一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

日銀は1月利上げに傾斜へ、トランプ政策発表後に市場大変動なら見送りも

2025-01-16 14:25:10 | 経済

 日銀は1月23、24日の金融政策決定会合で利上げを決断する方向に傾斜しているもようだ。ただ、20日に予定されているトランプ次期米大統領の就任式直後に関税引き上げなどの大統領令が出され、金融市場が大荒れになった場合は利上げが見送られ、政策維持を決断してマーケットの鎮静化を待つことになるとみられる。その意味で今回の1月会合は「ライブ」と言ってよい状況だ。

 

 <市場の1月利上げ織り込み、80%に上昇>

 16日の東京市場では、1月会合での利上げ織り込みが80%まで上昇している。日銀の植田和男総裁が15日、全国地方銀行協会の会合で1月会合において「利上げを行うかどうか議論して判断する」と述べた。複数の市場関係者は、この発言を重視して市場の織り込みが高まった。筆者も日銀が市場の織り込み度合いを高めるために用意した「発言」と指摘したい。

 また、16日にブルームバーグが1月会合での利上げを決める公算が大きいと報道したことも材料視され、前日の74%の織り込みから80%台に上昇した。

 

 <今年の賃上げ、支店長会議の報告や経営者の発言で手応え>

 ここにきて日銀内で利上げに関して「機が熟してきた」というムードが高まった背景には、今月の支店長会議で今年の賃上げに関して前向きの内容の報告が多く、年初の企業経営者の発言からも前年並みの賃上げ実現に積極的な見方が多く、利上げへのハードルの1つだった賃上げへの手応えが高まってきたことがある。

 また、もう1つの懸念材料だった米経済の動向についても、昨年8月時点のような失速懸念は消え、トランプ政権に移行後も米経済は底堅く推移し、日本経済にとってもプラスに働くという見方が強まっているという。

 さらに賃金コストをサービス価格に転嫁していく動きも順調に進み、基調的な物価上昇率が日銀の想定通りに緩やかに上昇している点も確認され、経済・物価の見通しが日銀の見通し通りに推移しているとの確信も深まってきたようだ。

 石破茂政権の発足後、時期尚早の利上げはデフレ懸念の払しょくにマイナスとの指摘が出ていた政府内でも、足元では日銀の利上げに反対する声は小さくなっている。赤沢亮正・経済再生相は14日に「日銀に金融政策の具体的な手法は全て任せている」と述べていた。

 

 <トランプ氏の具体的政策の公表、現時点で未知数>

 ただ、不透明感が払しょくできない点もある。20日に大統領に就任するトランプ氏がどのような政策を具体的に打ち出すことになるのかわからないことだ。

 20日に何種類かの大統領令を出すという事前報道が散見されるものの、具体的な内容はいまだにはっきりしない。仮に昨年の米大統領選の最中にトランプ氏が発言していたメキシコ、カナダに25%の関税を賦課するとの大統領令が出た場合、それをマーケットがどのように判断するのかは今のところ、全く未知数だ。

 

 <トランプ関税の発表後、市場変動が大きければ利上げ見送りも>

 日系メーカー4社がメキシコで生産して米国に輸出している年間77万台の自動車の輸出が、この関税で事実上ストップするようなら、日本の自動車メーカーの株価に及ぼす打撃は大きくなるだろう。今のところ、株式市場でトランプ関税に関する具体的な織り込みが進んでいないためだ。

 上記の事態が発生する確率は事前に算定できないものの、自動車株を中心に日本株が大幅に下落し、市場心理が急速にリスクオフへと変化するような事態になれば、日銀の利上げは見送られて事態の推移を静観することになるだろうと筆者は予測する。

 20日の米大統領就任式以降、トランプ氏からどういう情報が流れ、世界と日本の市場がどのように反応するのか予測するのは困難だ。

 その意味で、23-24日の金融政策決定会合は「ライブ会合」になる。これから24日までは、トランプ氏の打ち出す政策に関連した情報に市場が一喜一憂する「じりじり」とした展開が続きそうだ。

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再送:24年の訪日外国人が過去最高の3686万人、4000万人達成に不可欠な地方都市のアピール

