「あ、時代に淘汰されるって、分かった気がする」
山小屋の食事を頬張る女の子は、寄り道から、突然、本筋に戻って来たようです。
いったい、何がフックになったのでしょう。
何かがつながるときは、突然なものです。
自分でも説明のできない連携が瞬時に成立します。
そうして女の子は、感覚的に言葉の意味をとらえます。
「分かったかい?」
「たぶん、こういうことじゃない?ある時代には馴染んでいる流れとか響きが、別の時代では馴染まなくて、だから使われなくなって自然に消えていく、そういうことじゃない?こういうのも、時代錯誤って言うのかなあ?」
「ご名答。時代にそぐわない言葉、古い言葉になったもの。その時代時代で、適さなくなったものは排除されていくということだね」
「でも、ちょっと気になったことがあるのだけれど?」
「なんだい?」
「あのね、さっきからどうしても、多くの人に支持されて生き残った言葉が勝者で、消えゆく言葉が敗者みたいなイメージになってしまうのだけれど、それは時代に淘汰される、という言い方がそうさせるのかなあ?」
「たぶんね。実は、大雑把、と言ったのはそういうことだったんだ。『時代に淘汰される』というのは、とても使い勝手のいい便利な文句なのだけれど、どこか一刀両断な感じを与える気がするのだよね。淘汰されていった、消えていったものが、不適みたいな感じにね」
「やっぱり、そうだったのか。そうすると、この『淘汰』という言葉の強すぎる印象が好まれなくなったときには、淘汰されるのかなあ?」
「るみちゃん、上手いこと言うね」
「えへへ、そうかなあ」
「あはは、本気で照れてるね」
「でも、やっぱり、一刀両断で終わってはいけないというか、生き残った言葉だけを正義みたいに、無意識に思ってはいけない気がする」
「それは、どういうことかな?」
「うん、それはね、たとえ多くの人からの支持は得られなかったとしても、その言葉をこしらえた人以外にも、その語感を心地よく受け入れた人もいると思うの。それだけではなくて、たまたま、その言葉が生まれたときに、同じ感性をもった人が周りにいなかったという不運に見舞われた言葉もあるかもしれない。けれど、その少数派の感性は、ただ少数派なだけであって、劣っているということではないでしょう?」
「そうだね」
「そういう少数派のなかに、天才というものはあったりするのだから、その感性は、けっして多数派に疎外されてはいけないと思うの。自分たちと違う感性だからといって、排除してはいけない。多数派が、少数派を認めることができる社会というのが、平穏をつくることのできる社会のような気がするの」
「そのとおりだね。消えゆくものへの敬意、少数派への尊重を忘れてはいけないということだね」
「そう。忘れてはいけない、ということ。使わなくなったとしても、目にしなくなったとしても、まったく無用になったということではなくて、それに代わるものが出来ただけなのだから、それまで頑張ってくれたことへの感謝を忘れてはいけないのだと思う」
「それと、実はその少数派のなかにこそ、闇に埋もれてしまったもののなかにこそ、原石が隠れているかもしれない。そう思える柔らかい頭をもっていることが大切ということだね?」
「うん。多数派でないものにも、感謝を忘れないで、耳を傾ける。そうしていきたい」
ふたりは、言葉の盛衰という話題から、大きな河へとたどり着きます。
それは、いつもの行程です。
どこへたどり着くのか分からない言葉の旅です。
会話の旅です。
果たしてそれは、言葉の旅だけなのでしょうか。
この世界旅行は、どこへたどり着くのでしょうか。
(つづく)
山小屋の食事を頬張る女の子は、寄り道から、突然、本筋に戻って来たようです。
いったい、何がフックになったのでしょう。
何かがつながるときは、突然なものです。
自分でも説明のできない連携が瞬時に成立します。
そうして女の子は、感覚的に言葉の意味をとらえます。
「分かったかい?」
「たぶん、こういうことじゃない?ある時代には馴染んでいる流れとか響きが、別の時代では馴染まなくて、だから使われなくなって自然に消えていく、そういうことじゃない?こういうのも、時代錯誤って言うのかなあ?」
「ご名答。時代にそぐわない言葉、古い言葉になったもの。その時代時代で、適さなくなったものは排除されていくということだね」
「でも、ちょっと気になったことがあるのだけれど?」
「なんだい?」
「あのね、さっきからどうしても、多くの人に支持されて生き残った言葉が勝者で、消えゆく言葉が敗者みたいなイメージになってしまうのだけれど、それは時代に淘汰される、という言い方がそうさせるのかなあ?」
「たぶんね。実は、大雑把、と言ったのはそういうことだったんだ。『時代に淘汰される』というのは、とても使い勝手のいい便利な文句なのだけれど、どこか一刀両断な感じを与える気がするのだよね。淘汰されていった、消えていったものが、不適みたいな感じにね」
「やっぱり、そうだったのか。そうすると、この『淘汰』という言葉の強すぎる印象が好まれなくなったときには、淘汰されるのかなあ?」
「るみちゃん、上手いこと言うね」
「えへへ、そうかなあ」
「あはは、本気で照れてるね」
「でも、やっぱり、一刀両断で終わってはいけないというか、生き残った言葉だけを正義みたいに、無意識に思ってはいけない気がする」
「それは、どういうことかな?」
「うん、それはね、たとえ多くの人からの支持は得られなかったとしても、その言葉をこしらえた人以外にも、その語感を心地よく受け入れた人もいると思うの。それだけではなくて、たまたま、その言葉が生まれたときに、同じ感性をもった人が周りにいなかったという不運に見舞われた言葉もあるかもしれない。けれど、その少数派の感性は、ただ少数派なだけであって、劣っているということではないでしょう?」
「そうだね」
「そういう少数派のなかに、天才というものはあったりするのだから、その感性は、けっして多数派に疎外されてはいけないと思うの。自分たちと違う感性だからといって、排除してはいけない。多数派が、少数派を認めることができる社会というのが、平穏をつくることのできる社会のような気がするの」
「そのとおりだね。消えゆくものへの敬意、少数派への尊重を忘れてはいけないということだね」
「そう。忘れてはいけない、ということ。使わなくなったとしても、目にしなくなったとしても、まったく無用になったということではなくて、それに代わるものが出来ただけなのだから、それまで頑張ってくれたことへの感謝を忘れてはいけないのだと思う」
「それと、実はその少数派のなかにこそ、闇に埋もれてしまったもののなかにこそ、原石が隠れているかもしれない。そう思える柔らかい頭をもっていることが大切ということだね?」
「うん。多数派でないものにも、感謝を忘れないで、耳を傾ける。そうしていきたい」
ふたりは、言葉の盛衰という話題から、大きな河へとたどり着きます。
それは、いつもの行程です。
どこへたどり着くのか分からない言葉の旅です。
会話の旅です。
果たしてそれは、言葉の旅だけなのでしょうか。
この世界旅行は、どこへたどり着くのでしょうか。
(つづく)