【芝居】稼働日数が少ないにも関わらず15本の観劇となった。ちょっと多すぎますかね。そのなかでは田川啓介がさらなる変化と成長の兆しを期待させる『不機嫌な子猫ちゃん』(まだまだもっと書けるはず!)、二兎社『シングルマザーズ』、May『十の果て』に確かな手ごたえを与えられた。
【本】
*渡辺保 『私の「歌舞伎座」ものがたり』 (朝日新書)
*長田育恵 『乱歩の恋文』 シアターアーツ2010冬号掲載 昨年秋の上演を見逃したのが残念でならない。
【映画】
*ロドリゴ・ガルシア脚本、演出 『愛する人』 ガルシア監督作品では『彼女を見ればわかること』が大変好きで、べつべつの場所で進行するそれぞれの女性の物語が次第に繋がっていく過程に引き込まれた。今回は多少ストーリーを追う印象があって、『彼女を~』をもう一度見返したくなった。
*『わが心の歌舞伎座』 幕間をはさんで3時間10分の大作。情感たっぷりの音楽が少し盛り上げ過ぎかなと思ったが、みてよかった。大切な歌舞伎座。家族や友人と過ごした懐かしい時間と空間を心に刻み、新しい歌舞伎座を待とう。どうかそれまで、家族とともにこの世に人生が与えられていますように。歌舞伎座の映画をみたあと、ル テアトル銀座まで走って二月花形歌舞伎をみる。ちょっと変な気持ちだ。
先日大学時代の恩師をお誘いして、二兎社の『シングルマザーズ』を観劇したあと、大変貴重なお話を伺った。恩師が劇団民藝公演において、岸田國士作、宇野重吉演出の『驟雨』をご覧になったときのこと。新婚旅行先から早くも夫に嫌気がさして、妹が姉夫婦のうちに駆け込んでくるという短いお芝居である。妹は夫の行状に対する不満を言い立て、姉はまるで自分の結婚生活の代理戦争であるかのように妹に同情し、夫に意見を求めるがうまくかわされ、そこににわか雨が降って終わり・・・という内容である。姉を演じた奈良岡朋子が雨が降っているおもてを眺めるとき、雨の落ちる地面に目を落として幕となったのだそう。
「雨が降ってきた」といえば、演じる俳優はたいてい空や空間をみつめるだろう。それを地面をみつめたところに緻密で的確な宇野重吉の演出があった。様子を想像してぞくぞくしながら、かりに自分がその場に居合わせたとして、演出意図や演劇的効果に気づくことができただろうか。単に目を伏せたとしか感じなかったかもしれない。『驟雨』は岸田國士のなかでも好きな作品で、東京乾電池の月末劇場(2009年3月)の舞台がいまでも心に残るが、あのとき姉を演じた美しい宮田早苗さんはどこを見つめていたかしら。
昨年末に同じ民藝が『十二月-下宿屋四丁目ハウス-』を上演した。質実な新劇の味わいを堪能したのだが、観劇前に「江森盛夫の演劇袋」の「舞台が無人になったときの気配の濃さ」という記述を読んで、まさにその通りであることに感嘆したのだが、もしこの劇評を読まないで観劇したら、このことをちゃんと認識できただろうか。同時にあらあかじめの情報ではなく、みずからそのことを感じ取りたかったというないものねだりの気持ちもわいてきて、大変複雑な思いにとらわれるのだった。
芝居をみるのも劇評を書くのも自分だが、いろいろな方のお話を伺うことによって、自分の力では到底及ばない視点を与えられる。幸せに感謝したい。
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