日本でパニック消費が問題になっているが、「成熟社会」と言われる欧州も例外ではない。一部の店舗ではトイレットペーパーや乾燥パスタなどの購入が増えて、在庫切れや品薄になる事例が出ている。
3月7日、30歳代の英国人女性は英ロンドン中心部にある高級スーパー「ウェイトローズ」に行き、いつもとは違う光景に驚いた。陳列棚にトイレットペーパーはわずかしか残っておらず、パスタに至ってはほぼゼロだったという。「この状態だとトイレットペーパーが足りなくなった時に買えないリスクがあるから、みんなが早めに買わないといけなくなる」と憤る。こうした「パニック消費」ともいえる現象が欧州各地で起こっている。
欧州で新型コロナウイルスの感染者が急増している。11日までの感染者は、イタリアで1万149人、フランスで1784人、スペインで1622人、ドイツで1296人、英国で377人という状況にある。イタリアでは緊張感が高まっているが、他の欧州諸国では街中でマスクをしている人は少なく、全体としてはパニックに陥っている様子は見られないが、買いだめなどの消費行動が目立ち始めている。
特に手に入りにくいのが消毒液だ。スーパーやドラッグストアでは見つけるのが難しく、オンラインストアでも在庫切れが続出している。そうした中、消毒液の盗難事件が起きていることも明らかになった。
英中部ノーサンプトンの病院では、消毒液の盗難が相次いでいる。ベッド脇に置いた400ミリリットルの消毒液のボトルがなくなり、消毒液の不足に悩まされている。病院は患者の関係者が持ち帰っていると見ている。病院が供給できる量が限られるため、備え付けの個数を減らしているという。
フランスでも盗難が起きている。フランスの保健当局は、パリの病院から約8300枚のマスクと1200本の消毒液のボトルが盗まれたことを明かした。仏南部のマルセイユの病院でも、2000枚の手術用マスクが消えた。
盗難は極端な事例だが、日用品が品薄になる事態は幅広く起こっている。欧州では症状が軽い場合に自主隔離を奨励する国が多いため、買いだめはその際の備えという面もあるかもしれない。
英当局は不当販売の監視強化も
こうした状況に、欧州各国はどのような対策をしているのか。
まず、英スーパーは品目ごとに購入制限を設けている。最大手のテスコは、消毒液や乾燥パスタなど特定の商品について、購入は1人最大5個までとした。ウェイトローズはオンラインショップの一部の製品で購入個数の制限をかけている。ドラッグストア大手「ブーツ」は、消毒液の購入を1人当たり2個までとしている。
また政府も監視の目を強めている。英競争・市場庁(CMA)は5日、衛生用品の不当販売への監視を強化すると発表した。通常は2ポンド(約270円)ほどの消毒液が、ネット上では29.99ポンドで売られているケースあったという。CMAのアンドレア・コシェリ最高経営責任者(CEO)は「小売業者には責任ある行動を求める」「オンラインでの転売も監視の対象になる」との声明を出した。
フランス政府は、値段が高騰している消毒液について、価格統制に乗り出す予定だ。また感染者や医療従事者にマスクが行き渡るように、政府がマスクの在庫を管理する方針も明らかにした。
ストックすべき商品を明示し、不必要な買いだめを防ぐという考え方もある。ドイツの政府機関は、自主隔離になった場合に備えてストックしておくべき食料品のチェックリストを公表している。1人当たり週14リットルほどの水が必要になるという目安や、10日分の食料など、備蓄の詳細を示している。古い食品を先に消費するために、新しく購入した食料品を冷蔵庫や食器棚の奥に保管することも勧めている。
●「ハッピー・バースデー」で手を洗ったジョンソン英首相
普段の生活でパニックに陥らないためには、ちょっとしたユーモアも大事なのかもしれない。
欧州では、挨拶時の頬へのキスや握手を避けるようになってきている。その代替策として、様々な方法が登場している。1つは、肘同士をぶつけ合う挨拶だ。
オランダのルッテ首相は10日、医療関係者と共に新型コロナ対策の記者会見を開き、握手をやめるように呼びかけた。にもかかわらず、会見の締めくくりで思わず握手をしてしまい、苦笑いをしながら慌てて「肘タッチ」をしていた。
その他にも足同士やお尻同士でタッチをする人たちもいる。なかなか一般化しないようには感じるが、当人たちは楽しげだ。
ジョンソン英首相は記者会見で、手を洗う時間の目安として「ハッピー・バースデー・トゥ・ユー」を2回歌うくらいと語り、英国では話のネタとしてよく語られている。手洗いを嫌がる子供に対しては、厳しく指導するよりも一緒に歌いながら手を洗った方が効果的かもしれない。
ジョンソン首相は、研究機関を訪れた際にもハッピー・バースデーを歌いながら手を洗っていた(ただし、手の洗い方はお手本になるようなものではなかった)。未知のものには誰もが恐れをなす。厳密な対策を講じた上で、過剰な恐怖心を緩和するためには、硬軟織り交ぜた方法で注意を喚起し、少し脱力するくらいの訴えかけがあってもいいのかもしれない。
