広大な夜空
河となり形を描く
星の群れ
きみはひと際強い輝きと共に
いつもその中にあって
物言わぬ導となり
わたしの夜を照らす
雨の日も
曇りの日にも
きみがそこに在ることを
わたしは知っている
晴れた夜には
そのひかりを探して
交わした約束を思い出していることを
きみだけが知っている
人の波にのまれたら
言葉の海に溺れたなら
わたしというひかりは
たちまち消えてしまうけれど
きみだけが きみだけは
わたしを見つけだすだろう
スポットライトを当てて
行き先を何度でも指し示すだろう
辛くとも
苦しくとも
その道を歩み続けろと
何も言わずに背中を押すだろう
星、星、星、星ーー······
銀河
その中に
ひと際強く
輝く星がひとつ
きみの名前は ポラリス
古びた石のベンチに
腰かけている
目には見えないものがいる
推定何十年もの 年月 という先客だ
彼らは
幼いわたしが
このベンチのそばで転んだことも
学生時代のわたしが
彼氏と共に歩いていたことも
数年前
なぜか恋しくなって
この場所を訪れたあの日のことも
全て
すべてを
知っているのだ
幼い頃は大きなベンチだった
もっとあかるい色をしていたし
座っても痛くはなくて
春になると
ピンク色の桜が満開だった
大人になってから見た桜の色は
雪のように白く淡い花びら
人の髪が抜けるように
色の螺旋も抜け落ちたのかと
木の幹を
恐るおそるさすった
「お互い歳をとったんだね」
そのやり取りも
桜が年々色褪せてゆく様子も
公園から 町から
人が減ってゆく様子までも
ベンチに腰かけている
長い年月は ずっと見守ってきた
おそらくは
わたしがうまれるよりも
遥か はるか 昔から
晴れの日も雨の日も
その先客は
ベンチのそばで
しずかに佇んでいる
「あなたはずいぶん小さくなったね」
今でも時々逢いに行く
春 夏 秋 冬
季節を共に眺めて
些細な思い出を語らうために
時々は曖昧でいよう
大切なものほど
やはり曖昧にできているから
白か黒か
1か100か
夏か冬か
男か女か
イエスかノーか
(いきぐるしいこの世のルール)
そんなものでは量れない
硝子よりも繊細な空間を
誰もがその内側に持っていて
完璧には重なりあえない事にも気づいている
その事を寂しいと思いながらも
わたし達はお互いに惹かれ振り向いて
一歩ずつ ゆっくりと近づいてゆく
ひと欠片の期待と溢れそうな不安を抱えて
水と油
光と陰
朝と夜
正義と悪
鉛筆と消しゴム
(全部ミキサーに入れてしまいたい)
答えの無い問いが
この世の至るところに転がっている
重ならない空白ばかりを見つめすぎて
つないだ手を離した事もあった
曖昧になりなよ と
あの日の自分へ無責任に言ってやりたい
あまりにも正しすぎると
噛み合わない歯車だってあるんだよ
まじりあう事で
わかりあえたり
わからなくても
変わったりする
譲ったりできる
(たまには答えをまぜあわせてみようか)
見上げた空や季節が歩む速度
朝昼夜の境界線も
今この瞬間がどこから来て
どこへ流れてゆくのか
わからないままにしてある
そんなすき間があるからこそ
大切で 愛おしいと思えるんだろう
感じたものすべて 記憶に残るんだろう