年末・年始の旅行や百貨店の初売りなどをみると、個人消費は好調なスタートを切ったと言えそうだ。背景には2024年の賃上げ率が高かったことが考えられるが、25年の食料品値上げは24年を上回るペースになるとの調査もあり、2月以降に節約ムードが復活する可能性もある。特に賃上げの影響を受けない年金受給者が全体の3割を占める「高齢化効果」の波及が、今年は例年以上に強まることも予想され、消費の「二極化」が鮮明になると予想する。
<JRと航空2社、デパートの初売りは好調>
JR6社によると、年末年始(12月27日ー1月5日)の新幹線と在来線特急の旅客数は前年比プラス11%の1309万人だった。中でも、東海道新幹線は前年比プラス8%の412万人となり、1日平均が41万2000人と1991年度以降で過去最高となった。
航空各社も全日本空輸(ANA)の国内線が前年比比プラス20%の149万4000人、国際線が同プラス17%の24万9000人。日本航空(JAL)の国内線が同プラス12%の112万5000人、国際線が同プラス24%の22万7000人だった。
百貨店の初売りも好調だった。人手不足による働き方改革を意識した高島屋と大丸松坂屋百貨店は初売りを1月2日から3日に後ろ倒ししたが、高島屋は3日の売上高が前年1月2日と比べ23%増となり、大丸松坂屋は3-5日の売上高が前年2-4日と比較して20%増となった。2日スタートの三越伊勢丹ホールディングス(HD)も主力店で売上高が大幅に増加した。
<大幅賃上げとボーナス支給、旅行や高額品の消費へ回った可能性>
こうした傾向は24年12月から顕著になっており、ナウキャストとJCBがクレジットカード決済額に基づいて発表している消費データによると、2024年12月前半は前年同期比プラス6.1%と好調だった。
この好調な消費データの背後にあるのは、24年に実施された高い賃上げ率の存在がある。厚生労働省がまとめた2024年民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況によると、賃上げの平均妥結額は1万7415円、賃上げ率は5.33%で前年を上回った。賃上げ率が5%を超えたのは1991年以来、33年ぶりだった。調査対象は、資本金10億円以上・従業員1000人以上の企業のうち、労働組合のある企業348社。
また、経団連がまとめた冬のボーナスは、従業員1人当たり92万5545円と前年比プラス2.11%だった。対象は、従業員500人以上の大手企業161社。
このように大企業を中心に大幅な賃上げやボーナス支給を実施した企業の社員には、かなりの余裕が生まれ、旅行や外食など非日常のサービスや高額商品の購入が増えた可能性がある。
<25年も食品値上げ続く、年金受給者を直撃>
一方、総人口の3割を占めるようになった年金受給者には、この賃上げの影響が及ばない。賃上げ効果がない世帯が直面するのは、食品を中心にした物価上昇の圧力だ。
帝国データバンクの調査によると、25 年1月から4月までに値上げが決定している飲食料品は、6121品目。このうち1月はパン類を中心に1380 品目と、1月としては22年の調査開始以来、最多となった。また、25年の値上げ品目数は前年比で約6割増となっているのが特徴だ。
こうした点を勘案すると、年金受給者を中心とした高齢者の世帯は一段と財布のひもを締める「節約生活」を強いられ、消費全体を下押しする圧力が増す可能性があると予想する。
<日本の消費構造、「2こぶラクダ」に>
日本の消費構造は今、株式などの資産を保有している富裕層や賃金上昇の恩恵を受ける大企業などの正社員の階層と、就業者の約4割を占めるようになった非正規社員や年金受給者という2つの階層に分化していると筆者は考える。
つまり、消費全体を考えると、上位の階層の平均的なところに1つの大きなこぶがあり、もう1つの階層のところで別のこぶが存在するという「2こぶラクダ」のような形状になっているのではないかということだ。
24年の春闘における大幅な賃上げ後も、日本の消費全体に30年前のような大きなうねりが生じないのは、2こぶの現象によって消費の平均値が下方に押し下げられているからではないか、と指摘したい。
<賃上げの恩恵ない階層に必要な政策的なサポート>
したがって日本の消費をさらに活性化するには、2つに分断された階層のうち、正社員の賃上げの恩恵を受けない人たちへのサポートをどうするのかという点に政策の焦点が当てられるべきであるが、6日の石破茂首相の会見では、そうした視点が欠落していたように見えた。
6日の当欄で指摘したように、トランプ関税の動向次第では、大企業の賃上げにも暗雲が漂うことになる。年末・年始の消費の活況に目を奪われていると、その先に控えている大きな穴にはまり込むことになりかねない。