3連休明けとなった14日の東京市場は、米長期金利の上昇と米株下落の影響を受けて株安と日本の長期金利(10年最長期国債利回り)上昇が目立つ展開になった。市場の最大の関心は20日に就任するトランプ次期米大統領の関税引き上げに集まりつつあり、この日の日本株下落の背景に米関税引き上げによる日本企業への打撃を懸念する見方がくすぶっている。
ただ、マーケットは「トランプ関税」の全容が判明していないため、株価への本格的な織り込みがかなり遅れており、仮に20日の就任式と同時にメキシコやカナダへの25%の関税賦課が公表された場合、日本株への影響も広範になる可能性がある。14日に講演した日銀の氷見野良三副総裁は、トランプ氏の政策に関し「来週の就任演説で政策の大きな方向は示されるのではないか」との見方を示しており、20日の政策方針の表明内容によっては、日銀の金融政策判断にも大きな影響を与えそうだ。
<日経平均が4日続落、トランプ関税への漠然とした不安感>
14日の日経平均株価は4日続落し、前週末比716円10銭(1.83%)安の3万8474円30銭で取引を終えた。米政府が13日、中国やロシアなど戦略的に対立する国などを対象に人工知能(AI)向け先端半導体と技術輸出を一段と制限する規制案を公表したため、半導体関連株などを中心に下落する銘柄が増えた。
ただ、下落対象が半導体関連に限定されなかったのは「20日のトランプ氏による関税引き上げへの影響を懸念する声が広がってきたためだ」(国内金融機関)との声が出ている。
複数の市場関係者によると、トランプ関税の全容が判明していないため具体的な対象業種などを念頭にした織り込みはほとんど進んでいないもの、漠然とした不安感を背景に日経平均株価が4日続落している大きな要因にトランプ氏の政策への懸念が存在しているという。
<米長期金利上昇、VAR採用の国際基準行は日本国債買いに慎重>
同様の現象が長期金利でも顕在化している。14日に日本の長期金利が2011年4月以来、約13年9カ月ぶりに一時、1.250%まで上昇したのも米長期金利の上昇が背景にある。
米長期金利は13日のNY市場で一時、2023年11月以来となる4.799%まで上昇。この上昇が内外金利のリスクを一体管理するValue at Risk(VAR)を採用するメガバンクなどの国際統一基準金融機関(国際基準行)の日本国債買いを抑制し、長期金利の上昇圧力を加速させていると複数の関係筋は指摘する。
<20日にトランプ関税発動の公表なら、米長期金利が5%目指す展開も>
米長期金利の上昇は、10日に発表された12月米雇用統計で、非農業部門雇用者数が25万6000人増と市場予想の16万人増を上回り、市場の米連邦準備理事会(FRB)による年内の利下げ織り込みが1回程度に急低下したためだ。
だが、トランプ大統領の関税引き上げや不法移民の強制送還が実行されれば、物価上昇を加速させて利下げがゼロないし、どこかで利上げに転換するのではないかとの疑念が市場でくすぶっている。20日に何らかの関税引き上げ実施が大統領令で即日実施となれば、米長期金利が5%に向けて上昇する公算が大きくなると多くの市場関係者が予想。そのケースでは日本の長期金利が1.3%台に乗せるとの見方もある。
さらに金利上昇に敏感なIT銘柄を中心に米株が大幅下落するとみられ、その影響が日本株にも波及しそうだ。
<日経平均株価の急落時、注目される新NISA利用者の対応>
ここにきて東京市場の一部の関係者は、相場上昇のけん引役だった新NISA(少額投資非課税制度)の買い手の心理に悪影響が出るシナリオの出現に神経をとがらせている。新NISAによるニューマネーの流入で株価が押し上げられる流れが強く意識され出した昨年2月初め、日経平均株価は3万6000円台前半で推移していた。
もし、トランプ関税のショックによって一時的に日経平均株価が3万6000円を割り込んだ場合、ほとんどの新NISA購入者が損失を抱えることになり、一部の購入者は損益がマイナスになる前に売却することも想定される。
つまり、トランプ関税の全容が明らかになって日経平均株価が急落し、3万6000円前後まで落ち込むと市場心理が急速に悪化して、下落テンポが加速する可能性もあるということだ。
<1月利上げ、60%の可能性を織り込む市場>
株価の急落は、日銀の金融政策判断にも影響する、と筆者は予想する。14日現在で市場は1月利上げを15ベーシスポイント(bp、60%)織り込んでおり、一部の市場関係者は氷見野副総裁が講演の中で、23-24日の金融政策決定会合において「利上げをするかどうか政策委員の間で議論し、判断したい」と述べたことで、1月利上げへの「地ならし」と受け止めたようだ。
ただ、氷見野副総裁の講演や会見での発言によって、市場における利上げ予想に変化はなかったが、外為市場や株式市場など円債市場以外の関係者の注目を集めたのも確かなようだ。
<トランプ氏の政策公表後、株価の大幅下落など変動あれば日銀の判断に影響>
同時に氷見野総裁は「来週(20日)の(トランプ氏の)就任演説で政策の大きな方向は示されるのではないか」とも述べている。政策判明後に東京市場だけでなく、グローバルに株価下落が連動して発生し、市場心理が「リスクオフ」に傾けば、昨年8月の市場変動ほどに大変動しなくても市場の変動率の上昇の行方を見極めたいとの理由で利上げを見送る可能性があると予想する。
トランプ氏の打ち出す政策が大きな波乱を巻き起こすのかどうか、世界の市場関係者だけでなく主要国の政策当局者も大きな関心を持って見守っているのではないか。
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