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小さき花-第8章~5

2022-10-28 12:59:11 | 小さき花

 私は夢についてはあまり懸念しません。もとより私には何かの預言的のような夢が稀であります。私は朝から晩までただ天主様の事ばかりを思うのに、なぜ睡眠の間にもっと多くのこの御方に心が惹かれないのであろうかと思う事もあります。私の夢は大抵森とか川とか花とか海とか、特にまた美しい子供たちやまだ見たことのない蝶と鳥などを捕らえるという皆詩的のような夢でありまして中々神秘的や比喩的の夢ではありません。
 ところがこのゲノワ童貞が亡くなられた後のある夜、慰めの夢を見ました。それはこの童貞が私等各々に自分の所持品を遺品として与えておられましたが、私の順番に当たる時にはもはや彼女の手に一品もありませんでしたから、私は到底何物をも頂く事が出来ないと思っておりました。すると彼女は愛情深い眼で私を眺めながら「そなたには私の心を遺す」と三度申されたのであります。
 このゲノワ童貞が立派な臨終をせられて一ヶ月の後、即ち1891年の末にこの修道院内に激しい流行感冒が入りました。私も軽くこの病気に罹りましたが、僅かに他の二人の修道女と共に、臥せらずにいた位で、他の者はみな病床についておりました。この恐ろしい病気中この修道院内の光景は、実に思い出す事も忍びない位の悲惨で、一番重い病人をようやく歩行ができるばかりの病人が看護しているという有様であります。そして彼処でもここでも続いて病死し、亡くなるとすぐにこれを隔離せねばなりませんでした。
 私が19歳になった記念日にちょうど副院長が病死なされましたので心を痛めました。臨終の際には私はこの御方を看病をしていた人と一緒にその側におりました。副院長が亡くなられると間もなく他の二人の修道女も続いて亡くなりました。そしてその時聖堂の納屋係はただ私一人でしておりましたので、どうして一人で行き届くことが出来たか不思議に思っております。
 ある朝起床の鐘が鳴りますと、ちょうどその時私は病床に就いているマグダレナ童貞が亡くなったという気が致しました。まだ寝室が暗くそこに行くところの廊下が暗いですから寝室から出る者は誰もありません。然るに私は急いでマグダレナ童貞の部屋に入りますと、思った通り彼女は藁布団の上で少しも動かず、早くも冷ややかになっております。そこで私は何の恐れもなくすぐさま納屋に走って蝋燭を取り出し、彼女の頭の上に薔薇の花冠を被せました。憐れみ深い天主様はかくのごとき悲惨な場合に於いても、私等を護っておられるという事を深く感じました。病人等はみな何の心配もなく、至極穏やかにこの世界を離れて、もっと幸福な生命を得るのであります。彼女等の顔には天の喜びが現れて、安らかに眠っているようでありました。
 私はこの長き試練の間に、毎日聖体を受けるという無上の慰めを得ました。これは如何にも愉快な事で、聖主は私に対して他の者よりも特別に御慈愛を垂れてくださったのであります。この流行風邪が治まった後も、他の童貞等はまだ数か月の間、私の如く毎日聖体を拝領する事が許されませんでした。私は特にその許容を願いませんでしたが、しかし何よりも親愛なる聖主を毎日拝領する事を至って喜んでおりました。
 



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