乃木坂46が、9thシングル『夏のFree&Easy』を7月9日に発売した。同作は8thシングル「気づいたら片想い」に続き西野七瀬が2作連続でセンターを務めており(連続のセンターは生駒里奈以外では初)、SKE48の松井玲奈が、AKB48グループの「大組閣」により交換留学生として加入後初参加となる作品だ。
また今作の選抜メンバーを見てみると、リリース時点で20歳以上のメンバーが17人中12人、高校生以下のメンバーが2人だけになった。グループ発足時は生駒里奈、生田絵梨花、星野みなみといったまだ幼く清純なイメージの3人がフロントに立っていたが、3年経った現在は「乃木坂御三家」と呼ばれる白石麻衣、橋本奈々未、松村沙友理に加え、松井が西野の周りを固め、“綺麗なお姉さんたち”へとパブリックイメージも変化しつつあるともいえる。(参考:乃木坂46西野、連続センターの意図とは? ミスiDレイチェルがその”イメージ戦略”を分析)
さて、そんな現在の乃木坂46が放つ新作とは果たしてどのようなものだろうか。本稿では表題曲とカップリングの楽曲を3つの視点からとらえ、最新シングルについて考察していく。
松井・生駒の兼任が色濃く反映された2曲
「夏のFree&Easy」
昨年の夏に発売された『ガールズルール』に引き継ぎ、キャッチーなアイドルサマーソングとなった同曲。ただ同じ“夏ソング”と言ってもこの2曲では異なる点がいくつか存在する。「ガールズルール」はフロントを「乃木坂御三家」が務め、田舎の学校を舞台にしたMVと合わせ、女の子の友情をテーマにした楽曲だった。その一方で「夏のFree&Easy」のテーマは“都会の夏”。渋谷を舞台にMVを撮影し、ヘッドフォンやイヤホンをした乃木坂メンバーのそれぞれの夏のワンシーンが切り取られている。
楽曲も7thシングル「バレッタ」、8thシングル「気付いたら片想い」と続いていた昭和アイドル歌謡の路線ではなく、エレキギターを中心に疾走感あふれる、いかにもJ-POPの“夏ソング”に仕上がっている。
これまで、乃木坂46の楽曲はどちらかといえば、“純粋無垢・女の子の花園・甘酸っぱい青春”といった印象の楽曲が多かった。それに対して今回の「夏のFree&Easy」はより大胆でストレート。人見知りが多い乃木坂46のメンバーでも、夏のおかげでいつもより少し積極的になってしまうというような楽曲だ。
また「夏のFree&Easy」は、楽曲全体にSKE48の要素が散りばめられているように感じることもできる。歌詞の前向きな内容や元気な印象を与えるメロディラインなどがまさにそうで、SKE48の最新シングルだとしてもあまり違和感はないのかもしれない。そして、世間的な注目度でいうと、同作は「西野の2作連続のセンター作」というよりも「SKE48松井玲奈が乃木坂46初参加のシングル」という印象の方がおそらく強いだろう。そう仮定すると“SKE48色=松井玲奈色”を出した楽曲になったのは、ある種自然な流れなのだろう。
「何も言わずにそばにいる」
表題曲「夏のFree&Easy」が松井玲奈色を出した曲だとしたら、こちらは生駒の兼任が隠れたテーマになっているように思える。キャプテンの桜井玲香は生駒の総選挙の際に、「『頑張れ!』と言うべきか『無理しないでいいよ』って言ってあげるべきかわからなかった」と語っているが、「何も言わずにそばにいる」というタイトルは、まさにこのことではないだろうか。美しいピアノの旋律や、耳に残る切ないメロディーと絶妙なコーラスが詞の物語を引き立てており、生駒がセンターを務めていた時代の「君の名は希望」や「人はなぜ走るのか?」と同じように、今後長らくファンから愛される曲になっていきそうだ。
“センター・西野七瀬”を表す曲は、「夏のFree&Easy」ではない
「無口なライオン」
「夏のFree&Easy」Type-Bに収録。乃木坂46は、この3年間ですでに4人が表題曲のセンターを経験しており(生駒、白石、堀未央奈、西野)、それぞれに合った楽曲が提供されてきた。という今までの流れから行くと、「夏のFree&Easy」は西野に合わせて作られた楽曲であるということになるのだが、おそらくそれは間違いだ。すでに述べたとおり、表題曲は今までの乃木坂の曲とは異なるし、そもそも引きこもりがちで太陽を嫌う西野が「Sunshine, Free&Easy」と歌っているのは、どうもしっくりこない。では、西野に合わせた楽曲はどれかというと、この「無口なライオン」である。
