日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

河のほとりで (44)

2023年02月23日 04時58分54秒 | Weblog

 大助は、成績優秀でクラス委員をしている隣席の和子が、何故自分に親切にしてくれ、交際を求めてくるのか理由が良く判らないので戸惑っていたが、均整のとれたスマートな容姿と、彼の好む顔立ちであるため、それなりに内心では喜んでいたが、奈緒や他の同級生達が深入りするなとゆう忠告が頭にこびり付いていて、不思議な思いがしてならなかった。
 彼が、普段、勉強中に接する限り彼女が自分に特別な感情を抱いているとは、これまでに感じたことは無く、クラスでも評判の美人で世話好きなところがあり好感を抱いていても、自分には遠い存在のオンナノコ位にしか思っていなかった。

 それだけに、彼女の希望で帰校途中神社境内での出来事で、心の中が モヤモヤ とした気持ちで自宅に帰った。 何時もは遅く帰る姉の珠子が先に帰宅していて、一生懸命に布団干しや洗濯をしており、大助は「ただいまぁ~」と声をかけると「あっ お帰りっ」と返事をしてくれたが、表情は余り機嫌が良くない様に見え、何時も自分に対しては小言ばかり言って五月蝿い姉だが、何か面白くないことでもあったのかなぁ。と、自分も落ち着かない気分だけに姉の表情が気になった。

 大助が、自室に入るや間髪をいれず珠子が入って来て
 「大ちゃん、洗濯するから下着やシャツ等全部籠に入れて出しなさい」
といった後、不機嫌な声色で
 「あぁ~ あんたの部屋は臭いはネェ~」「窓を開けて空気を入れ替えなさい」
と、苦い顔をして言いながら敷布を剥ぎ取る様にして持っていった。
 彼にしてみれば、モヤモヤ した気分から抜け出したく、姉に和子のことを相談しようと思っていたが、とてもそんな雰囲気ではなく、言われたままに疲れもあり モタモタ と下着を着替えているとき、何時の間にか来ていたのか、縁側から小学生のタマコが、隣家の黒いシャム猫を抱えて顔を覗かせ、目を丸くして哀れむような顔で
 「大ちゃん また、何か悪いことをして、お姉ちゃんに叱られているの?」
 「こんな時間に裸になって・・」
と、彼を庇うように言ったので、彼は、また、こんなときに限って遊びに来るなんて。と、苦々しく思い
 「タマちゃん 僕、今日疲れているし、姉ちゃんに相談したいこともあるんで、明日来いよ」
と物憂げに返事をしたところ、姉が「早くしなさい」と言って顔を出したところに、健ちゃんも出前の曳き肉類を届けに来て顔を合わせ、からかい半分に
 「大助っ! もう自分のものくらい自分で洗濯しなければだめだなぁ~」
と、珠子の機嫌をとるかのように笑いながら兄貴ぶって言うと、タマコも折角遊びに来たのに断られた腹いせに、珠子と健ちゃんに告げ口する様に、大助の顔を覗き見ながら
  「アノネェ~ イチャオカナ~。 大ちゃん 今日学校の帰り道にお宮様の境内で、綺麗なオネイチャンと コソコソ 逢っていたんだョ」
  「わたし友達と チャント ミチャッタ モ~ン」
  「大ちゃん 見られて コマッタ 顔をして、わたし達を追いかけて来たが、皆で走って逃げてしまったヮ」
と、お喋りしたので、健ちゃんは
  「オイ オイッ 大助ッ! トウトウ お前奈緒ちゃんを差し置いて他に彼女ができたのか?」
と険しい顔をして言ったので、呆れて立ちつくしている姉に、大助が慌てて
  「姉ちゃん タマコちゃんの話はオーバーで同級生の和子さんだよ」
  「僕に、部活の体操は危険で大怪我をしたら大変だから、担任の先生に退部して元の野球部に入る様に話すので承知しておいて・・。と、ゆうだけの話だよ」
と正直に話すと、健ちゃんも
  「俺もそう思うよ」「サーカスみたいなことはよせ」
と口添えしたあと
  「ホレッ 奈緒ちゃんも心配していたぞ」
と、余計なことを喋ったので、珠子が  
 「大助 友達が多いことは良いが、余りあっちこっちのオンナノコに手をひろげないでょ」
 「いい気になっていると、変な噂が広がり母さんも心配するし・・」
 「高校受験を控え、第一その額の絆創膏も見場が悪いし、皆が言うとおり忠告するのも無理はないゎ」
と、きつい調子で話すと、健ちゃんも
 「最もだ、やめれっ! やめてしまえ」
とあいずちをうち、タマコも敵討ちしたような顔で
 「ソウヨ サーカスに入るなんてワタシ キライダヮ」
と一人前に言うので、大助も、タマコに「チエッ お前までが・・」と恨めしそうに言うと、タマコは
 「お爺ちゃんにもイッテヤルワ」
と、ひるまず抵抗して口答えしたので、大助はあの喧しい爺さんに言われてはかなわんと思い、急にタマコをおだてて
 「タマちゃん、オマエハ カワユイヨ、だから爺さんには言わんでくれ」「オレガ シカラレタラ オマエモ カナシイダロウ」
と小さい声で優しく言って機嫌をとり、何とかその場を収めた。

 その日の夕食時、珠子が母親に大助の出来事を話したら、母親の孝子が
 「お前 調子に乗っておかしなことをしないでおくれよ」
 「片親の場合、普通に暮らしていても人様にあらぬことを言われるのが世間とゆうものだよ」
と説教めいて話をし、続いて珠子が
 「大助ッ あんた、お手紙を貰った美代子さんに返事をだしたのかネ」
と聞いたので、彼はおかずの焼いた鰯を頭からかぶりつきモグモグした口調で
 「どんな風に書けばよいか考え中だよ」「姉ちゃん 下書きを書いてくれないかなぁ~」
と答えたところ、珠子は情けなさそうな顔で
 「中学生にもなったら、その位のこと自分で考えて書きなさい」「そをゆうところが幼いのょ」
 「美代子さんが丁寧にお手紙をくれたのに、愚図愚図して・・、おまけに同級生と道草してるなんて」
と言って撥ね付けられてしまった。

 彼は、心の中で、今日は ナニモカモ ツキノワルイヒダ と観念して、さっさと自室に戻って、布団にひっくりかえって腕枕して天井を見ながら、美代子のことを考えていた。
 遠い地にいる、彼女の無邪気で健康的な明るいところが、和子や奈緒の誰よりも好きで、夏の日のことを想い出すほどに逢いたい気持ちにかられ、それだけに、生まれて初めて経験する心を寄せるオンナノコへ、素直に自分の気持ちを伝える手紙の内容に拘り、下手に書いて軽蔑されて嫌われたらと思うと、ペンを持っても文章が先に進まなかった。
  

コメント
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