事業仕分け:漢方薬を保険適用外の不見識。花輪先生コメント。

漢方薬を保険適用からはずすという事業仕分けに対して、以前からこのブログでも紹介している北里大学東洋医学総合研究所所長の花輪壽彦先生が、11月29日付けの日経新聞に、次のようなコメントを発表されました。

漢方なんでも道場

「事業仕分けの対象に:漢方薬、保険適用外の懸念」

Q.行政刷新会議が漢方薬を保険適用からはずす、と決めたというのは本当ですか。

A.11日の行政刷新会議・事業仕分け作業の結果、医療用漢方製剤を保険給付からはずすという案が承認されました。まだ、政府の最終決定というわけではないようですが、「財源削減」だけを目的に下された判断で、漢方治療の専門家として「信じられない」と言わざるを得ません。

漢方薬は薬局でも購入できるから保険適用から削除、という短絡的理由から決められたようです。とても容認できません。

民主党のマニフェストには「統合医療の確立ならびに推進」として「漢方、(中略)などを統合医療として、科学的根拠を確立します」と書いてあります。

今回の行刷会議の見解はマニフェストにも反しています。

先人の苦労によってやっと漢方薬が日常診療において普通に保険医療として定着し始めました。この時期に、十分な議論を経ずに、パフォーマンス的にカットするこの作業は復権した「日本の伝統医学」の灯を消す暴挙です。

現在、東洋医学会を中心に、署名活動などで「反対」を表明し、「漢方薬が保険で服用できなくなる事態」を回避すべく動いています。(北里大学東洋医学総合研究所所長 花輪 壽彦)

この声明に、私もまったく同感です。

しかし、東洋医学会は、署名運動の前にやるべきことがあったのではないか、というのが私の率直な心境です。厚労省の発表によると11月25日時点で、新型インフルエンザによる死亡者は73人、うち15歳未満の死亡者は21人で全体の30%近くに達しています。それらの症例のプレスリリースを読むたびに、感染初期に漢方薬の麻黄湯を服用していたら、重症化せずに済んだのではないかと、思います。

特に自己主張や自己判断が難しい乳幼児の場合、様子がおかしいと気付いた段階で、保護者が子どもにまず麻黄湯を服用させることは、重症化を防ぎ命を救う可能性のある非常に重要な措置と言っても過言ではないと思います。

ところが未だに、厚労省の新型インフルエンザ対策ガイドラインに、選択肢の一つとしてさえも、麻黄湯は含まれていません。漢方専門家による働きかけが不十分であることは、言うまでもありません。

東洋医学会は、漢方の専門家集団として、新型インフルエンザに対する麻黄湯の有効性を、国民に対して積極的に情報提供すべきだったと思います。処方医である前に漢方の専門家として、特に小さな子どもを持つ保護者に対しては、薬局で麻黄湯を買って常備しておいて、いざという時に備えるべきだというアドバイスを、服用の注意事項も含めて、積極的にインフォメーションすべきであったと思います。新型インフルエンザ対策への積極的な関わりが、薬剤師会も含め漢方専門医には、欠けていたと言わざるを得ないのではないかと思います。

一方で、次のようなエピソードもあります。厚労省医政局の担当者の中にも、麻黄湯の有効性に対して理解を示す人が存在し、ある漢方メーカーに対して「(新型インフルエンザ対策として)麻黄湯を推奨しようか」と話したところ、そのメーカーは、原料である生薬の供給が不十分だとして、厚労省による麻黄湯の推奨に対してネガティブに反応したそうです。このような消極的な姿勢が、結局は漢方メーカー自身の首をしめることにもなるのです。

漢方の専門家が、積極的に新型インフルエンザ対策に行動を起こしていたら、漢方薬が保険適用から除外されるなどという事態に陥ることは、絶対になかったと私は思います。

まずは、漢方の専門家は、新型インフルエンザ感染初期には、タミフル・リレンザと比較して、麻黄湯が同等以上の効力を持つことを、国民全体に周知徹底する努力をすべきです。広く国民に漢方薬の意義を認知してもらうよう積極的な働きかけをしないまま、あわてて保険適用除外の問題だけを主張しても理解は得られません。

そしてメーカーは、原料となる生薬の供給体制の強化のために、厚労省に働きかけをして国家としての解決策を導くべきです。また、抜き打ちの検査体制も確立をして、メーカーが製造する漢方薬の配合などへのチェック機能の強化も必要です。漢方専門医や薬剤師による適切な啓発活動と同時に、メーカー側の企業努力も、漢方の信頼度をアップさせるためには不可欠です。

花輪先生が診療に当たられている北里大学東洋医学総合研究所は、厳選された高品質の漢方生薬を使用し、保険適用外の生薬も駆使して個々人に合わせたテーラーメイドの診療を行っているため、すべて自由診療です。必要な時には私も漢方の大家であられる花輪先生の診療を受けたいと思いますが、自由診療のため残念ながら私には手が届きません。誰もが気軽に漢方治療を享受するためには、漢方薬を保険適用からはずすことは、絶対にあってはならないことなのです。

漢方薬が、現代の医療に欠くことのできない重要な治療ツールとして、国民全体に認識されるためにも、これを機に、漢方の専門家の積極的な情報発信を、私は心から期待します。

漢方薬を保険適用から外さないよう、全国各地で署名運動が始まっています。漢方治療の実態とその重要性を民主党政権に正しく理解してもらえるよう、私も全力で働きかけをしてきます。

電子署名はこちら

→事業仕分け:漢方薬を保険適用外と評価(はたともこブログ)

麻黄湯に関する注意事項

★麻黄湯は、インフルエンザに対して予防的には用いられません(症状のない時には服用できません)。

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