日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

河のほとりで (43)

2023年02月17日 06時59分57秒 | Weblog

 校庭の銀杏も黄色さを増し始めた晴れた日は空気が澄み渡り、教室の窓から眺める浮雲の流れる青空は気持ちを明るくさせてくれる。 
 大助は、額の傷も大部癒えていたが、朝、母親の孝子が「もう~少しで瘡蓋もとれるヮ」と言いながら念のためにと絆創膏を張り替えてくれた。

 3時限目の国語の時間に、担当の教師が会議のため30分早く授業を打ち切り、残りの時間は自習と告げて教室を出て行ったので、大助は教科書の間に挟んでおいた、美代子からの手紙を取り出して改めて読み直し、返事をどの様に書こうかと思案していたところ、隣席の和子が急に足先を強く踏みつけたので思わず「痛てぇ~」と声を上げたら、その隙に彼女は手紙を取り上げて服のポケットに仕舞い込んでしまった。
 彼は「和ちゃん返してくれよ」と、彼女の腕を掴んで言ったところ、和子は
 「わたしの身体に触れないで」「さっきから熱心に読んでいたが、一体、誰からのお手紙なの・・。アヤシイ オテガミノヨウネ」
と言って(フフツ)と笑って答え返そうとしないので、互いに言葉で揉めていた。
 
 その揉め事に他の生徒が気付き、後ろの席から女生徒の黄色い声で
 「あぁ~可愛想に、大助蛙が和子大蛇に呑み込まれそうだヮ~」
と叫ぶと、他の女生徒が興味混じりに大声で
 「オネガ~イ イジメナイデ」 「大助 頑張れ~」
等と口々に勝手に思いつきで大声で囃し立てると、和子は立ちあがって
 「皆さん 面白半分に騒がないでください。大助君と私の問題ですので」
と毅然とした口調で騒音を静止すると、普段、クラス委員として皆をまとめ、時には相談にも乗ってやり、場合によっては教師にも堂々と皆の意見や要望を言う彼女には、クラスの男子も含め誰もが一目置いており、静まりかえったところで、彼女は声は小さいが透き通る様な声で
 「わたしは、大助君に対し、大怪我をしないうちに体操部を退部しなさいとアドバイスしているので、変に誤解しないでください」
と説明した後、着席すると大助に
 「部活が終わった4時頃に、お宮様の境内に来てネ」「君に色々とお話したいことがあるので・・。必ず来てょ」
と堅い表情で告げると、そのまま素知らぬ顔で教科書に赤い線を引いて自習していた。
 大助も、彼女が相手では何も言えず「判ったよぅ~。手紙は返してくれよ」とだけ返事して、それ以上何も喋らなかった。

 放課後の部活を終えて帰り支度をしていると、早くも教室内の騒動を耳にした部活の先輩部員から廊下で
 「お前。 これから和子に呼ばれてお宮様に行くのか」
 「彼女は、頭も良いし心臓も強いから、余り深入りしない方がいいぞ」
 「少し位美人だといっても、女生徒の心は移ろいやすく、お前の先が思いやられるなぁ~」
と、親切に教えてくれたが、彼にしてみれば、もう自分達の話が広がっているのかと、その速さに驚いた。
 
 大助はバックを背にして浮かぬ顔で一人で校門を出ると、同級生の4~5人の女生徒が待ち伏せしていたが、その中にいた奈緒が
 「和子さんは、悪い人ではないが、思い込みの強いところがあるので、友達としては最高だが、それ以上のお付き合いは君には無理ょ」
とコッソリと忠告してくれた。

 大助は、部活の体操の後で疲れもあり、体も心も重い気分で普段は通らない道をトボトボと歩いて、お宮様の境内に行くと、和子が先に行っていて、コンクリート製の椅子に腰掛け、彼を見つけると手招きして
 「こっち こっちョ」「そんなに肩を落として、元気がないわネ」「隣に腰を降ろしなさい」
と命令調に言ったので、彼女に少し間を空けて腰を降ろすと、和子は
 「ねえ~ 君の私生活に立ちいって悪いけど、美代子さんとゆう人と君はどんな関係なの」  
 「恋人なの?。それとも単なるお友達なの?」
 「お手紙の内容から、わたし無性に気になるので教えてくれない」
と聞くので、彼は
 「毎年、夏休みに家族で遊びに行く田舎の中学生だよ」
 「村の診療所の娘さんで、英国系の二世さんだが、水泳が上手で県大会にも出るくらいで、大きい河で一緒に泳ぐと僕より速いよ」
と、正直に答えて手紙を返すように頼むと、彼女も素直に返してよこし、何時もと違い沈んだ声で
  「その人、綺麗でしょうね」「君、秘かに淡い恋をしてるんでない?」
と、何時もの強気な和子らしくなく伏目がちに聞くので、大助も意外な雰囲気を感じて
  「それは、金髪で青い瞳をしていて無邪気で可愛いが、遠く離れていて滅多に逢えず、それに医者の娘さんと僕とでは、どう考えても釣り合いが取れず、僕、まだ、恋とか愛とか面倒なことは好きでないんだ」
  「彼女も綺麗で頭もいいんだなぁ。と、逢うたびに感心しているが、君も彼女と同じ様に、僕には高峰の花だよ」
と、素直に答えると、彼女は
  「ソウカシラ お手紙の内容から判断して、わたしには、お互いに恋心を抱いている様に思えてならないヮ」
と言ったあと、急に俯いて、か細い声で  
  「それでも、わたし美代子さんとゆう方に負けない様に努力するヮ」
  「君と席を隣り合わせたときから、自分でもよく判らないが、君と良い意味で親しいお友達になってほしいと思うようになったの。わたしの気持ちワカッテ ・・。 決して御迷惑はかけないヮ」
と一言ごとに言葉を選ぶように話終えると、少し間をおいて顔をあげ大助の目を見ながら
  「そんなことから、余計なお節介かも知れないが、君が体操で大怪我をするんでないかと心配でたまらず、担任の教師に退部させるようにお願いしたゎ」 
 「君のためを思ってしたことなので、承知しておいて・・」
と、今度は瞳を輝かせて、自分の考えをはっきりと話した。
 大助は、思わぬ話の展開に「う~ん」と呟いてうめいた後
 「和ちゃん 驚かすなよ」「僕なんか、とても君の相手は無理だょ」
と返事をするのが精一杯だった。

 そんな時、小学生のオンナノコ4~5人がワイワイ騒ぎながら近付いて来て、その中に靴屋のタマコがいるのを見つけると、大助は思わず
 「アッ! イケネエ~ ヤカマシイコガ キタワ~」
と言って、神社の後ろに隠れようと立ち上がった途端に、タマコも大助を見つけ駆け足で近くに来ると怪訝な目つきで二人を見回して
 「ダイチャン オンナノコトフタリデ ナニシテルン ネエ~?」 「ワタシヲミテ アワテタリシテ オカシイヮ」
と言ったあと、いきなり
 「ミ~チャッタ ミチャッタ 珠子お姉ちゃんに イッチャオ~トッ!」
と叫ぶと、大助の引きとめるのを振り切り仲間と一緒に一目算に駆け足で逃げて行ってしまった。
 大助はその後ろ姿を見ながら
 「チエッ ツイテネェヤ。また姉貴に文句を言われるなぁ」
と独り言の様にブツブツ呟くと、和子も不意の出来事に心が動揺し、彼の呟きが強烈に胸に刺さり慰める言葉を失ってしまった。
  

 

 

コメント
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