トランプ氏が20日正午(日本時間21日午前2時)からワシントンで第47代米大統領の就任式に臨む。その後、200件超の大統領令に署名するとみられているが、注目はトランプ関税の動向だ。交渉の「駆け引き材料に使うだけ」との観測も依然として少なくないが、筆者は同盟国・日本に対しても関税をかけてくると予想する。その結果、中期的には米国株が上昇して日本株も上がるという「つれ高」は姿を消し、日米株価はデカップリング(分離)するだろう。日本と世界の経済にとって初めて目にする現象がこれから多発すると予想する。
<就任直後の大統領令は200件以上に>
FOXニュースによると、トランプ氏は初日に200件以上の大統領令に署名するという。トランプ氏は19日の集会で、厳しい移民制限の導入や政府文書の過剰な機密化の撤回などに言及。政府と民間部門全体における多様性、公平性、包摂性に関する要件の撤廃も実行するとした。大統領就任後にミサイル防衛システム「アイアンドーム」の建設に着手するよう軍に指示するとも述べた。
その一方で、関税に関する具体的な言及はなかった。こうした点も材料視され、20日の東京市場では日経平均株価が一時、前週末比500円超の上昇となる場面があり、値上がり銘柄が多数になる買い戻し相場となった。
<外国歳入庁に見られるトランプ氏の関税引き上げへの執念>
だが、トランプ氏は米国の貿易赤字が米国以外の世界に経済の成長と繁栄をもたらしているとの強固な考えを持っており、今月14日には外国から関税などを徴収する「外国歳入庁」を20日に設立すると表明。「貿易でわれわれから金をもうけている外国の人々への課税を始める。彼らはようやく公平な負担を支払うことになる」と述べていた。
実際、共和党の政策綱領では「貿易のリバランス」の項目の中で、米国の貿易赤字の解消を主張している。この項目はトランプ氏の意向が強く反映されたと米国内の識者の中では見られている。
<日本の対米輸出は8.7兆円、34%を占める自動車・同部品に高関税賦課も>
2023年の米国の貿易赤字は1兆0621億ドル。赤字額が大きい順に中国、メキシコ、ベトナム、ドイツとなって日本は5番目にランクインしている。米商務省のデータでは、赤字額は716億ドルにのぼる。
日本の通関統計によると、2023年の対米貿易黒字は8兆7047億円。輸出額は20兆2601億円に達する。そのうち自動車が5兆8439億円と全体の28.8%を占める。これに自動車部品の1兆0757億円を加えると、全体に占める割合は34.1%になる。次に一般機械が4兆7957億円(23.7%)、電気機器が2兆6338億円(13.0%)と続く。
日本貿易振興機構(JETRO)が今月15日に発表したリポートでは、最恵国(МFN)税率が輸送用機械で平均3.4%、機械で1.3%、電気機械・電子機器で1.2%となっており、追加関税が課せられれば「対米ビジネスを行っている企業の利益は圧迫されるおそれがある」と指摘。特に「自動車は米国での現地生産よりも、日本からの輸出の方が利益率は高いともされ、影響が懸念される」と指摘している。
<日米TAG、関税賦課の防波堤になるとの見方も>
ただ、日米間には2018年に締結された「日米貿易物品協定」(TAG)が存在し、当時の安倍晋三首相は日米共同声明で「協定(TAG)が誠実に履行されている間は、同協定及び本共同声明の精神に反する行動を取らない」とされたことを踏まえて「日本の自動車・自動車部品に対して 米通商拡大法232 条に基づく追加関税は課されないことを直接トランプ大統領に確認した」と述べていた。
つまり、TAGが存在している限りは「トランプ2.0」で国際緊急経済権限法(IEEPA)を基に全世界に一律の10-20%の関税賦課を決めたとしても、日本は適用除外になりうるという解釈が可能という法的立場を主張する根拠があるということだ。
政府部内には、この点を背景に日米間では関税交渉を先送りできるとの見方もあるようだが、トランプ新政権がTAGの破棄を一方的に通告してきた場合、日本側に有効な対抗手段があるとはみえない。
<トランプ関税が自動車直撃なら、打撃が鉄鋼や化学にも波及へ>
また、トランプ氏が20日に対メキシコ、対カナダで25%の関税賦課を打ち出した場合、その実施日をいつにするのか、という問題は残るにしても、メキシコから米国に輸出している約77万台の日系4社の自動車生産に大きな影響が出ることは避けられない。
上記で説明してきたような日本国内で生産して米国に輸出している自動車の生産(148万台強)に対し、打撃が生じるリスクはかなり高まってきている。
対米輸出の4割を占める自動車は産業のすそ野が広いだけに、生産台数が減少すれば、鉄鋼や化学などの関連する産業にドミノ的にマイナスの効果が波及することになり、国内産業の受ける影響は広範かつ甚大になる危険性もある。
<中国にも高関税賦課なら、日本企業の対中ビジネスにも深刻な影響>
このように考えると、トランプ関税の影響は、日米二国間に限定して考察しても、米国に利益が吸い上げられて日本企業の収益水準が下押しされるということが予想される。米企業の景気が良くなって中間財や最終消費財の対米輸出が増えるかに見えても、トランプ関税が障壁となって日本企業の収益には大きな制約が発生することになり、結果として日米株価のつれ高という現象は起きないということになりかねない。
さらにトランプ関税の悪影響が中国を直撃すれば、対中ビジネスの環境も大幅に悪化し、この分野での日本企業の収益も打撃が生じるだろう。
市場の一部には、トランプ氏が早期の訪中を希望していたり、米中首脳の電話会談が実現したことを根拠に対中のトランプ関税は実効性が低い内容になるとの楽観論が存在するようだ。だが、その期待はいずれ裏切られて一定程度の関税賦課が実行され、中国経済の成長率が目に見えて減速するシナリオの現実性はかなりあると予想する。
<注目される21日の市場動向>
冒頭に指摘したように、貿易赤字の削減が米経済の発展につながるというのはトランプ氏の確固とした信念であり、経済的に合理性が乏しいといくらトランプ政権の外側にいる専門家が指摘しても、何ら影響力を持たないからだ。
日本時間で21日以降、マーケットがどのような反応を示すのか、波乱の2025年の先行きを占う上で最初の節目となると指摘したい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます