またまた自作アライメントゲージ2023の話。
今回はトー測定についてです。その1で触れた通り、2023年版は2個のメジャーを使ってトー測定する方式としました。というか、メジャー方式と糸張り方式の併用といった感じです。実は、2009年版同様、糸張りで左右のトー測定をすることも可能です(下のほうで説明します)。ところで、写真のクルマは少し前から私の相棒になってくれているBMW 2シリーズクーペ(F22)のm235iです。このクルマの話もまたぼちぼち書こうと思います。
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Cults 3D
1. メジャー方式によるトータルトーの測定
さて、まずはそのメジャー方式の説明。これはかなりシンプルで、1対のメジャーで、タイヤの前端と後端あたりの距離を測ることでその角度(トー)を知ろうというものです。メジャーの精度ってどうなんだ?と思われるかもしれませんが、読み間違いが少ない(これ重要!)ですし、案外ちゃんと測れるもんだなあというのがやってみた感想です。
メジャーによるトー測定の例 (画像はGoogle画像検索より)
ところで、トーが角度ではなく「トーイン1mm」などのように表現されていることがあるかと思います。この場合、トーによりタイヤ前端と後端でどれくらいの距離の差が生まれているか、というのを長さで表現したものですので、メジャー方式と概念的に合っていると思います。この場合、2個のメジャーの距離をタイヤ外径と同じにしておくことで、測った値を直接トーの値として読むことができます。(2023年版の良いところは、サイズが自由に変更できることです!)
一方、このメジャー方式からトーを角度として知りたい場合、ちょっとだけ計算が要ります。
右に概略の図を示しました。タイヤ前側のメジャーの読みをA、後ろ側をBとして、その差がB-A、そしてメジャーの距離をLとします。するとトータルトーは三角関数を使って以下のように計算できます。この時、厳密にいえばメジャーの間隔Lと三角形の高さはイコールではありませんが、トー角は比較的小さいので、三角形の高さはLと等しいと仮定しています。
ここで、メジャーの間隔Lの値はどうするか?という話ですが、先述の通り、トーを「mm」で見たい場合はタイヤ外径にしておくと便利です。角度で見る場合は、Lは計算式に入ってるので任意の値でOKです。
ただExcelで、メジャーの読みとメジャーの間隔Lに対しての換算表を作ってみると、ちょっと面白いことがわかりました。Lを573㎜あたりにすると、メジャーの読みでトー1.0mmだった場合に角度が0.1°、2.0mmの際に角度0.2°といった具合に、角度がちょうど読みを1/10した値になることがわかりました。570-580mmくらいというのは現実的にも悪くないサイズだと思うので、それくらいにメジャーの間隔Lを設定しておくのも便利です。
2. 糸張りアライメント
さて、ここまででトータルトーがわかりましたが、左右の個々のトーはわかりません。リヤのトーに左右差(スラストアングル)がある場合、クルマが斜めに進むことになりますし、フロントのトーに左右差があるとステアリングホイールのセンターがズレてしまいます。そこで前後に糸を張って左右のトーを合わせる基準にしたいわけです。
糸張りアライメントというと、大きく分けて2つの方法があります。1つ目はクルマの前後に同じ長さのバーを配し、それらに糸を張る方法。簡単な方法ではジャッキスタンドなどでバーを支えることもできますが、クルマを動かすとズレてしまうので、これはちょっと面倒。一方クルマの前後にバーを固定する方法はレーシングカーでも使われている方法のようで、信頼性の高い方法と言える思いますが、DIY用途には結構大掛かりになります。
クルマに固定せずにバーを支える例 (画像はGoogle画像検索より)
クルマにバーを固定した例 (画像はGoogle画像検索より)
2つ目の方法は、前後ホイールに取り付けたゲージに糸を張る方法。こちらはホイールへの取付だけで完結するので比較的お手軽です。有名なメープルA1ゲージなどがこのタイプ。私の自作アライメントゲージ2009年版もこの方法だったわけです。(画像はこちらよりお借りしました)
