Miraのblog

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勝負馬券物語4

2024-05-01 16:43:16 | 勝負馬券物語

 大きく脱線してしまった。
 この物語は、トウショウボーイを語ることが目的ではない。
ましてや、テンポイントや杉本アナウンサーについて書いているのでもない。
 
 小生の一世一代の勝負馬券について書いている。
前置きが、あまりにも長くなってしまったことを、お詫びする。
 
 ダービーが終わると、我々のような中途半端な競馬ファンは少し気が抜ける。
この年もご他聞にもれず、秋口までは競馬にほとんど関心がなくなっていた。
 夏休みが終わった9月中旬、武蔵小金井の北口のパティオで、スポニチ片手にコーヒーをすすっていた小生は、ある記事を発見した。
 
 トウショウボーイに福永洋一が騎乗するというのだ。
福永といえば、関西で天才と言われている騎手だ。
 この夏も、天才ぶりを発揮して勝利数を大きく伸ばしていた。
 
 トウショウボーイはダービーのあと、札幌で一回走ったらしい。
慣れないダートコース、しかもスタートで出遅れて、2着だった。
しかし、「コンディションにまったく問題なし」とスポニチに書いている。
 そして、トウショウボーイは次週の神戸新聞杯に出走。
その時、天才福永洋一が騎乗するというのだ。
 
 実は、ダービー前の山尾さんの講釈の中で、トウショウボーイに騎乗している池上という騎手が下手だという話があった。
 小生は、競馬は馬が走るのだから、余程騎手が余計なことをしない限り勝敗に関係することはないだろうと思っていた。
現に皐月賞までは、池上で4連勝していたからだ。

 しかし、ダービーのレースをスポーツニュースで何度か見ているうちに、逆にトウショウボーイに加賀騎手が乗っていれば、仕掛けどころを間違えずに勝っていたのではとの疑いを持つに至っていた。
 なぜなら、ゴール近くではクライムカイザーとの距離を縮めていたのだ。
決してスタミナが切れていたのではない。

クライムカイザーのスパートが絶妙だったのでは・・・騎手の技量の差がでたのでは?
 札幌のレースも出遅れとある。池上だからか・・・
 
 となりで新聞を覗き込んだ松本さんも、「2000mだし、問題ないだろう」と言う。
(注釈 2007年から神戸新聞杯は2400m)
 
 小生も確信があった。
「2000mなら、トウショウボーイは負けることはあり得ない」
今、考えると、まったく根拠のない確信だが・・・
 
 明らかに、のぼせ上っていた。
自分を、そして現実を見失っていた。
 
 当日、東京競馬場に、馬券を買いに行った。ありったけのお金を持って・・・
この時、小生の全財産は5万円だった。さらに、1万円ずつ5人の友達に借りて、合計金額は10万円となった。
 この10万円でトウショウボーイの単勝を買いに行った。
 
 ところが、ここで問題が生じた。
トウショウボーイに人気が集中していて、単勝が1.3倍しかない。
 10万円分の単勝を買って当たっても、3万円しか儲からず、借りた人に少しずつお礼をすると、利益がなくなってしまう。
 これまで、小生が一つのレースに張った最大の金額は、トウショウボーイの最初のレースの単勝を、売り場のおばちゃんへの見栄で買った3000円だった。
 
 それに対し今回は、あろうことか10万円を張ろうとしている。
確信があったので、少しも恐くなかったが、リスクの大きさに比べ見返りが悪すぎた。
 
 念の為、連勝複式を確認した。
トウショウボーイとクライムカイザーの組み合わせが、1.7倍だった。

 トウショウボーイは福永洋一、クライムカイザーはダービーと同じ加賀武見。
 
 「堅い!」と思った。
 
一世一代の大博打、特券売り場で、トウショウボーイとクライムカイザーの連勝複式馬券を10万円分頼んだ。
 おばちゃんから連複馬券を受け取るとき、しつこく何回も枠番を確認したことを今でも覚えている。
 
 神戸新聞杯は阪神競馬場の2000mコースで行われる。
東京競馬場で場外馬券を購入した小生は、競馬場のテレビに映る阪神競馬場のレースを凝視した。
 
 第24回神戸新聞杯がスタートした。

 トウショウボーイは、いつものように先行した。
天才福永洋一を鞍上に、首を下げて、美しく走る。
4コーナーで、先頭に立って他馬との差をひろげた。

予定通り、加賀武見のクライムカイザーが2着を追走していた。

 今回は連勝複式馬券なので、クライムカイザーがトウショウボーイを追い込んで差しても、まったく問題ない。
 どちらが一位でも構わないのだ。
 
「よし!このまま!」
とテレビに向って叫んだ。

周囲の、おじさん達も「よし、このまま!」「このまま」と叫んでいた。
圧倒的一番人気の馬券だ。お客さんは、かなりの割合でこの組み合わせを買っている。
 
 最後の直線で、トウショウボーイは益々差をひろげた。3馬身、4馬身、5馬身と、どんどん差がついていく。
 楽勝だった・・・大差だ。
 
 1分58秒9の走破タイムは日本レコードだった。
折しも、レース実況は杉本清アナウンサーで、
「恐ろしい時計です、これは恐ろしい時計です」と驚きを表わした。
 2000mのこれまでのレコードタイムは1分59秒9であり、一挙に4歳馬が1秒更新したことを杉本アナは瞬時に表現したのだった。
 
 ところが、「そのまま!」の声援の中で、クライムカイザーが危ない。
後から来る馬に追いすがられ、交わされそうになる。
 
 「ああ~! 10万円がぁ~・・・」
 
一瞬で、頭、顔、そして背中から汗が噴き出した。
悪い汗だった。なぜかドロッとした汗だった。
 
 幸い、クライムカイザーは、2着に残った。
 
 結果だけでいうと、馬券は取れた。

 しかし、びっしょり出た汗で、しばらく吐き気が止まらなかった。
気分が戻ったあとも、動悸が正常でなかった。
 確実に命が何年か縮んだ。
 
「もう2度と、こんな馬券の買い方は止めよう」
と、心に誓った。
 
 おしまい
 
 
 追記
 取れたから良かったが、取れなかったらどうしていたのだろうか?
若いからできた事で、競馬1年目のとんだ勘違いだった。
 その後の小生の馬券購入方法は、この時の反省を踏まえ、悪い汗をかかないであろう「分相応」の金額を心がけている。



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