利用などの場合であれば、領収書は発行される。
ちなみに乗務員たちの話によると、支払いが最もスピーディ、かつトラブルがないのは「交通系電子マネー」と口をそろえる。

事前確定運賃

先述した「事前確定運賃」だが、これは文字通り、道路混雑やそれによる回り道などがあったとしても、乗車前に確定している運賃でOKというものである。
ただしこれは事前予約が必要なサービスであり、タクシー乗り場や、街中での「手上げ」乗車では利用できない。
詳細はタクシー会社によって異なるが、成田・羽田空港と都内各エリア間を移動する際の定額運賃、東京ディズニーリゾート®などの著名な施設と都内各エリア間を移動する際の定額運賃などがある。また、アプリで予約する際にも事前確定運賃を希望できる場合がある。

なんだか「おトク」なイメージがあるかもしれないが、聞くところによると、まったく順調に進行した場合の料金よりも若干高めに設定されているのだという。統計的に考えて緻密な計算をし、(業者側が)損をしないように設計されているであろうことは推測できる。
なお予定を変更して途中でタクシーを降りてしまった場合でも割り戻しはなく、事前確定運賃が請求される。

とはいえ、激しい渋滞や突発的な障害があっても、それ以上高くなることはないという安心感はある。事前確定運賃は安心保険料が乗っている、というところだろうか。

業界が潤うわけでもないらしい

今回の値上げをザックリ言ってしまえば、これまでより1割くらい高くなる、ということになるだろう。もちろん人によってタクシーの利用方法はさまざまだから、その感触は個々に異なるかもしれない。
なんでもかんでも値上げの昨今、利用する側にとってはタクシー運賃の値上げも困ったものだ。

しかし考えてみると、消費税の増税以外で東京のタクシー運賃が値上げされるのは15年ぶりである。そういう意味では今回の値上げは問題視するものではないだろう。
そもそもタクシー事業は、バスや鉄道と同じく国土交通省が監理する業界であり、事業者たちの都合で勝手に運賃を決められるものではない。上限運賃は、「適正な原価に適正な利潤を加えたもの」を超えることが無いよう、総括原価方式という方法で厳しく管理・算出されている。
わかりやすくいえば、そもそも必要以上の利潤を上げることは出来ない構造となっており、ビジネス的に「ブレイク」する余地などない業種(公共交通機関)なのである。

つまり鉄道やバスと同じく、タクシーも「不当な値上げ」などといったことはあり得ないわけで、現場で働く乗務員に八つ当たりしてみても仕方がない。世間のしくみを知らない自分の愚かさを露呈するだけになる。

今回取材して意外だったのは、値上げ幅を決めるにあたって、昨今の燃料費高騰が考慮されてはいないらしいということだ。
筆者はてっきりウクライナ侵攻や急激な円安の影響による燃料費の高騰が打撃となり、これも一因となって値上げが認可されたのだと思いこんでいた。
ところが総括原価方式で使用している燃料コストの数字は、2年も前のものだという。これでは業界は疲弊してしまい、ひいては我々利用する側がそのあおりを食ってしまうのではないだろうか。

都内ではコロナ以降、タクシーをつかまえにくくなっている。
地方にいる人は信じられないかもしれないが、東京駅のタクシー乗り場でさえ1台もタクシーがおらず、利用者の列が延々と並んでいるという光景も決してめずらしくない。
また都内にいくつもある著名なホテル、大病院、複合商業施設などのタクシー乗り場でも同様の事態が起きており、通院帰りや退院する人、食事やショッピングを終えてサッとタクシーで帰ろうとする人が、暑い、あるいは寒い乗り場で長時間待ち続けるということが現実に起きているのである。
普通に元気に歩ける人なら、大通りまで出て流しのタクシーを拾うことも出来るが、これまたコロナ前のように、すぐに空車が走ってくるとは限らない。

人の移動が激減した社会ではタクシーの需要も減ってしまい、食えなくなった乗務員は退職・転職するなどし、事業者も保有台数を減らしたり、営業拠点を減らしたりするなどしてきた。なかには会社そのものがなくなってしまった例さえある。
ところがここに来てやや需要が回復し始め、需給バランスが崩れているというのが今の姿なのだろう。
もちろん、ずっと前から問題となっている高齢ドライバーの大量退職、新人採用の困難さは変わっていない。
根っこにあるのはやはり、人口減少と超高齢社会である。

さいごに

先日、外国人観光客の訪日規制が解除された。
ニュース番組などでは、宿泊業界の人手不足が悪い方に作用しないか懸念する内容が多い。しかし旅の基本は「アゴ・アシ・マクラ(食・交通機関・宿泊)」である。バスやタクシーをはじめ関係する業界や、そこで働く人々への支援がおろそかでは、諸外国に対して劣化した日本の宣伝になりかねない。

もちろん、その他の業界は放っておいていいということにもならない。産業全体が活力をもって回りはじめるような対策を講じなければならない。そのためには「日本の産業」という大きなものの見方、考え方が必要になってくる。

人口減少と超高齢社会が約束されている日本。いまこそ未来に向けた大きな構想力が必要である。それは取りも直さず我々一人ひとりが、この国の将来を語ることが出来る、新しい時代のビジョンと構想力を持った政治家を見つけ出し、選び出し、あるいは育むことなのかもしれない。


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