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因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

ゲンパビ#8 『積雨、舟を沈む』

2014-04-24 | 舞台

*阿部ゆきのぶ脚本・演出 公式サイトはこちら 王子小劇場 27日まで (1,2,3
 今回で4度めのゲンパビ体験だが、これまでみたのはいずれも企画公演、ギャラリー公演、他プロジェクトへの参加公演なので、本公演ははじめてということになる。前回の本公演『カゼマチ』から1年4ヶ月ぶりとのこと、音響、照明、美術スタッフをフルに揃えた気合いの舞台となった。
 ゲンパビは福井伸実のイラストによる公演チラシやはがきが毎回とても素敵なのだが、今回は当日リーフレットもなかなか凝ったつくり。俳優名と似顔絵入りの人物関係図をみると、高校の美術部だった数人の輪のなかにひとりだけシルエットの人物がおり、彼が同級生たちの親友で、自殺したことが記してある。ここをみただけで、これから始まる物語がなぜ彼がみずから死を選んだのか、その行為が周囲の人々にどんな影響を与えたのかを中心に展開することが想像できる。

 舞台は一見して学校の教室であり、イーゼルはじめこまごまとした画材が置かれていることから、美術部の部室であることがわかる。中央奥に水槽がひとつ。よくみると床が中央に傾斜したつくりになっていて、現実的な空間というよりもどこか歪んで不安定な空気を醸し出している。大雨の日、ひとりの男性が教室を訪れる。

 物語の構造といい人物の造形といい、これまでのゲンパビからは想像もしなかった舞台なので、まだ頭も心も混乱している。シルエットの人物をめぐって過去と現在が交錯したり、主筋の人物と脇筋の人物が入り組んでいたり、彼が自死に至るまでの出来事はじめ、ひとりひとりが重苦しい秘密を抱えていて、一筋縄ではいかない様相をみせる。

 後半からは謎解きやミステリーの要素が色濃くなり、やや説明的な展開になったことは否めない。物語の中心に近い人物に対して、やや距離のある人物が意外なところで絡むものの、いささか強引な運びだったり、この人はほんとうは誰なのか、なぜここに来たのかという観客の疑問に対して、きちんと納得のできる展開なのか、何よりあそこで幕を閉じてしまうのはあまりに気を持たせ過ぎではなかろうか。

 もちろん謎や疑問の答をすべて提示し、明らかにするのが劇の役割ではない。謎のまま、あるいは観客の疑問が残ったままであっても構わないのだが、ややエピソードや人物を盛り込み過ぎたために、さまざまな事象の着地点があいまいになったのが残念だ。

 人と人はほんとうに信じあえるのか。作者は登場人物に託してこの問いを投げかけているのだろう。当日リーフレットの挨拶文に記された「この作品を、永遠に分かり合えないあなたに」ということばには、諦念や達観よりも、控えめではあるが希望が感じられる。ここをもっとみたいのだ。

 大雨のために自治体から避難指示がでて、この校舎に人々が集まってくるという設定だが、物語に関係した人物だけが出入りし、そのほかの住民の様子をかたる台詞がなかったり(と記憶する)、現実的な話として進行させるためにあと数歩詰めが必要と思われる。

 また今回作者が相当に腕を奮ったと思われる戯曲に対して、俳優の演技が追いついていない印象がある。ある人物が舞台に登場する。相手に対して名前を呼びかける。その名前がはっきり聞ききとれないと、観客は最初からつまづく。むろん日常においては聞きとれないことばはたくさんあり、感情が乱れたときの言動は、文字通りめちゃくちゃになることが多い。しかし舞台で表現する場合、日常生活と同じように自然に行うのとはちがう意識が必要ではないだろうか。

 久しぶりの本公演だ。俳優はじめスタッフの心が強く注がれていることが客席にも伝わってくる。仲間の理解や支えがこれほどあるのだから、戯曲を細部にわたって練り上げ、演出の視点や方向性を研ぎ澄ませれば、もっと素敵な舞台になるのではないだろうか。
 観劇日はアフタートークがあり、こゆび侍主宰の成島秀和氏が登壇、「ゲンパビをもっと好きになってほしい」と強く訴えておられた。
 よくわかります。ゲンパビの舞台には愛される魅力がある。だからもっと素敵になってほしくて、つい「ここをこうしたら」、「あそこが惜しい」と思ってしまうのである。
 今回の記事はだいぶ辛めになったが、魅力あるゆえの辛口としてご寛恕くださいますよう。

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