同曲の詞は、乃木坂46のセンターを「百獣の王」に例え、「ライオンなのだからライオンらしく生きなければいけない」ということではなく、「君は生まれながらのライオンなんだから自分のやり方で堂々とやればいいんだ」といった趣向で書かれており、これは作詞を務める秋元康から西野へのエールともとれる。番組でも涙することが多く、ネガティブな発言が多い西野に向けて、「涙こぼしても君は王者なんだ」「自己嫌悪なんか意味ないよ」といった歌詞が捧げられている。
乃木坂46の新機軸「クラブミュージック×アイドル」路線
「ここにいる理由」
『夏のFree&Easy』Type-Cに収録。選抜に入っていない“アンダーメンバー”も、8thシングルからは「アンダーライブ」という形で、ライブを行うようになり、どんどん活躍の幅を広げている。今回のアンダー楽曲はメンバーも今までにないと語るような楽曲。サカナクションを思わせるイントロで始まったかと思うと、サビではドラムンベースを思わせる強靭なビートが曲を引っ張り、全体的にクールな一面を演出している。今回は選抜メンバーに20歳以上が多い分、若いメンバーが揃ったアンダーだが、詞は別れをテーマにしたシリアスな内容。振り付けはコンテンポラリーダンスになっており、あらゆる面において今までのアンダー曲とは違い、彼女たちが次のステップへと進む楽曲になっているといえる。
「その先の出口」
『夏のFree&Easy』Type-Aに収録。白石麻衣をセンターに据え、お姐さんメンバー9名で構成されたEDMナンバー。ダンスも今までの乃木坂にはないガールズヒップホップにも挑戦している。今まで大人ユニットで歌ってきた「偶然を言い訳にして」や「でこぴん」とはまた違い、ひたすらにポジティブで前向きな詞になっている。
「僕が行かなきゃ誰が行くんだ?」
『夏のFree&Easy』通常盤に収録。この曲を歌うメンバーは伊藤万理華、井上小百合、斉藤優里、桜井玲香、中田花奈、西野七瀬、若月佑美の7人。これは6thシングル『ガールズルール』のカップリング曲ながら、MVやメンバーの雰囲気、楽曲の世界観・ダンスなどがファンやメンバーからも好評だった「他の星から」と同じ顔触れ。歌詞の内容は、明言こそしていないものの、地球は球体ではなく平面であるという地球平面説神話をネタにしており、「他の星から」と地続きであることが暗喩されているように思える。この曲でもドラムンベースの要素が見受けられており、【「他の星から」メンバー×コズミックな世界観×クラブミュージック】という構図は乃木坂46のが提示する一つの形として確立していきそうだ。
上記の三つはどれもクラブミュージックをベースにした楽曲だ。アイドルとクラブミュージックという組み合わせは、最近だとモーニング娘。などが、世界的な流れに乗ってダブステップやブロステップを飛び道具的に使うことはよくあった。現在でも世界的にEDMの人気は根強いし、クラブミュージック系の才能ある若手も次々と登場している。ドラムンベースで言えば、新人のRudimentalがイギリスで最も権威のある音楽賞の一つであるBrit Awardsを今年受賞していることなどからもその勢いがわかる。また、アイドルソングを含めた、邦楽における「テンポの高速化」が少し前から語られているが、(参考:「高速化するJPOP」をどう受け止めるか 音楽ジャーナリスト3人が徹底討論)BPMの高いドラムンベースは昨今のJPOPにマッチするジャンルなのではないだろうか。
乃木坂46の楽曲は、現在活躍している若手アイドルたちとは違ったアプローチが目立っている。彼女たちが打ち出している「ドラムンベース×アイドル」ないしは「クラブミュージック×アイドル」路線は、新たなアイドルソングのトレンドとなっていくかもしれない。
近年のアイドルグループは、ファンや運営が物語を重視する傾向にあり、毎度リリースされる新譜やイベント、ライブではそのグループの現在地と未来を読み取ることができる。今回のシングルはただの“夏ソング“ではなく、大組閣に巻き込まれ激震を受けた乃木坂46の今の姿をファンに示してくれたものとして捉えることができるのかもしれない。活動も3年目となった乃木坂46がリリースする、熱量のこもった新作をぜひ手にとってもらいたい。