2025-01-16 05:39:00 | 経済

 一部のデータを更新しました。

 2024年の訪日外国人客数が3686万人と過去最高を記録した。特に第4四半期(10-12月)は998万人超となり、このペースで増加すれば政府の目標の年間4000万人に手が届くところまできた。円安基調が止まらない中、外国人観光客の増加は足元で見える日本にとっての数少ない光明と言えるだろう。

 ただ、東京や大阪、京都など「超有名観光地」に外国人観光客が集中する傾向を是正しないと、足元の増勢が砂上の楼閣になりかねない。ニューヨークタイムズが富山市を「混雑を避けて文化的な感動と美食を楽しめる」と評価したような「混雑していない行くべき価値のある観光地」を政府が多くの外国人観光客に知らせるイベントが必要なのではないか。ネットを駆使した行くべき観光地の「総選挙」などを政府が企画してみてはどうだろうか。

 

 <10-12月だけで998万人、年間4000万人達成も視野>

 日本政府観光局が15日に発表した2024年12月の訪日外客数は、前年同月比27.6%増の348万9800人と2024年年10月の331万2193人を上回り、単月として過去最高を記録した。また、24年の年間訪日外客数も前年比47.1%増の3686万9900人で、2019年の3188万2049人を上回り年間の過去最高を更新した。

 このうち10-12月期は998万8800人となり、25年にこのペースで外国人訪日客数が伸びれば、年間で4000万人を達成する可能性も出てきた。

 

 <京都市の宿泊税引き上げ、税収が2.4倍の126億円に>

 観光庁が15日に発表した訪日外国人の2024年10-12月の消費額は、前年同期比で1.4倍の2兆3108億円、2024年累計で8兆1395億円と23年の2兆8330億円を上回り、過去最高となった。

 円安による食品価格の上昇など国内物価の上昇は日本全体の消費を抑制する力を見せているが、一方で外国人観光客の増加と1人当たり消費の増加で、国内総生産(GDP)を押し上げる要因になっている。

 また、京都市が14日に発表した宿泊税の引き上げには賛否が交錯しているものの、宿泊税収は現行の2.4倍の126億円になると見積もられており、財政難に悩む地方自治体にとっては有望な税源になりうることが示されている。

 

 <浮上するオーバーツーリズム、NYTの記事で注目される富山市>

 ただ、京都市が宿泊税の引き上げ理由にしているオーバーツーリズムの問題は、訪日外国人客数の4000万人達成のためには、どうしても解決しなければならないだろう。京都市には日本人も含めて年間5028万人が訪れており、有名観光地への集中の是正を実行するアイデアが欠かせない。

 そこで筆者が注目するのは、ニューヨークタイムズが毎年発表している世界で「行くべき場所」というランキング記事だ。2025年は富山市が30位、大阪市が38位に選ばれた。富山市は「混雑を避けて文化的な感動と美食を楽しめる」と指摘され、「富山市ガラス美術館」や「おわら風の盆」で知られる富山県八尾市が紹介された。

 

 <きらりと光る地方都市、ネットで選ぶ「総選挙」イベントを実施すべき>

 ニューヨークタイムズは同じ企画記事で、2023年に山口市、24年に盛岡市を選んでいる。このコンセプトが実は、今後の日本のインバウンド振興に欠かせないピースではないかと考える。観光客が集中せずにゆっくりと過ごせることができるという点と、見るべき自然や鑑賞できる文化的施設、おいしい料理があるということが両立している「きらりと光る」地方都市を再発見するということが重要だと指摘したい。

 そのような地方の「宝物」を探し出すためのイベントとして、日本政府観光局などが「混雑していない行くべき観光地」をネット経由で選び、総選挙スタイルでランキングするというのも1つの手法ではないかと思う。

 そこで集まった情報をSNSで拡散すれば、相当のインパクトがあると予想され、人口減少に悩む地方都市の再浮上にもつながると提案したい。

 外国人観光客が年間4000万人も日本に来る時代の到来は、大きなチャンスがやってくることだと多くの国民が捉え、多彩なアイデアを出して地方の再生につながる動きになって欲しい。

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