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小さき花-第2章~11

2021-09-04 12:41:20 | 小さき花
 私は、6・7歳の頃、はじめて海を見ました。ああ海!海! この海の光景は幼い私の心に深い深い感動を与え、少しも目を離すことが出来ませんでした。広々とした大海原、荘厳な景色、美しい波の花、一つとして私の霊魂に天主様の偉大な事、全能であることを告げないものはありません。私はそのとき父に伴われて、浜辺に立ってこの荘厳な景色を眺めていますと、そばにいた二人の人が馴れ馴れしく父に向かって「こちらは、あなたのお子さんですか……、大層美しい小さなお嬢さんで……」と挨拶しました。父はこの子供の前で、そんなに誉めてくださるな、というような目付きをしました。私は自分では愛らしく思いませんから、姉達は私の子供らしい、無邪気と質朴を失わせるような言葉は決して用いませんでした。父から今の言葉を聞いて、この知らない人々のいう事を別に気に留めませんでした。
 
 その日の夕方、私はポリナと一緒に、この海辺の岩の角に腰掛けて、ずっと意味を眺めていました。紅く、まん丸な太陽ははるか向こうの水平線の上に入りかかりながら、美しい光線を投げて雲を彩り、海を照らし、その一線が真っ直ぐに私の眼に入りました。ああ、この壮大な海の景色! 夕映えの見事さ!とても筆に述べることが出来ません。私はその時「この太陽の光線は、この世に於いて、善人の霊魂を導く道である。聖寵の象徴である」と云われたポリナの言葉を思い出しましたので、永く永く、この金色の光線の痕を見つめました。そして私はその時に私の心に美しい広い帆を揚げて走っている小さな舟と思って、この光線の真ん中にいるように思って、この小さく軽い舟が早く穏やかに天国の岸に着くことが出来るように、私がこの光線、すなわち、聖主の御眼から遠ざからないように堅い決心をしたのです。

読んでくださってありがとうございます。yui


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