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日銀支店長会議、中小から賃上げに慎重な声 1月利上げ見送りの材料になるのか

2025-01-09 14:08:04 | 経済

 1月の金融政策決定会合での日銀の判断を占う上で注目されていた支店長会議が9日に開かれた。筆者は、いくつかの重要なメッセージが示されたと感じた。1つは、日銀が重視している今年の春闘での賃上げに関連して中小企業などから慎重な姿勢を示す声が出ていると引用された点だ。また、現時点で賃上げ率を固めていない企業の声も紹介され、さらに詳しい情報を待つ姿勢が決定会合で採用される可能性もあると見えた。

 23、24日の決定会合までに20日のトランプ次期米大統領の就任式と新たな大統領令の発令などのビッグイベントが控えているが、トランプ次期政権の政策をめぐる不透明感がすっきりと払われる可能性は低いとみられ、筆者の目には、日銀が1月会合での利上げ見送りに傾きつつあるのではないかと映った。

 

 <サービス消費堅調、制約志向の影響にも言及>

 日銀が支店長会議での報告をまとめた「各地域から見た景気の現状」によると、企業の設備投資は「幅広い分野で積極的な投資姿勢が維持されているとの報告が多かった」という。 

 また、インバウンド需要を含む個人消費は、サービス消費で「観光・宿泊や外食などの需要が引き続き堅調」と指摘。財の消費でも「百貨店等における高額品の好調な販売が続いている」「冬物衣料品の販売が増加したなどの報告が多かった」と好調な面を先行して紹介した。

 ただ、スーパー等を中心に「物価高を受けた消費者の節約志向の影響が引き続きみられており、今後の動きを注意してみていく必要があるとの報告もあった」と懸念材料も併記していた。

 

 <賃上げ率固めていない企業、収益面から慎重な姿勢の声も>

 筆者が注目した雇用・賃金面は、2025年度の賃金設定について「現時点では競合他社の動向を見極めており、賃上げ率を固めていないとの企業の声や、中小企業を中心に、収益面の厳しさから慎重な姿勢を示す声も引き続き報告された」と明記。同時に「構造的な人手不足のもと、最低賃金の引き上げもあって、継続的な賃上げが必要との認識が幅広い業種・規模の企業に浸透してきているとの報告が多かった」とまとめた。

 日銀の植田和男総裁は、昨年12月25日の講演で「中小企業の賃上げに向けた動きについては、私どもの本支店ネットワークも活用しながら確認していきたい」と述べていたが、賃上げ率を固めていない企業の声や賃上げに慎重な声が支店長会議で出ていたことが紹介されており、少なくとも1月の決定会合で利上げを判断する際に、賃上げ面で条件を満たしていると判断するのは難しいと筆者は考える。

 

 <トランプ次期政権、国家経済緊急事態の宣言検討も>

 また、昨年12月の決定会合後の会見で、植田総裁は利上げを見送った理由として、春闘での賃上げのモメンタムなど賃金動向でもう少し情報が欲しいと述べるとともに、米国の次期政権の経済政策を巡る不確実性が大きいことも挙げていた。

 そのトランプ政権の関税政策をめぐり、導入予定の関税に法的根拠を与えるため、次期政権は国家経済緊急事態の宣言を検討しているとCNNが8日に報道した。

 9日の日経平均株価はトランプ関税の影響が大きめに出る可能性を嫌気して一時、前日比500円を超す下落となる場面もあった。

 もし、20日に大規模な新規関税の賦課が公表された場合、その経済的な影響がどのように世界経済や日本経済、日本企業に波及するかを短期間で判断するのは困難だろう。

 

 <利上げよりも現状維持に軸足の可能性>

 このような現下の情勢を総合判断すると、今の時点で日銀は利上げよりも現状維持に軸足を置いているのではないか、と予想する。

 ただ、150円台後半からさらに円安が進展した場合、輸入物価の上昇幅が大きくなったり、24年の大幅な賃上げの結果として輸送コストなどが上がりだしていることを理由に最終消費財やサービス価格の値上げが活発化することも想定される。

 日銀が1月会合でどのように決断するのか、その際のプラスとマイナスの両面の比較衡量がどうだったのかに関心が集まると予想する。

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