大西 孝弘
3月7日、30歳代の英国人女性は英ロンドン中心部にある高級スーパー「ウェイトローズ」に行き、いつもとは違う光景に驚いた。陳列棚にトイレットペーパーはわずかしか残っておらず、パスタに至ってはほぼゼロだったという。「この状態だとトイレットペーパーが足りなくなった時に買えないリスクがあるから、みんなが早めに買わないといけなくなる」と憤る。こうした「パニック消費」ともいえる現象が欧州各地で起こっている。
欧州で新型コロナウイルスの感染者が急増している。11日までの感染者は、イタリアで1万149人、フランスで1784人、スペインで1622人、ドイツで1296人、英国で377人という状況にある。イタリアでは緊張感が高まっているが、他の欧州諸国では街中でマスクをしている人は少なく、全体としてはパニックに陥っている様子は見られないが、買いだめなどの消費行動が目立ち始めている。
特に手に入りにくいのが消毒液だ。スーパーやドラッグストアでは見つけるのが難しく、オンラインストアでも在庫切れが続出している。そうした中、消毒液の盗難事件が起きていることも明らかになった。
英中部ノーサンプトンの病院では、消毒液の盗難が相次いでいる。ベッド脇に置いた400ミリリットルの消毒液のボトルがなくなり、消毒液の不足に悩まされている。病院は患者の関係者が持ち帰っていると見ている。病院が供給できる量が限られるため、備え付けの個数を減らしているという。
フランスでも盗難が起きている。フランスの保健当局は、パリの病院から約8300枚のマスクと1200本の消毒液のボトルが盗まれたことを明かした。仏南部のマルセイユの病院でも、2000枚の手術用マスクが消えた。
盗難は極端な事例だが、日用品が品薄になる事態は幅広く起こっている。欧州では症状が軽い場合に自主隔離を奨励する国が多いため、買いだめはその際の備えという面もあるかもしれない。
英当局は不当販売の監視強化も
こうした状況に、欧州各国はどのような対策をしているのか。
まず、英スーパーは品目ごとに購入制限を設けている。最大手のテスコは、消毒液や乾燥パスタなど特定の商品について、購入は1人最大5個までとした。ウェイトローズはオンラインショップの一部の製品で購入個数の制限をかけている。ドラッグストア大手「ブーツ」は、消毒液の購入を1人当たり2個までとしている。
また政府も監視の目を強めている。英競争・市場庁(CMA)は5日、衛生用品の不当販売への監視を強化すると発表した。通常は2ポンド(約270円)ほどの消毒液が、ネット上では29.99ポンドで売られているケースあったという。CMAのアンドレア・コシェリ最高経営責任者(CEO)は「小売業者には責任ある行動を求める」「オンラインでの転売も監視の対象になる」との声明を出した。
フランス政府は、値段が高騰している消毒液について、価格統制に乗り出す予定だ。また感染者や医療従事者にマスクが行き渡るように、政府がマスクの在庫を管理する方針も明らかにした。
ストックすべき商品を明示し、不必要な買いだめを防ぐという考え方もある。ドイツの政府機関は、自主隔離になった場合に備えてストックしておくべき食料品のチェックリストを公表している。1人当たり週14リットルほどの水が必要になるという目安や、10日分の食料など、備蓄の詳細を示している。古い食品を先に消費するために、新しく購入した食料品を冷蔵庫や食器棚の奥に保管することも勧めている。
●「ハッピー・バースデー」で手を洗ったジョンソン英首相
普段の生活でパニックに陥らないためには、ちょっとしたユーモアも大事なのかもしれない。
欧州では、挨拶時の頬へのキスや握手を避けるようになってきている。その代替策として、様々な方法が登場している。1つは、肘同士をぶつけ合う挨拶だ。
オランダのルッテ首相は10日、医療関係者と共に新型コロナ対策の記者会見を開き、握手をやめるように呼びかけた。にもかかわらず、会見の締めくくりで思わず握手をしてしまい、苦笑いをしながら慌てて「肘タッチ」をしていた。
その他にも足同士やお尻同士でタッチをする人たちもいる。なかなか一般化しないようには感じるが、当人たちは楽しげだ。
ジョンソン英首相は記者会見で、手を洗う時間の目安として「ハッピー・バースデー・トゥ・ユー」を2回歌うくらいと語り、英国では話のネタとしてよく語られている。手洗いを嫌がる子供に対しては、厳しく指導するよりも一緒に歌いながら手を洗った方が効果的かもしれない。
ジョンソン首相は、研究機関を訪れた際にもハッピー・バースデーを歌いながら手を洗っていた(ただし、手の洗い方はお手本になるようなものではなかった)。未知のものには誰もが恐れをなす。厳密な対策を講じた上で、過剰な恐怖心を緩和するためには、硬軟織り交ぜた方法で注意を喚起し、少し脱力するくらいの訴えかけがあってもいいのかもしれない。
大西 孝弘