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因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団印象突然番外公演『空白』

2008-03-03 | 舞台
*鈴木厚人作・演出 公式サイトはこちら 新宿タイニイアリス 公演は2月24日で終了

 『空白』は2005年6月に初演された作品である。緊急公演が12月30日に決定、今回初の再演となったとのこと。当日リーフレット掲載の鈴木厚人の文章を読むと、劇作家や劇団員にとって再演は、過去の作品、あのときの自分に「再会」するわけで、前回できなかったことを今度はこうやってみようとか、作り手としての前向きな気持ちだけではない、複雑な思いにかられるようである。自分が劇団印象と出会ったのは昨年の夏であり(1,1`,2)、初演の『空白』はみることができなかった。それを残念に思いつつ、自分にとっては初対面となる『空白』をまっさらな気持ちで楽しむことにした。

 マンションの一室、ただならぬ様子で向かい合っている男と女。彼らは「元夫婦」である。再婚した元夫は、現在の妻に追い出され、引っ越し費用の無心に元妻のもとにやってきた。元妻は新しい出会いを得て再婚を考えている。新しい彼が部屋にやってこようとしている矢先に落ちぶれた元夫がのこのことやってきた。一方元夫の今妻は売れっ子作家であるが、離婚再婚を何度も繰り返し、その経験が自作にあからさまに反映してしまうタイプらしい。うちには原稿を待つ編集者が3人もいてあの手この手で書かせようと苦心している。ほかにも元妻の妹や彼女の恋人の予備校講師、妹に片思いしている男友達がどんどんからんできて、物語は混乱の極みに。

 物語は一杯道具の舞台装置を自在に行き来しながらテンポよく進行する。「突然番外公演」と銘打ってあるものの、再演の手堅さがあって台詞も演技もよくこなれており、安定感がある。劇中、元夫役の加藤慎吾が某二枚目俳優の物まねで台詞を言い始めるところでは、よく似ていてびっくりしたし、寝たきりの父親を介護に悩む編集者役の片方良子は、自分にはある時期の荻野目慶子を連想させた。

 困ったことが起こり、その場しのぎの嘘やごまかしを塗り重ねたもののどうにもならなくなって、さあどうする?!という一種のシチュエーションコメディであるが、印象の舞台をみていつも思うのは、一見ドタバタ風の喜劇のようで、実はもっと深いところへ連れていこうとするところである。人はひとりの相手としか結婚できない。自分が選んで自分が決めた結婚であるが、そこにはやはり人知の及ばない、天の配剤のようなものがあるのではないか。元妻と今妻のあいだを結構楽しそうに右往左往する元夫、懲りないのか学習能力がないのか、単にわがままの寂しがりやなのか、自分が追い出していながら夫を恋しがる今妻の様子は、誇張した姿で描かれていても、少し痛いものを感じさせる。シチュエーションコメディは、客席がどっかんどっかん沸いていても一瞬「いくら何でもこれはありえないや」と感じた途端に醒めて引いてしまう。今回の『空白』はそう思わせる前に、前述のような「痛さ」をみせて少ししんみりと考えさせてくれるのである。

 

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