その1で書いた通り、2009年版では前後に糸を張る際にスペーサを使って前後のトレッド差を吸収する考えだったのですが、キャンバの影響への対応は難しかったです。また、そもそもクルマがスペック表通りの寸法か?というのも疑問が残りますが、糸の平行を確認する良い方法がなかったところが悩ましい点でした。糸の平行度はトーの絶対値に大きく影響してしまうため、2023年版ではメジャー方式と糸張りの併用により、このあたりの悩みを解決しようという考えです。
で、どうやって糸を平行に張るかについて。下の左側の図に示したように、前後輪それぞれで左右ゲージ間の距離を測れるので、それぞれのゲージに取り付けたスケールの糸張り用のフック付きスライダーを調整して
となるようにすることで、前後でほぼ同じ幅に糸を張ることができるようになります。ここで(20mm)というのはアルミ角パイプの分なのですが、前後ともにこの値はあるので、無視しても結構です。大事なのは左右のスケール部のフック位置(左右のC、左右のF)が同じこと、A+2CとB+2Fの値が同じなることです。
糸が張れたら、いよいよ測定です。トータルトーはメジャー方式でも測れるので、糸張りアライメントは左右の値を合わせるだけに使うのも良いと思いますし、個別トーを糸張りで測って、メジャー方式と照らし合わせるのも良いと思います。ここでも、ゲージに付けたスケールの距離を570-580mmにしておくことで、スケールの読み⇒角度への変換が簡単になります。
さて、この方法だと比較的簡単に糸張りができるのですが、ちょっと気を付けないといけないこともあります。左右ゲージ間の距離をメジャーで測定することで、左右の糸同士は平行にできるのですが、ホイールに付いたゲージから糸を張っているので、糸とクルマの平行具合はトーの左右差に影響を受けてしまうということです。
このあたりを考慮して、トー調整の順序を下記のように考えてみました。
1. まず調整前の状態を考えると、下図のように左右のトーは合っていない可能性がありますし、またステアリングのセンターも出ていないかもしれません。この状態で上記のようにA+2C=B+2Dとなるように糸を張ると、糸同士は平行になりますが、クルマとは平行にならない可能性が高いです。糸とクルマが平行になっていないことは、EとE'やFとF’がそれぞれ同じになっていないことに現れます。
2. リヤのトーを調整するために糸とクルマを平行に近づけたいので、ひとまずハンドルを調整して、E=E’となるようする。まだリヤのトーに左右差がある(FとF’は同じではない)ので、厳密にいえば糸とクルマはまだ平行ではありませんが、ここでリヤトーを、F=F’となるように調整していきます。この時、Bの値が変わる可能性があるので、その際はDおよびD’を再調整して糸の平行を維持するようにします。
3. リヤのトーに左右差がなくなって、F=F’となれば、糸とクルマも平行になっているはずです。この時点ではハンドルはまだズレていますが、リヤの調整は完了。
4. リヤのトーの調整が済んだら、ステアリングホイールをセンターに戻す。こうするとEとE’は再び異なる値になるので、これを合わせるようにフロントのトーを調整する。先ほどと同様に、トー調整によりAが変化する可能性が高いので、その時はBおよびB’を再調整して糸の平行を維持するようにします。
5. フロントのトーを調整し、E=E’となれば、再び糸はクルマと平行になっているはず。ここでFとF'を確認すると、3のところで、リヤを調整するときににE=E'の状態で調整したので、F=F'に戻っているはずです。
と、ちょっとややこしい気もしますが、こんな感じで進めていけば、ホイールに取り付けたゲージから糸をはる方式のデメリットを最小限に出来るのではないかと思います。「こんな煩わしい手順を踏むくらいなら前後に長いバーを付けたほうが良い!」と思われる方もいるかもしれませんが、ごもっともだと思います。前後に長いバーを付ける方法は王道ですし、シンプルで良いと思うのですが、前後のアタッチメントを汎用化するのが難しく、また車両とのセンター出しは結局ホイールに位置によることになる…など、実際やろうとするとそれはそれで悩ましい面もあると思います。何事も一長一短ですので、各自好きな方法を選ばれるのが良いと思います。
個人的には、これはこれでそこそこ良いDIY用アライメントゲージになったんじゃないか?と思うのですが、いかがでしょうか。