言葉喫茶【Only Once】

旅の途中で休憩中。

微熱

2020-07-28 22:17:28 | 言葉


薄い膜に覆われて
遮断されてゆく現実感

今こそ現実世界にしかと立ち
あなたの不在を受け入れねばならないこの時に
三十七度の膜がわたしを覆う

すぐ目の前に現実があり
こちらを真っすぐ見つめているというのに
わたしだけが
ひとり 横たわっていて

大きな穴があいたうつわから
あふれ出す液体の
蛇口をうまく捻れないまま

ふわふわフラフラと
揺蕩っては浮かんでいる

時計が歩く音も
夜の静寂も
そばにあるはずなのに
今はほんの少しだけ 遠い

夜が明けたら
探して拾い集めよう

受けとめきれずに落としてしまった
現実のかけらたちを







無限

2020-07-27 19:30:12 | 言葉


このからだは
 いつか
 誰かと誰かが
 つながり
 いのちを紡ぎ
 そのいのちが
 のちに
 他のいのちと出逢い
 つながり
 またいのちを紡ぐことを
 繰り返し
 くりかえし
 はるか昔から続いて
今ここに在る

生命という螺旋は
他者を求めて
さまよい
出逢い
つながろうとする
パズルのピースのようだ

あるいは
終わりの無い
駅から駅へ
連綿と続いては
途切れることのない
線路のようだ

人が芽吹き
花を咲かせて
いつか枯れても
その足跡は語られ残るように
そのあとに新たな芽が出るように


人は

このからだは

このいのちは

こころは


誰に教えられるでもなく
生まれる前から
限りない時の行き先を
とうに知っていた









◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「有限」「無限」
拙いこの二篇を、
親愛なる祖母に捧ぐ。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




有限

2020-07-27 18:42:10 | 言葉


いのちは眩しい

たとえ夜であろうと
明かりが無くとも
ひかり輝く


いのちは大きい

年輪が厚くなろうと
病に飲まれようと
生きると叫ぶ


とても とても 力強く――


いのちは消える

いつ生まれて
どれほど生きても
炎は風と共にゆくだろう


限りあるからこそ

いのちは眩しく
尊いひかりを放って
その名残を網膜に遺してゆく

ひかるいのち
消えたいのち
すべてのいのちが
確かにここに居た という事を









ギフト

2020-07-25 21:33:00 | 言葉





大切なものは
ほんの少しあればいい


 デュラン・デュランがカバーした
 レッド・ツェッペリンの「Thank you」

 仕事の後に飲む
 数杯のコーヒー

 五感と言葉
 生きていること

 何気ないひと時に感じる
 ひと欠片の喜び

 苦しい哀しいと思う瞬間から
 逃げないこと

 通り過ぎていった人達が
 残してくれた想い出

 ひとりではないと
 うしろをふり返る勇気

 君と星空に誓った
 ただひとつの約束

 君がくれたすべての言葉
 言葉の重みについて



ほんの少しでいいはずが
数えてみるとこんなにもあった

わたしの中に降り積もっていた
大切なもの
大切なこと

ほとんど 君や 誰かが
知らない間に置いていった
かたちの無い 贈り物だった


今夜も空を見上げる
たとえ星が隠れていても

大切なものが いつもそこにある








2020-07-25 16:52:46 | 言葉




握りしめた傘では
防げない雨が
わたしをジワリと濡らしてゆく

水溜まりに映る
直径六十センチの世界には
わたしひとりしかいない


はじける雨粒
小さな水面
ゆらゆら

波紋

波紋


波紋


濡れる
濡れている
わたしが 濡れてゆく






雲の流れも 時の流れも
ひどく緩やかな
透明な檻の中

わたしは

とうとう
こころまで
濡れてしまった