一歩先の経済展望

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連動する日米長期金利上昇、3つの楽観的シナリオ崩れれば大波乱の展開も

2025-01-08 14:53:22 | 経済

 8日の東京市場で、日本国債の10年長期国債利回り(長期金利)は1.175%と2011年7月以来、13年半ぶりの高水準まで上昇した。米長期金利がトランプ次期米大統領の政策を意識して一時、8カ月ぶりの高水準となる4.69%まで上昇したことが影響した。短期的には米長期金利が4.75%まで上がれば、日本の長期金利も1.2%まで上昇するとの声が多い。

 だが、1月20日以降にトランプ氏が繰り出す関税政策は結果的には「穏便な」線で収まるとの楽観論が主流の東京市場の期待が裏切られ、大幅な関税引き上げが日本企業にとって大きな打撃になることが判明すれば、日本株の大幅な下落を招き、日本の長期金利にも強い下押し圧力がかかると筆者は予想する。日本の長期金利上昇の行方は「トランプ関税」が握っていると考える。

 

 <米長期金利、トランプ政策への懸念で上昇>

 8日の日本の長期金利上昇は、米長期金利の上げの影響を強く受けた結果と言える。円債市場で独自の材料はあまりなく「米金利につれ高した」(国内銀関係者)との見方が多かった。

 7日のNY市場では、12月の非製造業総合指数が54.1と11月の52.1から上昇。市場予想の53.3も上回り、インフレの強まりに対する懸念が浮上した。特に投入価格指数が11月の58.2から64.4に急上昇し、需要の強さが市場の注目を集めた。

 米長期金利上昇は、この指標だけでなく、トランプ氏が採用するとみられる大規模減税の実施による米財政収支の悪化とリスクプレミアム上昇や、関税引き上げによる米国内の物価上昇など「インフレ刺激的」なトランプ氏の政策効果への懸念が背景にある。

 

 <弱い雇用統計でも、20日まで米長期金利が低下しない公算>

 複数の市場関係者によると、1月20日の大統領就任と同時に発表が予定されている広い分野における大統領令の内容を見極めるまでは、米長期金利が低下する可能性は低いという。

 仮に10日発表の12月米雇用統計で、非農業部門の雇用者数が市場予想の16万人増より弱い結果になったとしても、20日以降に発表されるトランプ氏の政策を確認するまでは米国債買いは手控えられ、金利低下の動きは極めて限定的になるとみられている。

 

 <東京市場に存在する3つの楽観論>

 市場の一部では、米長期金利が4.75%付近まで上昇した場合、日本の長期金利は1.2%まで上がると予想する声が多い。中には1.25%まで上昇すると予想する見方も出ている。

 ただ、この予想には20日の大統領就任式の当日に対カナダや対メキシコの関税を25%に引き上げるという決定はなく、交渉を有利に進めるための「条件」に使われて、結果的に市場を震撼させるようなドラスティックな関税引き上げは回避されるとの見方が前提になっていると指摘したい。

 また、石破茂政権にとって大きな関門となる2025年度予算案も、国民民主党か日本維新の会ないし両党の賛成で3月2日までに衆院を通過し、3月末までに自然成立するとの予想が市場の多数派を形成している。

 さらに今年の春闘における3月の集中回答日には、昨年並みの5%台の賃上げが提示されるとの予想が市場では多い。

 この結果、市場における日銀利上げの予想は1月会合が48%、3月会合までに0.25%ポイント上げるとの予想が80%となっており、それを前提に米長期金利が上がれば日本の長期金利も上がるとの予想が成り立っている。

 

 <対メキシコ関税実施なら、日本の自動車株に下落圧力>

 しかし、上記で挙げた3つ予想は、3つともに楽観的に過ぎると筆者は考える。1つ目の過激な関税引き上げはないという予想は、関税という手段を駆使して現在の経済現象を大幅に変更しようというトランプ氏の「強い意志」を過小評価している。

 20日にカナダとメキシコを対象にした25%の関税賦課が発表される可能性はかなり高いと予想する。当欄で何回も指摘しているが、メキシコにある日系メーカーからの対米自動車輸出は年間で約77万台に上る。これに25%の関税がかかれば、事実上、輸出は全面的にストップすることになる。

 もし、25%の関税賦課のニュースがマーケットに伝われば、日本の自動車株は大幅に下落し、日経平均株価も大きく下げると予想する。

 また、日本政府が実行できる有効な手立てはほとんどないとみられ、関税賦課の期間が長期化すれば、日本の自動車メーカーや関連する産業に多大な影響が発生する。

 このケースでは、日本の長期金利は株安を受けて低下幅を大きくするだろう。

 

 <今年の春闘、トランプ関税実施なら5%賃上げ遠退く可能性>

 また、自動車メーカーの経営への打撃は、春闘の賃上げ交渉にも波及し、全体で昨年並みの5%台の賃上げ実現は遠退くと筆者は予想する。自動車産業は製造業の中核であり、他の製造業の経営者の心理にもマイナスの波及があると考えるからだ。

 このシナリオが現実化する場合、日銀の利上げ戦略にも影響が出るとみるのが合理的だろう。1月に40%、3月に80%という利上げ織り込みはどこかの時点で大きく修正されるのではないか。

 

 <市場が想定していない予算案の衆院否決、現実化なら衆院解散へ>

 2つ目に挙げた予算案の衆院通過は、多くの市場関係者が考えているよりもハードルが高いと予想する。7月と予想される参院選を前に、国民民主党と日本維新の会ともに与党に対して「安易に妥協した」と有権者の目に映れば、選挙で「痛い」審判を受けかねないという制約があるからだ。

 例えばの話だが、両党との予算修正協議が不調に終わり、立憲民主党と与党との協議も合意できなければ、予算案が衆院で否決される事態も可能性がゼロとは言えなくなる。

 衆院で否決された場合、石破首相は衆院解散も選択肢の1つとメディアの取材に答えており、日本では前例のない長期暫定予算の下での衆院選という展開も、1つの可能性としては想定できる。

 多くの市場関係者は、ここまでの「大動乱」を予期していないようだが、このケースでは、株価の大幅下落と長期金利の低下、円安の進行が同時に起きているかもしれない。

 

 8日に記録した13年半ぶりの日本の長期金利上昇は、市場の楽観的な見通しを前提にした現象であることをあらためて指摘したい。2025年の内外情勢は、多くの市場関係者の想定を超えて大きく振幅する可能性がある。

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