福岡で土方をしていた頃、本拠地は北九州の小倉にあった。親方にかわいがられているうちに、家族とも知り合いになった。特に息子は私より少し年下だったので兄ちゃん、兄ちゃんと慕ってくれた。
この息子とはよく一緒に遊びに行ったが、ある日、飲みに行こうという。
「いいよ」との返事に連れて行ってくれたのは小倉の繁華街にある「人形の家」という、スナックだった。
入ってすぐびっくりしたのは、ママさんがとても美人だったこと。彼女目当てで息子は通っていたらしい。
気風がよくて、男勝りで、シャキシャキしていた。格好もどちらかというとボーイッシュ。短髪でいわゆるタンパロン的なズボンをはいていた。
息子はしきりに彼女を遊びに連れ出そうと口説いていたが、百戦錬磨の彼女にはかなわない。いいようにあしらわれていた感じがしていた。
ところがどういう風が吹いたのかはわからないが、「Yさんなら付き合ってもいいよ」と言い出した。
これを息子の前で言ったのだから、息子は面白くない。
「俺は何年も通ってるのに、Yさんみたいに言われたことはない。帰ろ、かえろ」
私は、もう少しでいいことあるかもと思ったが、息子の手前もあって一緒に帰った。
ところが、店を出ると息子はもう一軒行こうと、言い出した。
それで連れていかれたのは、先ほどの店から5分も離れていない店。ここもママさんがさっきのお店のママさんに劣らないぐらいきれいだった。ややハスキーな声に色気があった。
それで驚いたのが、ここのママさんにもYさんなら、してもいいよと言われることに。
もちろんその日ではないよ。何回か通った後だったけど。
ところが、ところが、実際に事に及ぶことになって……。
男でした。
前のスナックのママさんを譲りたくない、息子が仕掛けたのでした。