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小さき花-第4章~36

2021-10-30 16:06:00 | 小さき花

 尊敬する母様。私はいかに熱き感謝の念を以って、天主様の御慈しみを歌いましょうぞ…「私の精神が世間の俗悪な風に汚されない以前、偽りの虚飾のために迷わされない以前……(知恵の書4の11)に」天主様は私をこの世間から離れさせてくださいました。それで私はこれを待つ間「マリア児童会」に入る許しを願い、特別に聖母マリア様に身を捧げる決心を致しました。

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小さき花-第4章~35

2021-10-29 16:04:49 | 小さき花

 私は堕落する霊魂を非常に深く憐れみます。実際花で飾ってあるこの世間の道を迷うのは、如何にもたやすい事ではありませんか、無論高尚な霊魂の為にはこの世間が与えるところの甘味にいつも苦みが混じり、その限りない希望が到底一時のへつらいの言葉をもって満足する事が出来ません。これは至当の事であります。しかし私はここに繰り返しますが、もし私は幼い時から天主様のほうに心を惹かされず、また世間が私に微笑みを示したならば、今日、どんなものになったでありましょうか……。

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小さき花-第4章~34

2021-10-28 16:03:44 | 小さき花

 無駄心遣いの話しに戻ります。ついに私は小心のあまり病気に罹りましたので13歳の時から学校の寄宿舎から出て学校をやめねばならぬ様になりました。しかし父はなお別に教育を授ける為、徳の優れた某夫人の許に一週間に数回連れて行ってくれましたが、今までの学校と違ってこの夫人の自宅に通うのでありますから、自然この世俗に近づいてきました、この夫人の部屋の中には古い珍しいものが沢山ありましたので、これを見るためにいろいろの人が訪ねてきておりました。それで大抵先生の母親が客のもてなしをしておられましたが、私は教えを受ける間、眼は書物に注いでおりましても、耳には聴かなくとも良い事まで入りまして、ある夫人は「この娘の毛髪は綺麗である」とか「この若い美しい娘は誰であるか」とか、直接私に向かって話しするのではないですが、おのへつらいの言葉が却って直接に聞くよりも強く応えますので、すこし愉快な感じが致しました。これによっても私はまだこの時代にどれほどの虚栄心があったかという事がよく分かります。

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小さき花-第4章~33

2021-10-27 20:50:50 | 小さき花

 そのころ私のために大いなる利益となった一つの事がありました。従姉妹のマリアは度々頭痛がしましたが、その都度母の叔母は彼女にへつらいの言葉を言って機嫌を取ろうとしましたが、しかしマリアはなお頭が痛い痛いを繰り返して涙ながらに不平を鳴らしておりました。私もその時大抵毎日のように同じく頭痛がしておりましたが黙って辛抱しておりました。ところがある夜図らずも私はマリアのようにすぐに部屋の片隅にある椅子に寄りかかって泣き出しました。すると私が深く愛していたマリア従姉妹のヨハンナと叔母がすぐ私の側に来て「なぜ泣くのか」と訊ねましたから、私はマリアの真似をして「頭が痛い痛い」と申しましたが、いままでこういう事をせず、またこの嘆くのはどうも私の性質に合わないと見えて、実際に頭が痛むために焚いているという事を誰も信じません。それゆえ、いつも通り私の機嫌を取り慰めるのに反して叔母は大人に向かって言うような言葉を使い、ヨハンナは本当の理由を言わぬのを少し残念がるような態度をして「あなたはなぜ本当の理由を言わないのですか、早く叔母さんにその理由をおっしゃい」と咎めるように申しました。大方、叔母は私がなにか大いなる心遣いのために泣くのであろうと思ったのでしょう。それで私は大いに当て違いとなったことを悔やみ、これから後は決して他人の真似などしないと決心しました。そしてその時、ちいさな犬とロバとのおとぎ話の意味をよく悟りました。……「ある時ロバは友達の小さい犬が特に主人に可愛がられ、主人の食事の時などにはいつも一緒に食堂に入って、その側で愛されているのを見て羨ましく思い、ある日主人の食事をさせられる時、子犬の真似をして自分の太く汚い脚を食卓の上に架けたところが、可愛がられと思いのほか、却って棒を以って強く打たれた」という話しがありますが、全く私はこのロバに似ておりました。別に棒を以って打たれはしませんでしたが、大いなる戒めを受けたのであります。それゆえ、こののち人の眼を惹いて愛を受けたいというような考えが少しも起こらないようになりました。

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小さき花-第4章~32

2021-10-26 20:24:30 | 小さき花

 その年の夏季休暇は私等は十五日間ほど海辺に行きましたが、叔母はいつも私等に対して母親の如く親切に愛し、ロバに乗せて散歩させるとか、魚釣りをさせるとか、いろいろの楽しみをさせてくださいました。また身なりまでもよく注意してくれました。ある日私は叔母から空色のリボンを貰いました。私はこの時12歳6か月でありましたが、まだ幼児の様なものであって、この美しいリボンで髪を結ぶのが嬉しくありました。しかし私は後これが大いに心遣いの元となって、罪悪のように思いましたから、この無邪気な楽しみさえも、告解の時に神父に言い表しました。

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