*清水弥生作 小川笑子上演台本・演出 坂手洋二芸術監督 公式サイトはこちら 公演は25日で終了 梅ヶ丘BOX
燐光群の演出部、文芸部に所属し、同劇団の演出助手をつとめている清水弥生のデビュー作である。当日チラシに掲載されている挨拶文は、清水自身、坂手洋二ともに、本作への並々ならぬ思いが溢れている。当初は演出家を招く可能性を考慮して「小山笑子」という架空の存在を設けたが、「ついに『誰かを招く』ということはできず」とあるので、坂手が関わったと考えてよいのだろうか。劇団活動の一方で清水弥生はあるNPOに所属し、障害者の自立生活支援や介助は件に関わる業務に従事し、ホームヘルパーのアルバイトを続けているという。劇作家と介護者。大変重そうな二足の草蛙である。
中距離からマラソンに転向したものの、初マラソンで挫折したランナーの花(安仁屋美峰)と、自らも進行性の病いで車椅子生活をおくりながら、女性限定のグループホームを経営するミナミ(樋尾麻衣子)の交流を描いたものである。グループホームには障害者だけではなく、さまざまな事情を抱えて家を飛び出した母とその子ども、近所のホームレスの老人も集まってくる。立ち退きを迫るヤクザや子どもに会いたくて乗り込んでくる父親など、人物の出入りが多く、たくさんの話が盛り込まれている。
「ここでラストだな」と背筋を伸ばしたら暗転して話が続くことが数回続き、物語をどこに着地させようとしているのか、だんだんわからなくなってきた。登場人物が多く、それぞれの立場で抱えている思いがある。それをどの人にも語らせたいという劇作家の優しさを感じたが、みている自分の集中力の配分がうまくいかなかった。暗転から間を置かずに次の場面にする工夫はできないものだろうか。障害者と健常者が共生するにはどうすればよいか。現場の現実を直に伝えるために、ルポルタージュでもなくドキュメンタリー映像でもなく、敢えて演劇という手法を取ったこと。それを改めて考えた。2週間前にみた風琴工房の『hg』も思い浮かぶ。
自分の足で歩けず、生活のすべてにおいて人の助けを必要とするミナミと、何不自由なく動けるが、走ることに悩みや迷いのある花。二人のあいだには越えがたい「壁」がある。花がグループホームを訪れたのは、彼女の勘違いがきっかけのようであるが、多くの人々と出会い、さまざまな出来事を体験しながら二人のあいだの「壁」を乗り越え、自分の中の「壁」を突き破って走り始める二人の姿は清々しい。こういう表現は優等生の作文のようで気恥ずかしいが、ほんとうである。
夕方から雨になり、劇場入り口ではスタッフ、出演俳優総出で観客ひとりひとりに傘をさしかけて濡れないようにしてくださった。一人の劇作家が生まれ、作品の上演を自分は体験できたのだ。小さな空間で過ごした2時間が、これから大きく深く広がっていくことを祈る。
燐光群の演出部、文芸部に所属し、同劇団の演出助手をつとめている清水弥生のデビュー作である。当日チラシに掲載されている挨拶文は、清水自身、坂手洋二ともに、本作への並々ならぬ思いが溢れている。当初は演出家を招く可能性を考慮して「小山笑子」という架空の存在を設けたが、「ついに『誰かを招く』ということはできず」とあるので、坂手が関わったと考えてよいのだろうか。劇団活動の一方で清水弥生はあるNPOに所属し、障害者の自立生活支援や介助は件に関わる業務に従事し、ホームヘルパーのアルバイトを続けているという。劇作家と介護者。大変重そうな二足の草蛙である。
中距離からマラソンに転向したものの、初マラソンで挫折したランナーの花(安仁屋美峰)と、自らも進行性の病いで車椅子生活をおくりながら、女性限定のグループホームを経営するミナミ(樋尾麻衣子)の交流を描いたものである。グループホームには障害者だけではなく、さまざまな事情を抱えて家を飛び出した母とその子ども、近所のホームレスの老人も集まってくる。立ち退きを迫るヤクザや子どもに会いたくて乗り込んでくる父親など、人物の出入りが多く、たくさんの話が盛り込まれている。
「ここでラストだな」と背筋を伸ばしたら暗転して話が続くことが数回続き、物語をどこに着地させようとしているのか、だんだんわからなくなってきた。登場人物が多く、それぞれの立場で抱えている思いがある。それをどの人にも語らせたいという劇作家の優しさを感じたが、みている自分の集中力の配分がうまくいかなかった。暗転から間を置かずに次の場面にする工夫はできないものだろうか。障害者と健常者が共生するにはどうすればよいか。現場の現実を直に伝えるために、ルポルタージュでもなくドキュメンタリー映像でもなく、敢えて演劇という手法を取ったこと。それを改めて考えた。2週間前にみた風琴工房の『hg』も思い浮かぶ。
自分の足で歩けず、生活のすべてにおいて人の助けを必要とするミナミと、何不自由なく動けるが、走ることに悩みや迷いのある花。二人のあいだには越えがたい「壁」がある。花がグループホームを訪れたのは、彼女の勘違いがきっかけのようであるが、多くの人々と出会い、さまざまな出来事を体験しながら二人のあいだの「壁」を乗り越え、自分の中の「壁」を突き破って走り始める二人の姿は清々しい。こういう表現は優等生の作文のようで気恥ずかしいが、ほんとうである。
夕方から雨になり、劇場入り口ではスタッフ、出演俳優総出で観客ひとりひとりに傘をさしかけて濡れないようにしてくださった。一人の劇作家が生まれ、作品の上演を自分は体験できたのだ。小さな空間で過ごした2時間が、これから大きく深く広がっていくことを祈る。
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