平方録

事態は深刻である

昨晩は少し飲み過ぎた。

去年まで勤めていた会社でちょっとばかり面倒な仕事を頼んでおいた古い友人が辞めるというので、話を聞き、慰労したのである。
鎌倉に越してきてまだ5、6年だというが、碁会所に出入りしているとかで、地元の人たちが行く店を紹介されるらしく、観光客など滅多に入りこんできそうもないような小粋な所ばかりである。
5時半から飲みだして日本酒、ウイスキー、日本酒と3軒はしごしてしまった。

頼んだ仕事は社員の再教育なのだが、この会社特有のよそ者を排除する極めて狭い料簡も手伝って、思うようにいかなかったらしい。
本人は奥さんの健康状態がすぐれず、自分も血圧が上がってしまってきつくなってきた、といっていた。
それもあるだろうが、主たる理由は肝心の社員の非協力である。
私自身も社を離れたこともあって十分なサポートができなかった。
申し訳ないことをしてしまった。

2年ほど前に、業界内のある機関から人権侵害の恐れまで指摘されるような重大な失態を犯しておきながら、部長も変えられず、従って再教育の道筋さえままならず、抜本的な解決策も見いだせないまま時が過ぎようとしていたので、たまりかねて再教育を依頼したのだが、肝心の失態を犯した側が何も分かっちゃいなかったのである。
馬を水場に連れていくことはできても、実際に水を飲む行為は馬がするものなのだ。
飲もうとしないのだから、いずれは衰弱して行くことだろう。
悲しいことである。情けないことである。
今回ばかりはつくづく呆れた。

つい最近のことだが、この友人が将来の核になる人材と見込んだ中堅の2人が東京の同業他社へ逃げてしまった。
一人は1年間別の会社に出向させて、勉強させた社員である。
骨身を惜しまずによく働き、出向先の評判も良かったのである。
よその水に浸って彼我の差を痛感したことは想像に難くない。
寝た子を起こしてしまったとしか言いようがない。逆効果になってしまった。
成長して戻ってきたであろう人材を活かせないのである。心の内をつかめないのである。

友人は多くを語ろうとしないが、そのことも心をくじかせた原因であるようだ。
事態は極めて深刻だと思う。

バスを降りて田んぼ道をとぼとぼ歩いていると、南東の空に満月がかかっている。
寒さはあまり感じず、月の姿はやや朧であった。
季節は確かに、早春である。




朧な満月がかかっていた


庭の雑木の剪定を頼んだ
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